第152話 王女様、登場
「ダンジョンに行きたくない」
俺の目の前で、ふわふわと空中に浮いた一匹の少女がそう言った。
ニコニコ笑う俺の顔を、彼女は鋭い目付きで睨む。まるで畜生でも見ているかのようだった。
「ダメだよ、シルフィー。上級ダンジョンに行かないと、今後の戦いは生き残れないかもしれない。俺が死ぬと、君は自動的に第一学園に戻るハメになるし、ここはお互いに利益を考えて動こう」
必死に説得を試みる。
上級ダンジョンは、〝十戒〟を見てもらえばわかる通りかなりの攻略難易度だ。
道中の雑魚はそれほど強くないが、奥へいけば行くほど、凶悪なギミックが顔を覗かせる。
特に十戒は、雑魚のレベルが高いことで有名だ。他の上級ダンジョンは、地形によるデメリットや攻略のしにくさが重視される反面、正直、十戒よりめんどくさい。
だから自動で戦ってくれるシルフィーがいないと、安全は考慮するが安心はできない。
今さら便利な手駒——ごほんごほん。頼りになる仲間を捨てられるはずがなかった。
「……いま、なんか私のことを馬鹿にしなかった?」
「気のせいだよ」
「怪しい」
「気のせいだよ。俺の言ってること、なにか間違っているかい?」
「間違っては……ないわよ。たしかにヘルメスが言うとおり、あんたが死ねば魔力の接続が切れて私は学園に戻らないといけない。また窮屈な生活に逆戻りよ。けどね! だからって何をしてもいいってわけじゃないの!」
びしり、と人様の顔に向けてシルフィーが指をさす。
うんうん。わかってるわかってる。シルフィーを大切にしてるよ、いやマジで。
「だからシルフィーにはいろいろ見せてるし、いろいろ食べさせているじゃないか。貴族だからかなり贅沢できてると思うよ? なにが不満なんだい?」
「戦闘狂の手伝い」
「そんなヤツがいるのか」
「あなたよあなた。目の前の男」
「…………」
ちらっ。
「後ろを見なくても誰もいないわよ! ヘルメスに決まってるでしょ!」
「俺が戦闘狂!? なにを馬鹿な……あくまで俺は、ただ効率を求めて強くなってるだけ。戦うのが好きなわけではないよ」
失敬な。
たしかに前世では経験できない日々だ。多少はまあ楽しいのかもしれないけど、俺は好き好んで戦っているわけじゃない。
あくまで経験値を求めてレベルを上げるのが楽しいのだ。その辺を勘違いしないでほしいなあ。
「そんな笑顔で言われても説得力皆無じゃない! ……まあいいわ。とにかく。あんまり危険な目に遭わせないで! ヘルメスとレベリングしてたら気が狂いそうになるわ」
「酷い言われようだ……今度はレベリングじゃないのに」
あくまで目的は、上級ダンジョンにある〝各属性の上級魔法の書〟だ。
それさえ回収できれば問題ない。
まあ、ダンジョンに行くまでまだ時間はある。このまま話をなぁなぁにもっていって、当日、彼女は無理やり連れていこう。
どちらにせよ、現地にさえ着けば彼女は俺に逆らえない。
ククク……計画どおりに事は運ぶのだよ、シルフィーくん。
内心でほくそ笑みながら、俺はシルフィーとの会話を終わらせる。
▼
翌日。
俺の日常に、ドラゴンという新しい要素が増え、イベントに対する不安を抱えても授業は免除されない。
学園へ行く支度を済ませると、ついてこようとしたドラゴンに、
「家で待ってて。すぐ帰ってくるから。相手はシルフィーに任せたよ」
と伝え、
「きゅるる? きゅる~……」
とテンションがた落ちのドラゴンの頭を撫でて外へ出る。
背後から、
「なんで私がこのドラゴンの世話を!?」
というシルフィーの叫び声が聞こえてきたが、気にせず学園へ向かう。
馬車に乗って校門を越えると、そこから教室まで徒歩で向かった。
ガラガラと扉を開けて教室の中に入れば、数名の貴族令嬢が俺を見てこちらにやってくる。
「ヘルメス公子、聞きましたよ。あなたの家にドラゴンでいるんですって? なぜドラゴンが?」
「ヘルメスさま、ドラゴンってどういうことですか!? 可愛いですか?」
「ヘルメス、わたし、ドラゴンと戦ってみたい」
「ドラゴンについて、いろいろ教えてもらえないでしょうか? というかドラゴンに会いたいですお願いします」
順に、ミネルヴァ、ウィクトーリア、フレイヤ、アウロラの四人が俺に詰め寄る。
さすが上位の貴族だけあって、情報を得るのが早いね。
でも詰め寄られるとびっくりするからやめてほしい。
彼女たちは可愛い美少女でもある。俺が主人公であることを含めても、ドキドキした。
「あー……えっと、ひとまず落ち着いてくれ、みんな」
一度に四つもの返事は返せない。
ジッとこちらを見つめる彼女たちにそう言って、自分の席へと向かう。
「ドラゴンの件は俺も解らないことだらけなんだ。いきなり来て、俺に懐いて……なにが目的なのやら」
竜の言葉がわかれば解決するのに、なんて苦笑しながら席に座る。
四人のヒロインたちは、そんな俺の回答に、「はいそうですか終わりですか」とは言わない。
いろいろ聞きたいことがあるのか、次々に質問を重ねて言った。
すると、その途中。
教室の扉から聞き覚えのある声が響いた。
クラスメイトたち全員の視線と興味が、教室の入り口へ注がれる。
俺もそちらへ視線を伸ばすと、珍しい人物が立っていた。
金髪に紫色の瞳の少女。
全身から高貴なオーラを漂わせる彼女は、にこりと人当たりのいい笑みを浮かべて俺に言った。
「おはようございます、ヘルメスさま。お会いしたかったですわ」
どこからどう見ても、ヴィオラ王女様です。
———————————————————————
あとがき。
新作のびろー!と思いながらも六章のプロット考え中!
よ、よかったら新作のほうも応援してね……!?
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