第195話 竜の里デート
「——観光、ですか?」
ツクヨと別れたあと、起きてきたヴィオラに観光しようと提案した。
食事を終わらせた彼女は、ややあって反応を返す。
「もしかしてわたくしとヘルメス様の二人で!?」
すごい笑顔だ。勢いも。
俺は彼女の圧にやや気圧される。一応、その通りなのでこくこくと頷いてみせた。
「う、うん……ツクヨさんが竜に関する本を用意するあいだ、暇だからヴィオラ様と一緒に観光でもどうかなって。いく?」
「もちろん行きます! ヘルメス様がわたくしをデートに誘ってくれるなんて……夢のようです!」
別にデートかと言われれば怪しいところだ。あくまで名目は観光。
でも、男女が外に遊びに行くのだから立派なデートか。俺は納得する。
「さすがにひとりで行ったらヴィオラ様に怒られると思ったので。他に誘う相手もいませんし」
ククはいまだ爆睡してる。シルフィーは誰にも見えないからソロと同じだ。
「そうですね。もしわたくしをスルーしてお一人でお出かけになったら……ふふ、ふふふ」
「ッ」
ぞくりと背筋に悪寒が走った。
彼女の笑みに凶悪な何かを感じる。
やはり誘っておいて正解だったな。
「じゃ、じゃあ……準備をしてこのあと玄関に集合ってことでいいですか?」
「わかりました。少々お時間をいただきますね」
「了解。ゆっくりでいいですよ」
俺もヴィオラも着替えに自室へ戻る。
シルフィーがキラキラと目を輝かせて外を眺めていた。
俺も観光に関しては楽しみである。
どれだけ日本の文化が隠されているのかな。
▼
準備を済ませて玄関の前で待つ。
ヴィオラの準備が終わったのは、およそ三十分後だった。
木製の廊下からふらりと現れた彼女は、先ほどまでの服装とは違い——着物をまとっていた。
「ヴィ、ヴィオラ様……その格好は」
「ふふ。ヘルメス様を驚かせることに成功しましたね。ツクヨさんに許可を貰ってキモノ? という服を着てきました。お待たせしてすみません」
「い、いえ……それは別に構いませんが……その、なんていうか……よく似合ってますね」
ヴィオラの着物姿は普通に綺麗だった。
髪も後ろでくくっており、普段とは雰囲気が違う。
思わず俺は魅了された。主人公のくせに。
「ありがとうございます。ツクヨさんの服装やこの里の文化にヘルメス様は強い関心を寄せていました。だからわたくしもヘルメス様が気に入るファッションです!」
「とっても素敵ですよ、殿下」
「ッ! そ、そこまでストレートに褒められると、さすがに照れますね……」
「素直に魅了されてしまったので」
彼女のこの姿を見れるのは俺だけだ。そう思うとやたら満足感が脳内に押し寄せてくる。
ちょっとした独占欲のようなものなんかな?
少なくとも彼女の両親や学校のクラスメイトたちはこの姿を見れない。
まさに俺だけのものだ。
スッと手を差し出し、膝を折って改めてデートに誘う。
「改めてヴィオラ様。俺と一緒にデートしていただけますか?」
「よろこんで」
ヴィオラは何の躊躇もなく俺の手を取る。
その顔がわずかに赤いのは……俺の気のせいではないだろう。
彼女と手を繋ぎ外へ出る。
▼
外を歩く俺たちは、共に周りからの視線をもらっていた。
理由は明確だ。
ヴィオラは可愛い。顔面偏差値だけでもメインヒロインにまったくひけを取らないほどだ。
こんな可愛いキャラクターが攻略対象じゃないのが不思議なくらいである。
ゲームだとどんな役割なんだろう?
そして彼女の隣に並ぶ俺もまた、王国一のイケメンと言われるほどの美貌を持つ。
男女揃って俺たちを見つめていた。ちょっと鬱陶しいけど王都で慣れているからそこまで気にはならない。
「なんだか、のどかな町並みですね。人は多いように見えるのに不思議と王都より静かに感じます」
「そうですね。恐らく人口自体は王都のほうが多いかと。この里は土地の利用方法が特殊なんですよ」
「特殊?」
「ええ。ひとつの建物に複数の人間が生活するなど、限られた土地の使い方が上手い、と表現するべきでしょうか。だから人が多いように感じるのかと」
平民たちの暮らしは主に長屋がメインだ。一軒家を持つ者はほとんどいない。
王都で言う宿屋が多いって感じかな? 恐らく大半の建物がこの長屋に該当する。
それだけにひとつの区画にいる人間の数が多い。王都は土地が広いからもっとスペースがひらいてる印象だ。
「なるほど……土地が王都より狭いからこそ、それを利用した建築や住み方に違いがあると」
「俺の推測ですけどね」
「わたくしには当たっているように思えます。……ん? あれはなんでしょう」
「あれ?」
ヴィオラが見つめる先に視線を向ける。
正面の奥、長椅子が設けられた一角には、見たとこ甘味が売られていた。
店だな。それも団子を売ってるらしい。
「ああ……甘味処ですね」
「甘味処?」
「いわゆるお菓子です。団子を売ってるようなので食べてみましょうか」
「団子……はい! ぜひ」
ヴィオラ殿下はこの里の文化に興味津々だった。
手を繋いだまま真っ直ぐに店に向かう。
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