第168話 激弱ドラゴン
水属性上級魔法を習得した。
上級ダンジョンの攻略にはそれなりに時間がかかるが、俺は生前の記憶と経験を手に、その時間を大幅に短縮できる。
おかげで翌日には、さらに別の上級ダンジョンへ足を踏み入れた。
「うへぇ……! 極寒の地が終わったかと思ったら、今度はカラカラの砂漠ぅ?」
ダンジョン内部へ続く階段を下りると、一面茶色の砂世界が広がっていた。
見渡すかぎりダンジョンの境界線を示す洞窟から先は、右を見ても左を見ても同じ景色だった。
地平線の彼方まで続いていそうな砂漠。
これこそが、土属性の上級ダンジョン〝失楽園〟。
暑さはもちろん、このダンジョンで最も嫌になる地形効果が……一面に広がった砂にある。
一応、進まなきゃいけないのでゆっくりとだが砂漠に足を踏み入れた。
直後、すぐにシルフィーが気付く。
「……ん? ねぇ……なんかこの砂漠、何かおかしくない?」
「さすが妖精。魔力の反応には機敏だね」
「っていうことは……まさか!?」
「うん。この土の上級ダンジョン失楽園では、エリア内にいるかぎり継続的に魔力が吸収されてしまうんだ。いまも少しずつだけど魔力が地面に吸い寄せられている」
「はぁ!? なによそのクソダンジョン! ふざけてるにもほどがあるわ!」
「同感だね、まったく」
この上級ダンジョンのコンセプトは、継続的な魔力の消耗。
これのなにがウザいって、MP回復薬はあるけど、戦闘中とかに魔力が0になると魔法がまったく使えなくなるってところ。
しかも俺にはシルフィーがいる。
魔力が0になると困るのは俺だけじゃない。下手するとシルフィーとの契約が切れてしまう恐れもある。
だからシルフィーは俺以上に驚いているし顔色が優れない。
魔力によって肉体すら構成されているシルフィーにとって、このダンジョンは最悪の天敵だ。
居心地が悪いってレベルじゃない。
「その上、このダンジョンに出てくるモンスターは恐ろしく魔法耐性値が低い。代わりに物理攻撃の耐性は高いけどね」
「マジで魔力を使わせたいのね……造ったヤツの顔が見てみたいわ」
「ほんとにね」
俺は生前、雑誌に載ってる記事と写真でそいつを知ってるが、インタビューで性格悪そうなこと言ってた。
そしてここは性格が悪い。
魔法を使わないと進めにくいのに、その魔法を使うために必要な魔力を奪ってくるのだ。
より効率的な攻略が求められる。
「とりあえず、昨日言ったようにメインはククに任せてみよう。もしかすると思ったよりククが活躍する可能性もあるしね」
そう言って後ろを歩くドラゴンを見ると、ククは、
「くるぅっ! くるくるっ」
任せてくれ、と言わんばかりにドヤ顔を浮かべる。
すごい今さらなんだけど、きみ、飛んで移動したりはしないの?
たしかダンジョンの性質上、浮いていれば魔力を吸われないで済むんじゃあ……なんて考えてみるが、ククの体の大きさじゃ、さすがに俺を抱えて飛ぶことは無理だ。
そもそも自分の意思で飛ばないあたり、あまり飛ぶのが好きじゃないのかな?
まあ、物理攻撃でも雑魚を倒せるならそれでいい。
やる気満々のククを連れて、ブツクサぼやくシルフィーと三人でダンジョンの奥を目指す。
▼
さくさくと地面を踏みながら歩くこと十分。
早速、最初の敵とエンカウントした。
外見は装備をまとった髑髏兵士。
中級ダンジョン嘆きの回廊で戦ったことのあるスケルトンだ。
ただし、こちらのスケルトンは装備を持ってるしスキルも使う。
おまけに魔法が使える個体がいたりとかなりバリエーション豊かだ。
レベルも40以上あるからクソめんどくさい。
「よし! まずはスケルトンが相手か。いけクク! 噛み付く!」
前世で大流行していた国民的アニメの主人公の真似をしてみる。
——がぶり。
ククに頭を齧られた。
「違う違う。俺じゃなくてあっちだからあっち。いい加減にしないとマジで殴るぞ」
「くるぅ……」
「そんな自分は悪くないみたいな顔をしてもメッ! いいから早く攻撃してこい」
「くるー」
はーい、と言って、ククはずんずんと足音を鳴らしながら敵に近付く。
そして、スケルトンの目の前までやってくると、俺よりはるかに太い腕を持ち上げて、おもいきり敵を殴りつけた。
すると、
「——あれ?」
スケルトンはぜんぜんダメージを受けていなかった。
不思議そうに向こうも首を傾げる。
一拍置いて、俺は叫んだ。
「全然ダメじゃねぇかああああああああ!!」
よわっ! 弱すぎっ。
レベル40のスケルトンにダメージすら与えられないとは……いくら相手が物理攻撃耐性を持っているからって弱すぎる……。
あまりのことに、敵であるはずのスケルトンも困惑していた。
「しょうがない……やっぱり俺が直接倒すしかないのか」
「みたいね」
くすりと笑うシルフィー。
君は魔法を使わなくてもいいからって余裕だねぇ……よし、あとでククに食べてもらおう。
内心で外道行為を考えながら、剣を抜いて砂の上を走る。
直後、轟音を立てて砂の中から何かが現れた。
とても大きな……巨大ミミズである。
———————————————————————
あとがき。
読者の皆様には日頃からたいへんお世話になっております!
本日、反面教師の新作が投稿されました。本作と似たコンセプトの作品です。
よかったら見て、応援してください!
※
なぜか新作が表示されない?らしいので、タイトルを載せておきます。
『二度目の人生は最強ダンジョン配信者〜』というタイトルです!
小説一覧には表示されるようです!
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