第212話 隠し通路
「よっと!」
襲いかかってくる竜の首を斬り裂く。
なまじ動きが遅いから急所を狙うのもそう難しいことじゃない。
現在、俺は竜の里から北東へ向かった先にある『竜の渓谷』にいる。
ここは大量のドラゴンばかりが出現する凶悪なダンジョンだ。
しかし、それはあくまで一般人レベルだったら、の話。
すでにレベル70を超えている俺の敵ではない。
正直、上級ダンジョンと同じくらいの強さだった。
出てくる雑魚の平均レベルが50はあるから、王都にある上級ダンジョンの雑魚よりは強い。
が、所詮はその程度。
多少強くても別に問題はない。
「たしかに強さはそうでもないわね。私でも十分に殺せるわ」
「シルフィーは強いよ。俺のステータスに左右されるんだからね」
「え? いま私褒められたの? 馬鹿にされたの?」
「褒めた褒めた」
自分を褒めながらもちゃんとシルフィーを褒めたよ、たぶん。
「……まあいいわ。でも、なるべく私は戦わないように、だったわね」
「うん。シルフィーの魔法は効率がいいけど魔力の消費がある。正直、素の身体能力で倒せるならそれが一番効率いいかな? ほら、また複数のドラゴンがきた」
「数だけは多いわね、ここ」
「ほんとにね」
そう。そうなのだ。
このダンジョンは、かつて俺が潜ったことのある初級ダンジョン『巣窟』を彷彿とさせるようなモンスターの数を誇る。
さすがに巣窟ほどモンスターは出てこないが、レベル50ものドラゴンがうじゃうじゃ出てくる。
もう討伐数を数えていないくらいには倒した。それでも出てくる。
ドラゴンの突進や爪による攻撃をかわしながら、鋭い反撃を叩き込む。
このダンジョンのドラゴンは知能が低いから、馬鹿正直な攻撃しかしてこない。
カウンターがめちゃくちゃ楽。
で、図体がデカいから攻撃を当てるのも楽と。
それだけに上限が決まってる魔力を消費してまでシルフィーに助けを請うことはなかった。
「私だけ暇じゃない? これならククも連れてきたほうがよかったかしら」
「ククは黒き竜との戦いで疲労してるし、竜玉の守りがあるからダメだよ」
ククのメインは竜玉の守護だ。
体感的にレベルが上がるわけでもなさそうだし、連れてくるメリットはほとんどない。
かと言ってシルフィーに退屈な目に遭わせているのはたしかだ。どうしたものかね……。
「俺としても、もっと強いドラゴンが出てきてくれたほうが嬉しいけど……ん?」
彼女と一緒に愚痴を漏らしていると、不意に視界の奥に大きな影が見えた。
影はどんどん大きくなっていく。
次第にそれが新手のモンスターだとわかる。
凄い速度でドラゴンが突っ込んできた。
あわてて横によける。
「おわっと!? 急になんだ?」
ドラゴンは地面を砕くと盛大に砂煙を巻き上げた。
続けて尻尾による薙ぎ払いを行う。
剣を盾にその攻撃をガードすると、あまりの衝撃にガードしたまま吹き飛ばされる。
くるりと空中で一回転して地面に着地した。
手がビリビリと痺れる。
「この感じ……ふふ。よかったね、シルフィー」
「よかった?」
ふわりと俺のそばにやってきたシルフィー。
彼女に笑いながら告げる。
「ああ。あのドラゴン……レベル60はあるよ」
「ってことは強敵?」
「強敵だね」
「私の出番ある?」
「あるある。攻撃力がこれだけ高いなら防御力も高いだろうし、様子見で魔法撃ってくれない? 中級でいいよ」
「りょーかい。私に任せなさい!」
ドヤ顔で胸を張るシルフィー。
そういうのいいから巻きで。
俺がジト目でシルフィーを見ていると、彼女はすぐに魔力を巡らせた。
周囲に風が吹く。
それなりの魔力反応がしたと思うと、複数の風が竜のもとへ殺到した。
——これは、不可視の斬撃か。
それも複数の同時攻撃だ。さすがシルフィー。本来は一つを作るのが魔法の限界のはずなのに、それを容易く超えてくる。
周りを風の刃で囲まれて攻撃されたドラゴンは、体に傷を負いながらも翼を広げた。
「飛ぶのかな?」
「させないわよ!」
シルフィーがさらに魔法を繰り出す。
それは許可してないけどまあいいか。
竜の頭上に風圧が発生する。
飛ぼうとしたドラゴンを地面へと叩きつけた。
ナイス攻撃。
俺のINTや魔法熟練度に応じて威力が上昇するため、その攻撃力は目の前の少し大きなドラゴンにも届いた。
隙だらけになったドラゴンもとへ向かい、その首へ剣を当てる。
ドラゴンはすぐには死なない。むしろ無駄に暴れて俺を吹き飛ばす。
「おげっ!?」
ちょっと油断した。
トドメの一撃を刺したと思ったら、最後の最後で尻尾による薙ぎ払いを喰らう。
モンスター自体は倒したが、俺はあっさりと壁に激突して——その壁を破壊した。
ガラガラと崩れる。
大小さまざまな石に埋まった俺は、それを退かして立ち上がると……。
「——ん?」
背後に、人がひとり入れるくらいのスペースが空いていた。
いわゆる隠し通路的な……。
え?
———————————
あとがき。
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