第164話 ちょろいぜクマさんよぉ
俺とシルフィーとドラゴンのククは、三人で力を合わせて? 無事に上級ダンジョン〝永久凍土〟の中間地点まで到着した。
険しい山道を、雪に足を取られながらも進んだ結果、かなり広々とした見渡しのよい景色が視界に飛び込む。
それだけじゃない。美しい景色には似つかない、巨大で可愛い顔をしたクマが俺たちの前に現れる。
体毛は黒。そこはシロクマじゃないのかよ、と突っ込みたくなるが、その秘密は後々に残しておいて……クマを見上げながら剣を抜く。
さすがに中間ボスは油断できない。
いくらレベル60とはいえ、コイツはある意味——正面から馬鹿正直に戦うと、〝白金の騎士〟より強いからな。
弱点さえ突かなければ、の話だが。
「ちょ、ちょっと何よコイツ! めちゃくちゃ大きいじゃない!」
「ああ。コイツは〝スノウホワイト〟。どこからどう見てもただの可愛いクマにしか見えないが、立派なこのダンジョンの中ボスだよ。前回で言うところの白金の騎士と同じ扱いだな」
「ぎゃあああああぁぁ! あのときの化け物と同じ!? 化け物ってことじゃない!」
ふわりと慌ててシルフィーが後ろへ飛んだ。
そんなにビビる必要はない。たしかにスノウホワイトは強敵だ。レベル60と、白金の騎士と同じくらいの強さを持つ。
だが、単純な戦闘能力の高さは白金の騎士のほうが圧倒的だろう。あの巨大な騎士は、物理攻撃力があまりにも高すぎる。
たとえいまの俺が、強化魔法で防御力を上げても直撃すると大ダメージを受けるほどだ。
それに比べて、スノウホワイトは火力面だけならそこまで高くない。
雪男と同じで、厄介なのはその特殊性だ。
「グオオオオオオォォ————!」
思考の途中、戦闘態勢に入ったスノウホワイトが、低く呻くような大声を上げる。
ゲームならエネミーに発見され、戦闘が始まる際のモーションになる。
三メートルを超えた巨体が、ウソのように素早く突進してくる。
さながらそれは、黒い弾丸のごとく。
いくらスノウホワイトのSTRが、白金の騎士より劣っているとはいえ、それでもレベル60相当のモンスターの攻撃を受けたらかなりのダメージが入る。
慌てず騒がず、俺は冷静に横へかわした。
地面に積もる雪をごっそりと削って、俺が立っていた場所から十メートルほど離れた位置でモンスターは止まる。
攻撃が外れるや否や、すぐにスノウホワイトは振り返った。
血のように赤い瞳が、文字どおり血を欲している。
「やる気まんまんだな、ダンジョンのモンスターは」
腰を落として
スノウホワイトは、名前と姿、地形から安直に火属性魔法が効くと思うだろ?
残念。スノウホワイトは火属性に対する耐性を持っている。というか、あの見た目で魔法に対する耐性値が異常に高い。
攻撃も物理型のくせに、物理攻撃のほうが効くという謎仕様。
最初はそれを知らずに遠距離でバカスカ魔法を撃って、コイツ一体の討伐にどれだけ時間をかけたことか……。
再びスノウホワイトが地面を蹴り上げてこちらに迫る。
大きく分けてスノウホワイトの攻撃パターンは二つ。
ひとつは至近距離での近接格闘。連撃を多用してくるため、微妙に厄介。
もうひとつは、遠距離からの突進。これを受けるとかな~り強いノックバックが発生する。雪男と同じで、油断してると周りにある即死罠を踏んでお陀仏だ。
ゆえに、剣による攻撃を当てる意味でも、スノウホワイト戦は近付いたほうがいい。
ただ、白金の騎士と違って、コイツには明確な近距離戦での弱点がある。
それは、
「グオオオオオオオォォ————」
「はいまずは一発」
隙が非常に多い。
連撃を挟み、大振りのモーションが多い関係上、スノウホワイトは逆に連撃に弱い。
さらにコイツ、面白いことに範囲攻撃を一切使ってこない。おかげで、正面を避けて背後に回れば永遠に攻撃を受けることなく安全に狩れる。
マジでチョロいぜクマさんよぉ!
距離が縮まったことで、爪による斬撃を多用してくるが、それを事前のモーションで見切って背後に回る。その度に剣で相手の皮膚を切り裂き、決して無視できないダメージを与えていく。
苛立つスノウホワイト。
解る解る。俺も同じ真似をされたらブチギレる自信がある。
だが、それはあくまで自分がやられたらの場合だ。偉い人は言った。
「自分がやられて嫌なことは、相手も嫌だから積極的にやるべし!」
ってね。
所詮はモンスター。ゲームだった頃の行動パターンから脱することのできない哀れな獣を、そのまま継続的に甚振っていく。
一応、予想外の行動に出た際に安全に避けられるように警戒はしていたが、そんなイレギュラーが起こることもなく、スノウホワイトに異変が起きた。
不自然に体を震わせて動かなくなる。両手を空に掲げ、思い切り地面を刺した。
「っ。あのモーションは……!」
案外早かったな。
スノウホワイトの——第二形態。
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