第157話 俺たち一蓮托生だろ?

「ぎゃあああああああ! なにあれ気持ち悪っ」


 シルフィーに全身を刻まれたはずの魚が、瞬く間に傷を治して襲いかかってくる。


 その攻撃を横にかわすと、驚いているシルフィーに説明してあげる。


「上級ダンジョン死なずの海濫はね、あんな風に出てくるモンスターすべてが不死身なんだ。どれだけ傷つけても、灰にしても復活する。倒しても倒してもキリがない。囲まれて、不死身のモンスターによる檻が作られると……完全に積む。そういうダンジョンなんだ」


 敵が死なないダンジョンとかどんなクソゲーだよ! と当時は思った。


 RPGの概念をぶっ壊す場所だからね。倒せない以上、当然、彼らから経験値も獲得できない。


 このダンジョンはレベリングする旨みがゼロなのだ。


「はぁ!? 不死身ぃ!? それじゃあどうやって奥まで行くのよ!」


「不死身とはいえ、倒したらほんのわずかに再生まで時間がかかる。それを利用して進むのが一般的かな」


「うげぇ……まためんどくさいダンジョンね……というか、レベリングしないなら私いらなくない? なんで連れてきたのよ」


 追いかけてくる魚型モンスターを無視して先に進む。


 道中、シルフィーがおかしなことを問いかけた。


「そりゃあ、シルフィーに驚いてほしかったからね。俺たちは一蓮托生でしょ?」


「ぶっ殺すわよ」


「冗談だって」


 本当の理由は、シルフィーの支援がほしくなるくらいには厄介なダンジョンなのだ。


 下手するとゲームの頃以上に詰みかねない。その時の保険としてシルフィーを連れてきた。ドラゴンのククが来るのは計算外だったが。


 というか君、普通に飛んでるね。どうやってるんだか。その質量にその翼、普通は飛べないだろ。


「それより、複数のモンスターが出てきたらシルフィーも足止めしてね。囲まれると出られなくなるから」


「了解了解。まあ、敵が弱いから普通に攻略できそうな気がするわ」


「ふふ、それはどうかな」


 またしても不敵に笑う。


 このダンジョンはまだ始まったばかりだ。そのウザさ、ウザさ、ウザさをまだ彼女は知らない。


 一定の範囲に出ると、先ほどのモンスターはぴたりと動きを止めて振り返った。


 やはりゲームの頃と同じように、モンスターには行動範囲の制限がある。


 特にこのダンジョンでその制限は役に立つため、それを見てホッと胸を撫で下ろした。


 だが、すぐに別のモンスターが現れる。


 今度は複数の魚型モンスターだ。


「三体か……あれは無視していい。普通に突破できる」


 難しくなってくるのは、十体を超えたあたりだ。あと、色違いのモンスターが出てくるとかなり面倒くさい。


 だが、三体くらいならなんの障害にもならない。


 走り、そのまま突っ込んでくるモンスターを避けながら先を急ぐ。


 上級ダンジョンなだけあって、死なずの海濫もかなりの広さを誇るダンジョンだ。


 その上、トラップもあっておかしな部屋に閉じ込められたりする。


 そこには不死身のモンスターが溢れていたり、まったく知らない場所にワープされたりとかなり凶悪だ。


 モンスターの個体ごとの弱さを補うための措置だろうが、たいへん俺は気に喰わない。


 だから前世で、「ダンジョン考えたやつは頭がおかしい」とか言われるんだ。難易度を無駄に高くしてる。


「ヘルメスは迷いなく進むのね。何度か分かれ道があったじゃない。どうしてそっちが正解だとわかるの?」


 走りながら頭上でシルフィーが問いかける。


 シルフィーは浮遊しながら移動する。ククも飛んでるし、こいつら気楽そうだなおい。


「前にも潜ったことがあるからだよ。この世界のダンジョン事情で俺の知らないことはない——こともない」


「どっちよ」


「いやぁ、最近、俺の知識が通用しない情報が出てきてね……」


 まさかヘルメスが続編の主人公だったり、これまで関わっていた女性たちがヒロインだったりと、まったく新しい情報が出てきた。


 それはつまり、もしかしたら、俺の知らないダンジョンの情報があるかもしれないってことだ。


 むしろその可能性は高いまである。


「今後は、そういう未知の部分に対処できるように頑張ろうと思うんだ。もちろんシルフィーも協力してくれるだろ?」


「……やれやれ。とんだ貧乏クジを引かされたものだわ。けど、ヘルメスは私がいないとダメな子だし、少しくらい手伝ってあげる」


「くるるぅっ!」


「ククも手伝ってあげるって言ってるわね、きっと」


「ははっ。なんだよシルフィー。ククの言葉、わかるようになったのか?」


「少しはね」


 危険なダンジョンの中で笑い合う俺たち。なんだかんだ良い関係を築けている気がする。




 そんなこんなで前に進み続けると、やがて、俺があまり出会いたくなかった色違いの魚が現れる。


 すいすいと、他の個体より大きく異質なオーラをまとう、魚型モンスターの変異種が道を塞いでいた。


 相変わらず、簡単には通してくれないらしい。


 一度だけ減速しその場に立ち止まると、困惑してるシルフィーたちに告げた。




「気をつけろよ、シルフィーたち。あいつはちょっと普通の個体より厄介でね……下手するとみんながピンチになるから、指示には従ってくれ」

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