第215話 躍動する剣
ツクヨから魔剣ドラゴンスレイヤーの話を聞いた俺は、彼女と別れて自室に戻った。
「ずいぶん嬉しそうね」
「そう思う?」
部屋に戻るなりシルフィーが話しかけてきた。
彼女は相変わらず俺の肩に乗っかっている。
「ええ。ヘルメスってば、ダンジョンを前にするといっつも子供みたいに笑うもの」
「そんなに露骨かな……?」
「自分じゃ判らないものよ。それより、あの剣を使って何をするの? ダンジョン攻略?」
「さすがシルフィー。俺のことを解ってるね。その通りだよ。この魔剣があればあのボスも倒せるかもしれない」
なんせドラゴンに有効な武器だ。
ドラゴンスレイヤーって名前でまったく役に立たなかったら困るぞ。
「負けるかもしれないじゃない」
「その可能性がゼロとは言えないけど、レベル的に逃げることはできる」
「ふーん。あくまで行くと。……しょうがないわね。いざとなったら私が手伝ってあげるわ」
「ありがとうシルフィー。もう一人くらい妖精がいれば、いろいろ戦法も変わってくるんだけどねぇ」
「……は? 私以外にも妖精を囲おうとしてるの? 変態!」
「え?」
あまりにも理不尽な怒りをちょうだいする。
今の発言のどこに変態要素があったのだろうか。
「別にいかがわしい理由じゃないと思うけど……」
「妖精は女性しかいないのよ! つまりハーレムじゃない!」
「あー、なるほど」
それは今、初めて知ったよシルフィー……。
「そっか、妖精は女性しかいないんだ。理由は知ってる?」
「え? さ、さあ……やっぱりあれじゃない? 自然や魔法を操る私たちは清らかな乙女……的な?」
「清らかな乙女(笑)」
バシーン!
シルフィーに殴られた。
俺は彼女と契約を交わしてるから、物理的に干渉されてしまう。
「い、痛いよシルフィー……意外と筋力あるんだね……」
「嫌な言い方しないでちょうだい」
「パワーはいいよパワーは。相手を物理的に捻じ伏せられる」
「あんたって意外と歪んでるわよね」
「失礼な」
言っていい事とダメな事はあるんだぞシルフィー。
俺は至って平凡な人間だ。
「はいはい。失礼なんでもなんでもいいけど、うるさいから早く寝なさい。どうせ明日にでもダンジョンに行くんでしょ」
「…………そうだけど」
図星だった。
俺はドラゴンスレイヤーを手に入れて、一日もダンジョンを我慢できない。
シルフィーはこれまでの付き合いでそれがよく解っていた。
欠伸をしながら先に布団の中にもぐる彼女を見送り、俺もまた欠伸を漏らす。
部屋の明かりを消すと、どんな方法であのボスモンスターを倒そうか真剣に考え始めるのだった。
▼△▼
翌日。
ばっちりと休息を取った俺は、朝食を摂って外に出る。
装備をまとってやる気まんまんでダンジョンに向かった。
「さあ、今日はあのボスモンスターを倒してレベル上げだ! もしかするといいアイテムが手に入るかもしれないね」
「勝てない可能性もあるわね」
「そういうことは言わないのがお約束だよ」
シルフィーにしっかりと突っ込みを入れてダンジョンに入る。
昨日と同様にたくさんの竜が俺のもとへ襲いかかってきた。
試しに普段使ってる武器ではなく、新たに手に入れたドラゴンスレイヤーを使う。
——スパッ!
「おお!」
何の抵抗もなく竜の体を両断した。
ものすごい斬れ味だ。
触れたときに何の感触もしなかった。まるで空気を斬っているかのよう。
「これが剣そのもののスペックなのか、ドラゴンスレイヤーとしての効果なのか。それによって今後の得物も変わってくるね」
基礎スペックが高いなら、今後もこの剣を使っていきたいところだ。
個人的に柄というか見た目が割と好き。
悪役の黒騎士っぽくはなるが、男は誰だって黒とか赤が好きなんだ。しょうがない。
「……ん? なんか剣が赤く光っているような……」
ドクンドクン、と剣が脈打っていた。
気持ち悪くはない。不思議な魅力がそこにある。
それに、本当に脈打っているわけではない。
そういう風に見えるってだけだ。
ドラゴンの血を吸ってわずかに赤く光っている。
「もしかして……竜を殺すほどに強くなる武器、とか?」
それなら先ほどの斬れ味が基礎スペックに入る。
今後、このダンジョンを出ても使える。
「もう少し試し斬りしてからボスいくか」
ちょっと検証がしたくなった。
ゲームみたいにステータス画面が見えるわけじゃないから、どれだけ斬ってもあんまり効果を実感できないとは思うけど。
ダンジョン内を飛び回るドラゴンを次から次へと討伐していく。
竜を斬る度にやはり剣は赤く光った。
相手が弱すぎて剣が強くなったかどうかはわからないが、この現象に必ず意味があると俺は信じている。
そのまましばらくドラゴンを狩ったあと、検証をやめてボスのエリアへと足を運んだ。
これからボス討伐が始まる。
———————————
あとがき。
新作
『原作最強のラスボスが主人公の仲間になったら?』
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