第167話 食べちゃダメ
紆余曲折あったが(主にシルフィーとククが)、無事、俺は水属性の上級魔法の書を入手した。
本を開いて中身を確認すると、久しく見ていなかったシステムメッセージが表示される。
そこには、水属性上級魔法を習得しました、と書かれていた。
これで俺は、十戒で手に入れた神聖属性魔法に続き、ここ永久凍土で水属性の上級魔法まで習得した。
それだけでぐんぐんとステータスのINTが上昇する。
肉体的な変化はないが、これがどれだけの恩恵になったのか。それを俺はハッキリと理解していた。
最後に、上級ダンジョン永久凍土を出る前に、喧嘩するシルフィーをククを無視して実験がてらに水属性の上級魔法を周囲にぷっぱする。
「————〝彗星〟」
「————〝五月雨〟」
——うん、悪くない。
帰り道、さんざんスノウホワイトと暴れまくったエリアが、俺の攻撃でめちゃくちゃになったけど悪くない。
威力は俺の想像どおりで、柔軟性の高い水魔法はなかなかに使える。
あとはひたすら火力に特化した火でも最低限習得しておきたいが……あそこのダンジョンってすごく面倒なんだよねぇ。出てくるモンスターもそうだが、地形によるデメリットがウザすぎる。
それでいうと、このあと行こうと思ってる土の上級ダンジョンも最悪だ。
思えば、一番まともなのは時間のかかる十戒だったりする。
あとはシンプルに敵がクソ強い闇の上級ダンジョンくらいか?
ひとまず。
顔を突き合わせて喧嘩してる二人に声をかけて、俺たちは上級ダンジョンから地上へと戻るのだった。
▼
「あー……疲れた」
地上に出るなり、シルフィーがため息をつく。
「お疲れ様、シルフィー。シルフィーはあんまり活躍してなかったけどね」
「え? ぶっ飛ばされたいの、あんた?」
「冗談冗談。あはは」
瞳孔の開いたマジ顔で見つめられたので、咄嗟に空笑いをして誤魔化す。
でも事実だ。予想より耐性スキルが仕事してくれたおかげで、問題なく永久凍土の中間地点まで行けた。
最初はもっと苦戦するかと思ってたんだけどね……いや、即死罠は凶悪でハラハラしてはいたけど。
「それより、来週か再来週にでも買い物に行こうか。ダンジョン攻略に付き合ってくれたシルフィーへのお礼にね」
「——本当? いいの? 本当に?」
「疑り深いなぁ。俺がシルフィーとの約束を破るはずがないだろ? 俺のこと信用してないの、もしかして」
「むしろあると思ってるの? 人のことさんざんダンジョンに連れていって補助魔法扱いするし……ククに食べられても助けてくれないし!」
「後半のほうに特に力がこもっていたような……」
そんなに嫌だったのか、ククにもぐもぐされるの。
暴れないから少しは許してるのかと思ってた。
ちなみに俺が彼女の立場だったら、唾液まみれになるあの行為は受け入れられない。
シルフィーって心が広いなぁ、とか適当なこと考えていたが、実はすごいストレスだったらしい。
ちゃんとククには、俺を含めてだれも食べちゃいけない! と伝えておかないと。
「まあ、そういうわけでクク、今後はシルフィーを食べたダメだよ」
「くるぅ?」
わたし、わかんなーい。
そう言いたげなつぶらな瞳でククが俺を見下ろす。
ジト目で見つめ返した。
「ダメ」
「くる……チッ」
「いま舌打ちしたの? ねぇ、舌打ちしたよね? それも結構ハッキリと」
マジかよ。このドラゴンどんだけ器用なんだ。
人間がドラゴンに擬態してると言われても信じるレベルの知能と器用さだ。
それだけに、わざわざシルフィーのことを食べないでほしい。
そう思っていると、——がぶり。
今度は俺がククに噛まれた。
「ハハハ、俺も食べちゃだめに決まってるだろぶっ飛ばすぞ、クク」
「くるぇっ! くるくる!」
「は? 私もストレス発散がしたいぃ? なら、次のダンジョンで存分に暴れさせてやるよ。次は、魔法使いにとっては天敵みたいなダンジョンだからな。そこでなら好きにモンスターを倒してストレス発散してもいい」
「くるぅ?」
なにそれ、とククは首を傾げるが、俺はなにも言わずに自宅までの道を歩き出す。
明日は土の上級ダンジョンに向かう。
ククク……それまで精々、ストレス発散ができると考えて笑っているがいいさ。
土の上級ダンジョンのエリアギミックがあまりにも嫌いすぎるので、明日はククに戦闘を任せたい。
ついでに、ククがどれだけ戦えるのかも調べておかないとな。
小さいとはいえククもドラゴンだ。今後、イベントをこなす上で、ドラゴンの戦力は実に頼りになる。
これでまったくの役立たずだった場合、ククには悪いが、俺がレベリングする時は自室に縛り付けてでも拘束しておく必要がある。
それくらい足手まといは邪魔になる。
泣き出すククの顔が目に浮かぶものの、死なれるよりははるかにマシだった。
がぶがぶとまたしても噛んでくるククの頬をビンタして、仲良く自宅まで帰る。
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