第214話 魔剣
東の大陸にある『竜の渓谷』から里に帰還する。
先ほどまでずっと四方八方をドラゴンに囲まれていたため、急に人里に戻ってくると落ち着く。
命を奪われる危険性がかぎりなくゼロに近いから。
「は~……なんだか意外と疲れたね」
「そりゃあドラゴンとばかり戦ってたら疲れるわよ。普通に帰ってくるアンタがおかしいだろうしね」
「シルフィーは相変わらず俺のことを化け物かなんだと思ってる?」
「どちらかと言うと悪魔かしら」
「悪魔……」
それはこれまでの行いに対する侮蔑だろうか?
シルフィーだって楽しそうにしてたからいいじゃん。
たまに狩りを十時間くらい楽しむのも、人として当然の感情だ。
誰だってやってるよ、知らないけど。
ぶつくさと文句を言うシルフィーと共に竜の里の門をくぐる。
里の一番奥に居を構えるツクヨの屋敷へ向かうと、すでに彼女は居間で俺たちのことを待っていた。
給仕の女性に案内され、ツクヨの前に座る。
「いやぁ、すみません、ツクヨさん。帰ってそうそう話があるなんて言って」
「いえ、仕事は片手間でもできる程度のことばかりです。それに比べたら、救世主であるルナセリア公子様のお話を聞くほうが何倍も優先されるべきかと」
「救世主様……ツクヨさんもそう呼ぶんですね」
さすがにそれは恥ずかしかったりする。
だが、彼女はくすりと笑って言った。
「それはもう。実際にルナセリア公子様以外には現状、迫りくる危機を打ち破れる者はおりませんから。……それで、お話とは?」
雑談もそこそこに本題に入る。
俺はダンジョンから持ち帰ったむき出しの剣をテーブルの上に置く。
もちろん刃を包んでいた布を敷いてから置いた。
ツクヨの視線がそちらに落ちる。
「これは……」
「竜の渓谷で見つけた武器です。俺は何も知らないので、もしかするとツクヨさんが何か知ってるかなと思って」
「黒い剣……たしかに見覚えはありますね。見覚えというより、黒い剣という情報をどこかで見たような……」
「本当ですか!?」
やっぱり俺の勘は的中した。ツクヨなら何か知ってると思ってたよ。
やや前のめりに彼女の答えを待つ。
するとツクヨは、少しだけ思考を巡らせたあと、何か思い出したかのように手を打つ。
「あ、そうです。竜殺しの魔剣ドラゴンスレイヤーですよ!」
「竜殺しの……魔剣?」
なんだかものすごく仰々しい名前が出てきたぞ。
まさに竜の里っぽい感じだ。
「はい。かつて黒き竜を封印した英雄が持っていた武器です。家に置いてあった資料にそのことが書いてあったような……」
うんうん、と彼女は頭を捻るがそれ以上の情報は出てこなかった。
「申し訳ありません、ルナセリア公子様。なにぶん資料の数が多く、最後に見たのもかなり前でしたので……すぐに探してみますね」
「いいですよ。それくらいなら俺がやります」
この剣を持ってきたのは俺だ。
彼女の仕事を止めてまでお願いするのは違う。
だが、ツクヨは首を横に振った。
「平気です。わたくしが探したほうが早いと思いますし、ルナセリア公子様の時間は貴重。それを奪うのは本意ではありませんから」
「べ、別にそこまでじゃ……」
「お任せ、ください」
「…………はい、よろしくお願いします」
ツクヨの圧に負けて下がる。
彼女の役に立ちたいオーラは凄かった。
「ありがとうございます。こんなことでしか役に立てないのですから、頑張りますね!」
グッと拳を握り締めるツクヨ。
俺はそんなこと思っちゃいないよ……でも、本人がやる気まんまんだし、水は差さないでおいた。
すぐに彼女は居間を離れてどこかへ行く。
前に竜玉を保管してあったところかな?
俺は彼女からの速報を待つことにした。
▼△▼
休憩を挟んで夕食時。
ギリギリまで粘って調べてくれたと思われるツクヨが、面白い話を持ち帰ってきた。
「ルナセリア公子様! あの黒い剣の詳細が判明しました!」
「本当ですか、ツクヨさん」
「はい! 調べた結果、やはりあの黒い剣は竜を封印した英雄の武器、魔剣ドラゴンスレイヤーで間違いないようです」
どこか興奮した様子でツクヨは続ける。
「それによると、あの剣は竜に対する特殊な効果を持っているとか。詳しい内容までは書いてありませんでしたが、黒き竜にダメージを与えられたのはその武器のおかげだと」
「竜に対する特殊な効果……」
それはまた今の状況に適した武器が見つかったものだな。
まるで、これを使って黒き竜を倒してくれと言わんばかりだ。
「他にも、通常の武器としての性能も恐ろしく高いそうです。そもそもその剣は、かつて古に存在した龍の素材で造られているとか」
「龍の素材で?」
実に興味深い話だった。
つまりこれは、ダンジョンで生まれた武器ではなく、かつての英雄があそこに隠しておいたものなのか?
何のために?
相応しい英雄が見つけてくれることを祈る、的な?
だったら最初から宝物庫にでも入れておけよ! めんどくせぇ。
しかし、ツクヨの話が本当なら、この剣を使えばあるいは……。
「あのドラゴンを倒すこともできる、か?」
脳裏に浮かんだのは、竜の渓谷にいたあの大きなボスだった。
———————————
あとがき。
新作
『原作最強のラスボスが主人公の仲間になったら?』
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