第162話 俺、おまえ嫌い

「はいよっと」


 ズバっと突進してくるモンスターを切り裂く。


 現在、俺は上級ダンジョン『永久凍土』の攻略中だ。


 魔法書を手に入れるために中間地点まで行かないといけないわけだが、シルフィーとこのダンジョンがいかにクソかを話し込んでいる最中、モンスターが現れた。


 敵はホワイトウルフ。


 寒い地方に生息するモンスターで、レベルはおよそ46くらい。


 小さいくせにクソ強いが、スペック自体はそこまで高くない。高いのはレベルだけだ。


 圧倒的に格上の俺は、そんなウルフたちを蹴散らし戦闘を終わらせる。


「相変わらず無双してるわねぇ、あなた」


「まあレベル60だからな。いまの俺とまともに戦える相手なんて、上級ダンジョンの中ボスくらいだよ」


 あいつら基本的にレベル50~60はある。


「ボスは?」


「ボスは無理。絶対に勝てない。いま挑んだら瞬殺されるね」


「うげぇ」


 シルフィーが苦い表情を浮かべて吐く真似をした。


 彼女からしたら、道中のモンスターをバッタバタなぎ倒す俺が、絶対に勝てないと称する相手に絶望しているのだろう。


 でも無理なものは無理だ。上級ダンジョンのボスはレベル80にも及ぶ。


 文字通り、他の個体とは一線を画すバケモノだ。レベル差20は、さすがに技量とか関係なく死ぬ。


 広範囲攻撃を撃たれたら、防御力貫通して即死する。


 そういう相手なんだ、ボスっていうのは。


「私から見てバケモノ級のヘルメスを瞬殺って……人類よく滅びなかったわね」


「ダンジョンからモンスターは出てこないからね」


「そうなの?」


「そうなの」


 そもそもダンジョンは、神様が人類へ与えた試練の場だ。設定だと。


 外の世界に生息するモンスターたちへ対抗するために、人類のレベルを上げるべく用意されたのがダンジョン。


 ドロップするアイテムなどは、試練を超えた、試練をこなす者への褒美でもある。


 だから外に生息するモンスターとダンジョンに生息するモンスターは異なる命令を受けており、創造した神様も違う。


 間違いなくダンジョンを創った神様(製作者)は性格悪いがな。




「ふーん……ヘルメスって本当にいろいろ詳しいわね。なんで?」


「天才だから」


「殴るわよ」


「ごめんって。でも、詳しくは話せない。自分のことはどうも語るのは苦手なんだ」


「はいはい。シャイなのねヘルメスって」


「違うけどそれでいいや……」


 説明がめんどくさい。というか前世のことなんて誰にも語れない。これは俺とアトラスくんだけの秘密だ。


 アトラスくんはこの世界に関してまったく知らないけどな!!


 その影響で俺がククのことに頭を悩ませている。


 彼を責めるのはお門違いだが、どうしても情報がないと不安になる。これまで全て情報に従ってきていたから余計に。


「グルアアアアアアアッ!!」


 思考の途中、二メートルを越える雪男が出てきた。


 どんどんと胸を叩いて凶悪な顔面をまじまじと向けてくる。


「出たよコイツ……」


 永久凍土の顔。クソウザモンスターその1だ。


「なにあれ……ご、ゴリラ?」


「雪男。まあ、ゴリラみたいなもん」


「なんか強そうだけど大丈夫?」


「平気だよ。攻撃パターンは知ってるし、いまの俺には状態異常耐性がある。あいつの厄介な点はそれと押し出しくらいだよ」


 雪男のレベルはおよそ50。


 身体能力が高めに設定されたモンスターだが、コイツがウザい理由として挙げられるのは、攻撃に『凍結』の状態異常が入ってること。


 凍結状態になると、移動以外のすべての行動が制限される。中途半端に移動だけできるせいで、ゲームだとノックバック系の攻撃を喰らってよくトラップの穴に叩き落されたものだ。


 完全に悪意まみれのステータスとしか思えない。凍結にノックバック攻撃は。


 ちなみにゲームだと麻痺は攻撃されても動かないが、ここはリアルなのでどちらも体が動く。


 結果、どちらにせよこのダンジョンだと下手すると即死トラップコンボで殺される。


 思い出しただけでも発狂しそう。実は俺もこのダンジョンで二桁は死んでる。


「ウホウホウホッ!」


 雪男が突っ込んでくる。拳を振り上げて物理攻撃だ。


「あー……なんか腹立つなおまえの顔見てると。悪いが、——全力で潰す」


 相手の攻撃を右に避ける。


 そこから流れるように右足を軸にして前に踏み出すと、雪男の懐に潜ってモジャモジャの白顎にアッパーをかます。


 鍛え抜かれた俺の筋力が、雪男をわずかに浮かせた。


 あとは剣を使って無防備な雪男を刻む。手足を切り裂くと、地面を転がっても立ち上がれない。


 ほんの一秒ほどのあいだに、一瞬で雪男はボロボロになる。


 少しは俺の怒りも晴れた。お礼とともに魔法を撃ち込む。


「本当にごめんね。その顔、見てるだけで吐きそう」


 手をかざし、火属性魔法が飛んだ。


 轟音を立てて雪男が爆散する。


 ニコニコ笑顔の俺とは裏腹に、後ろにいたシルフィーとククは、不思議とげっそりとした顔を浮かべていた。

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