第183話 海の怪物
人生っていうのは、嫌だ嫌だと思えば思うほど、フラグが立って現実に結果が反映されるものだと俺は思う。
恐らくは偶然の産物だ。
嫌だと思い、負の感情を抱いているからこそ、それが実際に起きたときに記憶に強く残る。
しょうみ、幸福なエピソードより不運なエピソードのほうが記憶に残りやすいのは、そういう感情的側面が働いているように思えてしょうがない。
……まあ、それといまの状況は微妙に話が異なるため、俺の現実逃避としか言えないのだが……出ちゃったよ、モンスター。海面に。
俺が一番恐れていた状況に陥る。
ここは海のど真ん中。足元には船があり、その周りには揺れ動く海面しかなかった。
相手は水中で活動可能なモンスター。体躯は数十メートルもある。
どこかドラゴンっぽい外見をしているが、体の形は竜より蛇っぽい。翼もなければ色もククと同じ青色だ。
まさに水中のモンスターって感じ。
「あ……あれは、シーサーペント!? なぜこの海域に!?」
俺の隣では、海面から姿を現した謎のモンスターを見て、ツクヨが青い顔で叫んでいた。
「シーサーペント? あのモンスターの名前ですか?」
「は、はい……あれはシーサーペント。海に生息するモンスターの中でも上位に位置する個体です」
「マジか……」
こんな状況でモンスターが出てくるだけでも厄介なのに、その上、上位のモンスター?
最悪すぎてそれ以上のコメントが出てこなかった。
甲板の上では船員たちが大慌てであっちこっちに走り回っていた。
聞こえる会話の内容から、さっさと進路を変更してシーサーペントに絡まれる前に逃げようってことらしい。
だが……、
「時すでに遅し、か」
もうシーサーペントはこちらを見ていた。鋭い黄金色の瞳が俺たちを睨む。
「なんかあのモンスター、ヘルメスに似てるわね」
こんな状況にも関わらず、俺の肩に座ったシルフィーが笑えない冗談を言う。
——デコピンしておいた。
「目の色が似ているだけだろ……まったく」
妖精である彼女に緊張感を持てというほうが難しいか。
しかし、相手は海面を泳ぐモンスター。いくらなんでも攻撃の選択肢が魔法しかない。
魔法を撃ち込みまくれば勝てるか……?
さすがにここで上級魔法を使ったら、船ごと巻き込みかねないので自重する。
そうなると使えるのは中級魔法まで。もしくは、シルフィーに……。
「そうだ。シルフィーに風属性の上級魔法を使ってもらえば!」
ナイスアイデア。
シルフィーは俺と違って魔力そのものを操れる。攻撃範囲を船から遠ざけた状態であのモンスターを倒せるだろう。
逆に、上級魔法を使っても倒せないようなバケモノは、現状、俺がどれだけ頑張っても勝てない。
遠めに見えるシーサーペントのオーラは、なんとなくそこまで強くは感じない。たぶんいけるだろ。
「シルフィー、あのモンスターに風の上級——」
言葉の途中、シーサーペントが行動を始めた。
海中に生息するだけあって、素早い動きでこちらに向かってくる。
すいすいと直線を不規則な動きで泳ぎ、一瞬で目の前までやってきた。
再び海面から顔を出し、大きな口を開いて攻撃をかます。
——まずい!
咄嗟に鞘から剣を抜いて跳躍した。
シーサーペントの噛みつきと俺の刃がぶつかる。
ギイイイイィンッッ!!
激しい音を立てて互いに弾かれる。
相手の筋力数値はそこまで高くない……こともない。図体がデカいだけあって相当な膂力だ。
それでもガードに成功したのは、相手が俺よりレベルが低い証拠。
基本的にモンスターのほうがステータスの数値は高くなる傾向にある。その分、人間には魔法とかスキルなんかがあるわけだが。
「し……シーサーペントの攻撃を弾いた!?」
「さ、さすがですね、ヘルメスさま……」
再び甲板に着地する俺の背後で、ツクヨとヴィオラの両者が驚きの声を発する。
俺は振り返らずに言った。
「二人とも船内に! ここにいると危険ですよ!」
「は、はい!」
「解りました!」
状況把握と選択は迅速に。
二人とも大人しく船内に避難していく。
甲板に残ったのは、いつの間にか集まっていた護衛の剣士たちと俺だけ。
だが、誰もがシーサーペントを前に萎縮していた。距離も近いため、下手に魔法を撃ったら船にも被害が出る。
動揺と不安でほとんど動けずにいた。
「キシャアアアアアア!!」
逆にシーサーペントは自由に行動する。
二度目の噛みつきを行い、またしてもそれを俺が弾く。
さっきより上手く弾けるようになった。相手の攻撃のタイミングに合わせられる。
けど、いつまでも単調な動きばかりしてこないだろう。俺ではなく、積極的に船が襲われるとかなり困る。
そばで浮かぶシルフィーに上級魔法の使用を許可した。
「頼むシルフィー、上級魔法を……」
「無理ね」
バッサリ拒否される。
「相手との距離が近すぎるわ。いくら私でも、上級魔法の範囲を狭めることはできない。下手すると私の魔法でこの船がズタズタにされるわよ」
「ですよねぇ……」
近付かれたときからそんな予感はしていた。
となると、やるべきことは一つだ。
地道に削って倒すしかない。
「やれやれ……幸先が不安だよ、まったく」
————————————
あとがき。
モンスターはパッとこの子しか浮かばなかった……巨大タコかイカでもよかった……
※反面教師教師からのお知らせ!
明日、一応近況ノートに書きますが、
作者の新作を出します!初日は2話投稿!
ジャンルは異世界ファンタジーとなります!
どうか見ていただけると嬉しいです!
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