第188話 竜の里、到着

 朝食を済ませたあと、遅れて目を覚ましたククにご飯をあげながらのんびりとした時間を過ごす。


 それから三時間。


 ツクヨが食事のタイミングで言っていたように、俺たちが乗る船が東の大陸に到着した。




 ▼




「あれが……東の大陸!」


 甲板に出た俺とヴィオラは、船の先に見える大きな島を視界に入れる。


 まるで前世、テレビで見たことのある田舎の島、あるいは無人島のようだった。


 周りは切り立った崖がいくつも見られ、あまり伐採されていない自然が溢れている。


 その奥には、竜のシンボルが刻まれた旗が伸びていた。恐らくあそこに竜の里があるのだろう。


 船は徐々に港へ近付き、やがてその動きを完全に止めた。


「長い船旅お疲れ様でした。そしてようこそ……ここが我らが国、我らが街、我らが故郷! 東の大陸にして竜の里です!」


 船から降りたツクヨが、やや大袈裟に手を振って言った。


 改めて俺たちは竜の里にやってきたのだと知らされる。


「ずいぶんと王都とは雰囲気が違いますね。なんていうか……落ち着いているっていうか」


 個人的には前世の光景によく似ているため、少しだけ気分が清々しいものになる。


 不思議と懐かしさすら感じた。


「それはよかったです。王都の喧騒に慣れたお二人には、酷く退屈な場所かもしれませんが」


「そんなことありませんよ。竜が復活するまではのんびりできそうだ」


「是非くつろいでくださいね。温泉もありますよ」


「温泉もあるんですか?」


「ええ。我が竜の里の顔です。この辺りは源泉が多く発見されているので」


「それはまた……」


 つくづく前世の日本に似ている気がした。


 もしかするとモチーフにしているのかもしれない。……いや、刺身とか醤油がある時点で確定か。


「では、ひとまず里まで行きましょう。こちらです」


 ツクヨの案内のもと、護衛を伴って山道を歩いていく。


 わざわざ山の中に、森の中に集落を作ったのはなんでだろう?


 彼女の背中を追いかけながら、ふと、そんなことが気になった。


 しかし、答えを得るより先に俺たちは目的地に到着する。


 大きな木製の扉が俺たちを出迎えた。


「あちらが竜の里の入り口ですね。大きな門でしょう? あれだけは王都の外壁にも負けません!」


 えっへんとツクヨは胸を張る。だが、たしかにかなり大きい。どうやって里の周りに固定しているのか気になった。


 地面に埋めている? それともこの里に伝わる特殊な加工方法でもあるのだろうか?


 俺の疑問をよそに、ツクヨはさらに歩みを進めて正門を守っている兵士たちのもとへ向かった。


 兵士たちはツクヨに気付くと恭しく頭を下げた。腰には見覚えのある刀が。


「これはこれは……おかえりなさいませ、ツクヨ様。ご無事で何よりです」


「ただいま戻りました。中央大陸よりお客様をお連れしているので、このまま通してください」


「お連れ……解りました。門を開けますので少々お待ちください」


 兵士はそう言うと、くるりと踵を返して大きな声を発する。門の反対側にいる同僚に指示を出すと、重低音を鳴らして門が開いた。


 お礼を言って里の中に入る。


「おお……! 和の国だ!」


 里の中に入って早々、俺は感動に瞳を輝かせる。


 その理由は、竜の里が昔の日本みたいだったから。基本的に建物は木造建築。おまけに長屋のようなものまで見られた。


 里の人たちの服装も、明治とか大正とかその辺りに流行っていた? 服装に思える。俺はバリバリの未来人だが、テレビとかで見かけたことがあるから間違いない。


「すごいですね……何もかもが王都とは違います」


 俺の隣ではヴィオラ殿下も衝撃を受けている。口に手を当てながらまじまじと周りを見渡す。


 その表情には、嘲笑ではなく純粋な好奇の感情が含まれていた。


「ふふふ。中央大陸に比べると文明が劣っていて恥ずかしいかぎりです」


「そんなことありませんよ、ツクヨさん。中央大陸とは異なる進化を続けてきた……その結果がこれなんです。一概に劣っているとは言えません」


「ヘルメス様の仰るとおりかと。王都では見かけない物ばかりで……わたくしは気になりますわ」


「お二人ともありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいですね……でしたら、お時間があるときにでも里の中をご案内します。美味しい食べ物がたくさんありますよ」


「「是非!」」


 俺とヴィオラの声が揃う。ツクヨさんに笑われてしまった。けど、事実、俺もヴィオラもこの里に興味津々だ。頼めるなら絶対に一度は回りたい。観光したい。


「畏まりました。ひとまず今日は荷物を運ぶためにも屋敷へ向かいます。観光は後日ということで」


「異存ありません」


 当初の予定通り、俺とヴィオラはツクヨさんが住んでいる屋敷へと向かった。


 通りを歩いていると、住民の大半がツクヨさんに元気よく挨拶していた。彼女はこの里ではかなりの人気者だとわかる。


 そのまま里の住民と軽く交流しながら坂道を歩き……彼女の屋敷が見えてきた。一階建てではあるが、日本を連想させる和式の建物だ。


 思わず内心で興奮する。


 生で初めて見た!




———————————

あとがき。


四章もそろそろ佳境に⁉︎

ドラゴンはどれほど強いのか……



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