第150話 祈りの巫女と滅びの竜

 ルナセリア公爵邸に現れた、謎の青い竜。


 この異世界においてドラゴンという種族は、生命体の中でも頂点に君臨する存在だ。


 ゲームではたしか、レベル80だか90くらいの個体が出てくる。


 正直いって、いまの俺が正面から戦えば、なにもできずに殺されるくらいには強い。


 しかし、なぜかその青い竜は俺に敵対心を抱いていなかった。


 むしろ好意のようなものを寄せ、可愛らしくすり寄ってくるくらいには人懐っこい。


 この状況は、ゲーマーなら誰しもが疑問と憶測を抱く。


 まるでゲームのイベントみたいな状況だ、と。


 そう感じた俺は、ルキナに頼んでアトラスくんを呼んでもらった。


 ルナセリア公爵邸を訪れたアトラスくんに、青い竜が出てくるイベントは続編の中になかったかと訊ねると、彼は有益な情報を教えてくれる。




「そうだよ……僕は知ってる。青い竜とのイベントは、友達がよく話してくれてた! 僕も友達がプレイするのを横で見てたから、よく覚えてるよ!」


「ほ、本当に?」


 マジか。ラッキーだ。やっぱりラブリーソーサラー2のイベントで、しかもタイミングよくアトラスくんの記憶にあるもの。


 期待に胸を膨らませて、さらに彼の返事を待つ。


 するとアトラスくんは、笑みを作ったままの顔で言った。


「たしかその竜が関わってくるイベントは、ラブリーソーサラー2の共通イベント、————〝祈りの巫女と滅びの竜〟だよ!」


「祈りの巫女と、滅びの竜……?」


 続編のイベントなのだから当然だが、そんなイベント名は初めて聞く。


 字面からして、相当にめんどくさそうなイベントだ。


「そうです、それそれ。ラブリーソーサラー2でも特に難易度の難しいと言われるイベントで、一部の最後に位置するメインシナリオ!」


「なるほど……これまでと違って、今度は続編のほうのイベントが待ち受けているのか」


 正直、高難易度と聞くと、ゲーマーとしては心踊るが、ヘルメスとしては不安が大きい。


 これまで俺が無事に完璧な立ち回りをできていたのは、ひとえに前世の記憶と知識があったから。


 しかし、ラブリーソーサラー2のイベントに関しては異なる。


 俺は一度もプレイしたことがないどころか、その存在を最近まで知らなかった。


 不利なんてレベルじゃない。完全初見で挑まないといけないのだ。


「ちなみに覚えているなら、そのイベントがどんな内容かも知っていたり?」


「ええっと……世界を滅ぼすほどの悪い竜が目覚めそうになっているから、それを救う救世主が必要だとかなんとか。で、その救世主は、小さなドラゴンとともに東の大陸にある小さな集落、————〝竜の里〟に向かうことになる、だったかな」


「竜の里?」


 なんだそれ。


「そ、竜の里。なんだっけ……過去に竜が作った村? それか、竜とともに作った村? 細かい話はさすがに僕も覚えてません。名前からしてその竜に関係してるとは思いますよ」


「だろうね。そうなると、俺が直接そこまで行かなくちゃいけないわけだが……いまは学校も授業もある。王都から出るわけにはいかない」


 いくらイベントが発生したからと言っても、それを知らない父や学校の教師に、

「ちょっと今から東の大陸に行ってきますね! 世界を救いに!」


 とか伝えても、〝コイツ頭がおかしくなったのか?〟と思われるだけだ。


 なにか適当な理由でもつけて行ければいいが……最悪、冬休みまでなにもできない。


「ああ、それなら大丈夫ですよ。きっと竜の里からお偉いさんが手紙やらを出してから、この王都にやってくると思いますから」


「お偉いさん?」


「巫女ですよ巫女。救世主であるヘルメスさまをたしかめに、竜の里からやってくるはずです。その巫女さんと一緒に、ヘルメスさまは竜の里へ赴くんです」


「なるほど」


 そういうところはしっかりしていた。


 しかし巫女ね。


 イベントのタイトルにも、〝祈りの巫女〟と記されているが、もしかしてその祈りの巫女がやってくるのか?


 救世主が俺だと判断する理由はなんだろう?


 ちらりと横を向いて、ずんぐりむっくりな青いドラゴンを見る。


 ドラゴンは俺の視線に気付くと、まんまるな瞳をこちらに向けて首を傾げた。


 ——まあ、普通に考えると判断材料はコイツだよな。竜だし、謎すぎるし。


 だとしたら救世主の条件は、ドラゴンに選ばれた人間?


 この小さくてどんくさそうな竜と一緒に戦うのか?


 すでに二回も頭を齧られたんだが?


「気になるのは〝滅びの竜〟ってところだな」


「物騒なタイトルですよねぇ。……って、そうだ!」


「うん?」


 急にアトラスくんが何かを思い出したのか、勢いよくソファから立ち上がる。


 どこか焦ったような顔で彼は言った。


「危うくヘルメスさまに伝え忘れるところでした! 実は今回のイベント、僕は友人から聞いたんですが……」


 一拍置いて、意を決して彼は続ける。




「友人は、イベントの最中に何度も殺されたらしいです。いわゆる、ゲームオーバーになったって」


「なっ……!?」


 それはつまり、友人の腕が酷すぎる可能性を除けば、それだけ今回のイベントは難しいってことだ。


 ごくりと生唾を呑み込む。


 まだそうと決まったわけではないが、真剣な表情で語るアトラスくんの顔を見ると、油断していい状況ではないことが解る。




 はたして……俺にはどんな困難が待ち受けているのか。


 本当の意味でのシナリオが、始まる——。


———————————————————————

あとがき。


昨日と同じく!

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