第156話 死なずの海濫

 水の上級ダンジョン————〝死なずの海濫〟。


 これまで俺が攻略してきた上級ダンジョン、十戒と同じく、最高難易度を誇るダンジョンのひとつだ。


 個体ごとの強さに重きを置いた十戒とは異なり、死なずの海濫はギミックというか、モンスターの特性が非常に——鬱陶しい。


 その上、このダンジョン最大の特徴は……。




「おー、キレイだな」


 上級ダンジョン、死なずの海濫へ足を運ぶ俺とシルフィー、ククの三人。


 あれだけぎゃあぎゃあとうるさかったシルフィーも、ダンジョン内部へやってくると大人しくなる。


 周りの幻想的な光景に目を奪われながら、同じ感嘆の声を上げた。


「ここがダンジョン? 観光名所じゃない、まるで」


 彼女がそう言うのも無理はない。


 上級ダンジョン死なずの海濫は、十戒のような建物がコンセプトではなく、ダンジョン全体がのだ。


 要するに、階段を下りて入り口を抜けると、そこから先はずっと水の中。


 空高くに浮かぶ擬似太陽の輝きのおかげで、キラキラと透き通るような光景が美しい。


 前世で例えると、透き通る海の中にいるみたいだ。


 当然、ダンジョンの仕組みによって生成されたこの意味不明な世界では、当たり前のように呼吸ができる。


 視界も良好だし、会話もできる。


 ゲームだと、「シンプルなデザインだなぁ。手抜きか?」と思っていたが、実際現実になって目の当たりにすると、ただただ美しい。


 だが、このダンジョンは上級。


 美しいだけじゃない。出てくるモンスターの特性がクソクソクソうざい。


 目的がハッキリしてる分、今回はそこまで問題はないが、初見で挑んだ時の苦い思い出が蘇る。


「いやぁ、昔はよくここで死んだもんだ。攻略するのに時間がかかったし、何度もコントローラーを投げたのが懐かしい」


「……は? 死んだ? コントローラー? どういう意味よそれ」


「気にしない気にしない。楽しいテーマパークだよ」


「意味わかんないし! ぜんぜん楽しそうに思えないんですけど!?」


「何事も慣れって大事だよねぇ。というか、シルフィーは妖精なんだし襲われないじゃん。ビビる必要はないよ」


 なぜだか妖精はモンスターに襲われないし攻撃を受けない。


 恐らく世界の判定でモンスターとして扱われているからだろう。


 現に、俺が彼女を攻撃するとしっかりダメージが入るっぽい。


 契約してる以上、彼女が俺に攻撃を仕掛けてくることはないと思いたいが……これまで扱いが酷かったし、少しは反省する。


「あのねぇ……ヘルメスが死んだら、私は学園に強制送還よ。また適性を持つ人が来るまで長らく待ち続けるなんて嫌よ!」


「そこは、ヘルメスがいいって言ってくれないの? 俺はシルフィーとずっと一緒にいたいのに」


「ッ……ふ、ふん! しょうがないわね。ヘルメスはすーぐ馬鹿なことするし、永遠に私が見張っていないと心配だわ!」


 顔を赤らめてぷいっと視線を逸らすシルフィー。


 あはは。本当に永遠に世話をしてくれるのかな?


 このツンデレさんは、なんだかんで世話好きなのかもしれない。


 よく、自宅で俺の世話を焼こうとしてくるし。


『ヘルメス、しっかり噛んでご飯を食べるのよ』


『ヘルメス、お、お風呂で背中を流してあげようか?』


『ヘルメス、一緒に寝てあげる。か、勘違いしないでよね!? あんたが人肌恋しいっていうから……!』


 うーん。まるで俺の母ちゃんだな。もしくは幼馴染か?


 母親はともかく、前世では幼馴染なんていなかった。


 厳密にはいたが、それも幼稚園を卒業する頃には疎遠になって、顔や名前すら覚えていない。


 くすりと笑って、シルフィーの頭を撫でる。


「はいはい。シルフィーがいてくれると、俺はずっと楽しくて嬉しいよ」


「ば、馬鹿! ほら、敵がきたわよ。戦ってあげるから敵の情報を教えなさい! レベリングでもするの?」


 ククク、こいつぁ本当にチョロいぜ。


 内心で上手く誘導できたことに、「計画どおり!」とほくそ笑む。


 だが、彼女の赤面とは裏腹に、残念なお知らせをシルフィーに伝えないといけない。


 俺は首を横に振って答えた。


「前にも言っただろ、今日はレベリングために来たわけじゃない。ダンジョンの中にある魔法書を探すんだ」


「あー……たしかそんなこと言ってたわね。じゃあサクッと倒すわよ、あのモンスター」


「ふむ……そうだね。実際に見てもらったほうが早い。お好きにどうぞ」


 本当は戦闘をする必要はないが、試しに彼女に戦わせてみる。


 敵は魚型のモンスター。無愛想な顔に、両手で持たないといけないくらいの巨体。


 そんな魚が、まるで空中を泳いでいるようにすいすい動く。


 こちらに気付くと、速度をわずかに上げて突っ込んできた。


 それに対してシルフィーが、風属性魔法をぶち込むと全身が刻まれて出血、力なくモンスターは倒れた。


「……あら? なんだかすごく弱い……前に戦った騎士より弱いんじゃない?」


「そうだよ。このダンジョンの敵は雑魚だとレベル40くらいだしね」


「へぇ。楽勝じゃない」


「果たしてそうかな?」


 余裕の笑みを浮かべる彼女に、俺は自分でもわかってるくらいの不気味な笑みを返す。


 直後、血を撒き散らしながら倒れていたモンスターが、ぴくりと


 驚異的な再生能力で肉体を復元させると、再びこちらへ猛突進してくる。




 そう。これこそがこの上級ダンジョンのコンセプト。


 ——〝不死身〟だ。


———————————————————————

あとがき。


ごめんなさい!

書けてるのに限定近況ノートのやつ推敲忘れてます……

あ、明日には必ず投稿しますぅ……

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