第184話 なんかしちゃった?

 東の大陸を目指す道中、海面からシーサーペントが姿を現した。


 ツクヨ曰く、海中に生息するモンスターの中でも上位の個体らしい。


 おまけに戦場は船の上。周りは海に囲まれており、行動範囲も行動自体も制限されている。


 俺たち人間は圧倒的に不利だった。


 しょうがないのでシルフィーに上級魔法の使用をお願いしようとしたとき、それを察知したのか、シーサーペントが勢いよく距離を詰めてきた。


 追加で攻撃も繰り出されるが、それは俺が剣で止めた。幸いにも二度の攻撃を受けても船は無事だ。


 距離が近すぎてシルフィーの上級魔法が撃てない、という状況以外には問題なかった。


 こうなると上級魔法以外の魔法でシーサーペントを倒さないといけない。


 なまじ距離が縮まったことで取れる手も増えた。


 肩を竦めて俺はため息をつく。


「やれやれ……幸先が不安だよ、まったく」


 剣を構える。


 腰を低くしてからシルフィーに言った。


「シルフィー、中級魔法で俺の援護できる?」


「私を誰だと思ってるの?」


「愚問だったね。海面に落ちそうになったら拾ってくれ」


「了解」


 支援は彼女に任せて、俺は上級神聖魔法を使った。


「————〝天権〟」


 肉体能力が急激に上昇する。


 体が薄く発光し、不思議な全能感に満たされる。


 魔力も大幅に消費されたが、いまの俺はレベル60の範疇を超えた。


 いまなら距離も近いし、剣でもアイツを殺せる。


「さあて……漁業といこうか?」


 強化された脚力で床を蹴る。


 一瞬にしてシーサーペントの懐に入った。俺の想像以上に速い動きに、モンスターすら驚愕する。


 慌てて口を開けて攻撃を仕掛けてくるが、それを剣で殴って弾く。


 ガツーン、という衝撃がシーサーペントを襲った。


 もはや弾くのではなく、相手の攻撃をそのままガードしつつ殴っていた。


 反動で相手がやや後ろに仰け反る。


 続けて俺はシーサーペントの首元に着地した。落ちないように即座に跳躍。相手の首元を狙って剣を振る。


 が、俺の攻撃が当たるより先に、シーサーペントの水鉄砲が飛んできた。


 ——口から水を吐けるのか、コイツ。


 咄嗟に剣で攻撃をガードしたが、空中にいたので衝撃は殺せなかった。後ろに吹っ飛ぶ。


「——風よ」


 吹き飛んだ俺の体を、シルフィーの操る風が包んだ。


 不思議な浮遊感を感じながらも宙に浮かぶ。


「ナイスアシスト」


 さすがシルフィー。タイミングばっちりだ。


「はいはい。頑張りなさいな」


 そう言ってシルフィーの風に撃ち出される形で、再びシーサーペントに肉薄する。


 まさか空中で体勢を整えてくるとは思ってもみなかったのだろう。


 相手はまたしても驚愕しながら反撃してきた。


 いままで一番口を大きく開く。


 俺を完全に餌だと思っているのか知らんが、敵を前にその動きは舐めプだぞ?


 剣を構えてそのままシーサーペントの口元に近付く。


 お互いが交差する瞬間、俺は全力で剣を横に振った。


 上級神聖魔法で強化された筋力数値が、恐ろしいまでの威力を発揮する。


 シーサーペントが口を閉じるより先に、相手の顔が真っ二つに裂けたのだ。


 もう悲痛な叫び声すら上げられない。


 青い海に鮮血をばら撒き、うねうねと体を揺らして倒れる。


 俺は海面に着水する前にシルフィーに拾われた。


 見下ろした先では、海水がどんどん真っ赤に染まっていく。


 さながら、前世で好きだったサメ映画みたいな光景だ。


 あのシーサーペントとか言うモンスター、攻撃力はなかなかのものだったが、耐久力のほうは大したことがない。そのくせ攻撃のバリエーションが少ないときた。


 恐らくレベルは50ほど。神聖魔法による強化まで使った俺の敵ではない。


 背後に控えるシルフィーに向かって親指を立てて勝利宣言する。


「いえい。シルフィーのおかげで勝てたよ。ありがとう」


「ふんっ。あんたは私の契約者だからね。あれくらいはするわよ。そっちこそナイスバトル」


「それほどでもある」


 にやりと笑ってシルフィーに船まで運んでもらった。


 甲板に降り立つと、何人もの船員とヴィオラたちが俺を出迎える。


 赤く染まった海面を眺めてから、おそるおそるツクヨは訊ねた。


「ま……まさか、あのシーサーペントを撃退したのですか?」


「撃退っていうか、倒しちゃったね。ダメだった?」


 もしかしてこの辺りに生息する神様とか言わないよね?


 竜の里の人間は信仰しているとか言われたら、その時点でイベントどころじゃなくなる。


 ごくりと生唾を呑み込むが、どうやらその心配は杞憂に終わった。


「そういうわけではありませんが……シーサーペントが討伐されるのを見たのは、初めてだったもので……」


「そうなんですか? 足場が無いことを除けば、そんなに強い敵じゃないですよ」


 アイツの強さの秘密は、大半がフィールド補正を得られるところだ。それを除けばぶっちゃけ白騎士より弱いかも。


 図体がデカい分、攻撃を当てるのも楽だ。


「シーサーペントが……弱い」


 俺の言葉にヴィオラ以外の周りの人間は、あんぐりと口を開けて呆けていた。


 あれ? 俺なんか言っちゃった?




———————————

あとがき。


皆様!反面教師がまた新作の異世界ファンタジー投稿しましたーーーー!

本日は20時頃にもう1話投稿されるので、ぜひぜひ応援してくださーーーーい!!!



あ、近況ノートも載せました。ぜひそちらも。


※新作投稿のため、それ以外の作品の投稿時間を調整し早めました。ご了承ください。

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