第213話 隠し武器?

 大きなドラゴンに吹き飛ばされた先で、隠し通路のようなものを見つけた。


 がらがらと崩落した壁の先にあったのは、大人がひとり通れるくらいのスペース。


 腰を擦りながらそちらへ歩いていくと、少しして、ひらけた場所に出る。


 なぜか中央には、ひと振りの剣が地面に刺さっていた。


 まるで物語に出てくる選定の剣のように。


「……なんだこれ。エクスカリバーか何かか?」


「エクスカリバー? 何それ」


「俺の故郷に伝わる伝説の剣だよ。魔法の剣って呼ばれてる」


「魔法の剣!? それは私たちにピッタリじゃない!」


 シルフィーが急に興味を示した。


 だが、残念ながら外見も特徴も俺が知るエクスカリバーとは一致しない。


 ネットで拾ったことのある画像だと、エクスカリバーはかなり地味だ。


 剣身はこんな真っ黒じゃない。


「たぶん違うと思うよ。普通の剣とあんまり見分けつけないはずだから、そのエクスカリバー」


「えー? 違うの? 残念」


 シルフィーの興味も薄れた。


 しかし、この剣がただの剣とも思えない。


 こんな隠し通路に置いてあるんだ、少なくとも貴重なアイテムなのは確定だろう。


「まあ、そうショックを受ける必要はないよ。恐らく、この剣はこの島に伝わる強力な武器——かもしれない」


「そうなの?」


「ううん、ただの勘」


「さっきから話し方がウザい!」


「あいたっ」


 シルフィーに後頭部を叩かれる。


 打てば響くというのはこういうことだ。


 シルフィーをからかうのは楽しい。


「ごめんごめん。でも実際、こんな所に置いてある武器が普通であるはずがないだろ?」


「……まあ、たしかにね。誰かがここにあの剣を刺して隠したっていうの?」


「さあね。そこまでは何とも」


 これまで手に入れたものは全てダンジョンの中にあった。


 目の前の剣も同じだ。


 そしてダンジョンとは神が人間に対する試練の場として作ったもの。


 財宝や装備などはその試練を受けた者への報酬でもある。


 つまり、ここがダンジョンである以上、この剣もまた神様からのプレゼントである可能性が高い。


 その効果はそこそこお墨付きだろう。


「とりあえず剣の性能を確かめたいから抜こう。いつまでもここにいてもしょうがないからね」


「がんばれ~」


 自分には何もできないからシルフィーが応援に回る。


 俺はグッと親指を立ててから剣に近づくと、その柄にそっと触れる。


 前に俺が上級ダンジョン十戒で手に入れた武器に似ている。


 黒騎士からドロップするあれね。この剣も同様に黒い。


 だが、何となく剣から漂ってくるオーラと呼べるものが違った。


 少し触れただけでも、膨大なエネルギーのようなものを感じる。


「期待させてくれるじゃん」


 掴んだ手に力を入れる。


 グッと剣を引き抜くと、思いのほか簡単に剣は抜けた。


 まるで最初から抜かれることを前提に差し込まれているかのように。


「おお。それがヘルメスの新しい武器?」


「どうだろうねぇ。いま使ってるやつより弱かったら売却するかも」


 とはいえ、ラブリーソーサラー2の武器情報はなんもないからなぁ。


 持ち帰ってツクヨにでも訊いてみるか。


 とりあえず使ってる武器とは反対側の腰にぶら下げる。


 妙に魔力というかオーラを感じるから、結構な業物だと思うが……楽しみだな。


 武器を回収し終えたので、隠し通路から外に出る。


 周りに他にモンスターはいなかった。


 そのままさっさとダンジョンの奥を目指す。


 このダンジョンは敵の平均レベルが高いからか、構造自体はとっても単純でボスエリアも近い。


 ほぼ直進するだけでボスエリアの前に到着した。




「……あれがこのダンジョンのボスか」


「なんていうか……すごいわね」


 目の前を飛び回る一匹の竜がいた。


 それを確認すると、俺もシルフィーも同時に唖然とする。


 これまで戦ったどのドラゴンより大きい。しかも、空は妙に暗雲が立ち込めている。


 周りを見ると、ボスエリアの上空だけそうなっているのがわかった。


「不吉なオーラばりばりだねぇ……」


「あれに今から挑むの?」


「思案中。ここが上級ダンジョンと同じくらいの難易度なら、ボスのレベルはだいたい80。いまの俺でも頑張れば勝てないことはないけど……不安も残るね」


「なら一度里に帰ってその武器を調べたら? 何か面白い話が聞けるかもしれないわよ」


「ん~……そうだね」


 シルフィーの意見を採用する。


 くるりとその場を反転し、ギャアギャアうるさいドラゴンに背を向ける。


 俺たちは必ず帰ってくると小さく言い残し、二人で来た道を戻った。


 道中、またしても復活したモンスターは討伐する。少しでも経験値と時間を無駄にしないために。


 おかげで俺のレベルは少しだけ上がった。もしかするとあのダンジョンは、上級ダンジョンより美味しい可能性がある。


 余計にボスに挑まなくてよかったぁ、と思った。




———————————

あとがき。


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