第169話 俺たち一蓮托生
「…………」
目の前に天を突くほど巨大なミミズが現れた。
ミミズだ。間違いない。あのシルエット、フォルム、てかり具合……そして何より、動き!
どこからどう見てもミミズにしか見えない。
問題は、そのミミズの大きさが、俺の知る綿棒くらいのサイズじゃなくて、二十五メートルプールからも溢れそうなほど……とってもデカかった。
いやデカすぎ。
なにあれ。おまけに顔と思われる部分が前世で見たことのあるエイリアンみたいにパカァ、と開いてゾッとした。
怖いとかそういうんじゃない。シンプルに気持ち悪かった。
「おえぇ……ゲーム画面越しだとなにも思わなかったのに、実際に目にすると最悪なんだが?」
「へ、ヘルメス! なにあれ気持ち悪い!」
シルフィーも俺の隣で騒いでいた。妖精の目からも気持ち悪くてよかった。俺のセンスは間違っていない。
「落ち着きなよシルフィー。あれはただのモンスター。一応、敵だから」
「落ち着いていられるかあああああ! 敵だからこそびっくりしてんじゃない! あんたは落ち着きすぎ!」
「いやいや待ってくれ、シルフィー。それはあまりにも俺という存在を高評価してる。ほら、見てごらん。鳥肌立ってるでしょ?」
「うるさいっ!」
バチーン、と二の腕を引っぱたかれた。
い、痛い……。
「冗談言ってないで、さっさとあの気持ち悪いモンスターを倒すわよ!」
「はいはい」
いま一度剣を構えてミミズを見上げる。
ミミズのほうははるか上空からこちらを見下ろしていた。
くぱぁ、と触手だか舌だかよくわからんものを派手に見せ付け、その巨体からは信じられないほど速く攻撃を行う。
攻撃方法はシンプルだ。
その巨体を使った突進。
手足も翼もない怪物が、唯一、戦闘に使える攻撃と言える。
——ああ、噛みつきや呑み込みもできるね。
「ぎゃあああ! 攻撃方法も気持ち悪い! なんでわざわざ口開けた状態で突進してくんのよ!」
ひらりとミミズの攻撃を避けて、ぎゃあぎゃあとうるさいシルフィーを掴む。
「ほんとにねぇ。あんなモンスターをデザインしたイラストレーターも、デザインさせた製作スタッフもありえないよ」
「おいこら。なんであたしのことを掴んでるのよ」
「あはは。俺たちは一蓮托生だからね。シルフィーも一緒に立ち向かおう。なに、魔法が使えなくても、きみがそばにいてくれるだけで俺は嬉しいよ!」
「いますぐ離して殺すわよ!」
「物騒だな————っと!」
再び攻撃してきたミミズの攻撃を避けながら、俺は地面を蹴り上げて走る。
手元でシルフィーが悲痛な声を上げた。
「いやああああああ!! 離してええええええええ!!」
「ハハハハハハハ!」
楽しい楽しいモンスター討伐だ。
シルフィーを掴んでいる意味はないけど、シルフィーだけ安全な場所でのびのびと戦ってる姿を見守るのはズルい。
物理攻撃が効かないんだし、俺と一緒に少しでも恐怖を体験してくれ。
そんな思いと共に、ミミズに接近して剣を振るう。
ミミズの体が硬い。予想どおりレベルのわりになんて防御力だ。
やっぱ魔法が使えないと面倒だな……とはいえ魔力回復薬にはかぎりがある。
適当に剣を振って、倒せないようなら魔法を使おう。
そう思いながら、俺は狂ったように剣を振るう。
手元では、シルフィーがぐらぐら揺れて、狂ったように叫び声を上げていた。
▼
ズウウウウゥゥン。
ミミズ型のモンスター、〝タイラントワーム〟を討伐した。
あれだけの巨体も、死んでしまうと不思議と小さく見える。
剣に付いた血を落として、握りしめていたシルフィーを解放する。
彼女はよろよろと空中に浮遊した。
「ハァ……ハァ……ひ、酷い目に遭った……」
「お疲れ様シルフィー。ナイスガッツ!」
「本当に、殺すわよぉ!」
急に元気を取り戻したシルフィーが、鬼の形相で俺を睨む。
すい~っと顔の前までやってくると、小さな顔を俺の鼻先に当ててもう抗議してきた。
小さいから可愛い。
「ごめんごめん。冗談だって」
「どこが冗談!? どこも冗談じゃなかったでしょうが!! あたし、あんたに無理やり戦闘に巻き込まれたんだけど!? あの気持ち悪いミミズの口の中に放り込まれたんだけど!?」
「どうだった? タイラントワームの口内は」
「あんたを殺したくなったくらいには快適だったわ」
「ごめんて」
まさかそこまで怒るとは思っていなかった。
最近はククによく食べられているし、ワームもドラゴンもそこまで大差ないじゃん?
俺だったらドラゴンはともかくワームなんて絶対嫌だけど。
……本当に悪いとは思ってる。
「この貸しは高くつくからね」
「はいはい。ちゃんといいもの買ってあげるよ」
アトラスくん曰く、近日中には竜の里ってところから使者が来るらしいけどね。
それが買い物より遅かったら、しっかりと約束は守る予定だ。
内心で悪魔のような笑みを浮かべながら、ぷりぷり怒るシルフィーとともに、遠くで戦いを見守っていたククのもとへ戻る。
ククは俺たちが近付いてくると、なんとも申し訳無さそうな顔で涙を流した。
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