第187話 希望の光
目を覚ます。
ベッドから起き上がると、霞む視界の中で先ほどまでの記憶を思い出す。
「……あれが、ツクヨさんが言ってた世界に滅びをもたらす黒い竜か」
俺は影しか見ていないが、邪悪なオーラがひしひと伝わってきた。
リアルで会ったわけじゃないから測れなかったが、恐らくあの竜は俺より圧倒的に強いことが解る。
もうすぐレベル70……この世界では破格のレベルに到達する俺でさえ、あの竜には遠く及ばない。
推定されるレベルは90~100といったところか。
いま正面から戦えば間違いなく瞬殺されるな。
「——ルナセリア公子様?」
「? ツクヨさん?」
コンコン、と思考の途中で部屋の扉がノックされる。
反対側から聞こえてきたのはツクヨさんの声だった。
返事を返すと、彼女は。
「あ、起きてましたか。おはようございます、ルナセリア公子様。まもなく朝食の時間ですが、どうなされますか?」
「少々お待ちを。すぐに準備します」
「畏まりました。では、私は先に食堂のほうへ行ってますね。ゆっくり来てください」
「ありがとうございます」
返事を聞き終えるなり扉から彼女の気配が遠ざかっていった。
足音が聞こえなくなってから、俺はベッドを降りる。
「……ひとまず、夢のことはツクヨさんに食事のときにでも話そう。俺だけで解決できる内容でもないしな」
グッと背筋を伸ばし、寝巻きから私服に着替える。
今日の天気も晴天だった。
▼
着替えを終えて食堂に入る。
横長のテーブルには、すでにツクヨさん以外にもヴィオラ殿下の姿もあった。
お互いに視線を交わして挨拶する。
「あら、おはようございますヘルメスさま」
「おはようございます、ヴィオラ殿下」
「ここではヴィオラとお呼びください。お忍びですので」
「え……ヴぃ、ヴィオラさ——ん」
慣れない呼び方にやや不恰好になる。
それでも彼女はにっこり笑ってくれた。
「はい。そのまま何度も何度も繰り返し練習してくださいね」
「ど、努力はします……ヴィオラさ、ん」
「ふふ」
彼女はものすごく楽しそうだった。こんなチャンスじゃないと彼女への様という敬称を外すことはないからな。
朝からちょっと疲れた。
気を取り直して空いてる席に腰を下ろす。
部屋の奥からすぐに料理が運ばれてきた。
フォークにナイフを使って料理を食べる。
その途中、ツクヨが口を開いた。
「そう言えば、まもなく船は竜の里がある東の大陸に到着します。あと数時間といったところですかね」
「へぇ、意外と早いですね」
「ルナセリア公子様がシーサーペントを倒してくださったおかげです。あれがなかったら、この船は沈められていたか、到着まで何日か遅れていたでしょう」
「あはは。お役に立てて何よりです」
あんな雑魚を倒したくらいでお礼を言われるなら、あと二、三体くらいは余裕で倒せるぞ。
正直に言えばあまり戦いたくはないが。
「それで……竜の里に着きましたら、まずは我が屋敷に来てもらいたいと思っています」
「ツクヨさんの屋敷に?」
「はい。我が家にはかつて、黒き竜と戦った英雄が記した本が保管されています。ルナセリア公子様には必要なものかと」
「竜と戦った英雄……あ、そう言えばツクヨさんにお話したいことが」
今朝の夢のことを思い出す。
「私に話したいこと……ですか?」
「ええ。夢に関することなのでツクヨさんが詳しいかな、と」
「夢……最初に言っておきますが、私は決して夢見の巫女ではありません。たまたま、偶然、未来に起こる夢を視る事ができるだけです。一般的な話でしたらあまりお力にはなれないかと」
「たぶん大丈夫ですよ。夢の内容がツクヨさんの話に出てきた黒い竜に関してなので」
「黒い竜の夢を視たんですか!?」
俺の言葉を聞いて、彼女はバンッと勢いよくテーブルを叩いて立ち上がる。
血相を変えていた。
「は……はい。竜のような形をした影と話す夢を視ました。影は自らを竜と。そして竜玉を寄越せと言ってました」
「それは……恐らく伝承に出てくる黒き竜かと。他には何か言ってましたか?」
「他……封印がそろそろ弱まって復活できる、みたいなことは言ってましたね」
「やはり……私が視た夢は事実だったのですね」
暗い表情でツクヨさんは俯く。
彼女の中では、夢に描かれた光景が過ぎっているに違いない。
俺はその詳細を知らない。ただ、俺と大きなドラゴンが対面していたってことだけは聞いた。
普通に考えるなら、その対面していた竜が黒き竜ってことになる。
つまり、俺と黒き竜がぶつかるのはほぼ確定ってわけだ。
「いまの話を聞き、私の選択は間違っていなかった。ククさまのおかげでまた一歩、希望の未来に近付きました。どうかルナセリア公子様……黒き竜のことを改めてよろしくお願いします」
深々とツクヨは頭を下げる。
俺はただ一言、
「お任せください」
とだけ言った。
———————————
あとがき。
なおも新作が好調!
本作から応援してくださった読者様、まことにありがとうございます!本当にありがとうございます!
まだの人はぜひ応援よろしくお願いします!
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