第149話 続編の共通イベント

「お待たせしました、お兄様」


 俺の頼みを聞いて外に出かけていたルキナが帰ってくる。


 扉を教えて部屋に入ってきた彼女のそばには、見慣れた男子生徒が並んでいた。


 彼の名前はアトラスくん。


 俺が今回の初めて見るイベントだか事件に関して、もしかするとこの異世界で最も詳しいとされる人物だ。


 アトラスくんはゲームをプレイしていたユーザーではないが、俺ことヘルメス・フォン・ルナセリアが、続編である〝ラブリーソーサラー2〟の主人公であると教えてくれた人物でもある。


 他にも彼には、ラブリーソーサラー2のヒロインを教えてもらった。


 中途半端でもいいから、今回は彼の意見、というか情報が聞きたい。


「こんなに早くアトラスくんを連れてきてくれるなんて、さすがルキナだね。助かったよ」


「いえいえ。お兄様のためとあらば、地平線の彼方へも赴きます! 私はお兄様の妹ですから!」


 褒められてルキナの表情が喜びに変わる。


 この子は単純だ。いくら俺が動けないとはいえ、まるでパシリのように利用されてもイヤな顔ひとつしない。


 姉エリスもそうだったが、どうしてそこまで兄である俺を慕うことができるのか。


 隠そうともしない好意を見て、ふと疑問に思った。


 俺は前世で姉妹や兄弟を持っていなかった。


 いわゆる一人っ子というやつだ。


 それを寂しいと思ったことはないが、たしかに兄弟には憧れた。


 気軽な仲。無二の家族。近しい理解者。


 他人の目からはそう映る関係に、一般的な理想の形を見たのかもしれない。


 だが、この異世界でヘルメスという個人に転生した結果、その姉妹きょうだいを手に入れたわけだが……。


 なんてことはない。特別な感情が湧き上がるわけでもなかった。


 大切で無二の人たちではあるものの、前世の記憶と照らし合わせても、ひときわ強い感情は芽生えない。


 逆に、姉エリスと妹ルキナからは、執着に近い感情を向けられた。


 それが男と女の違いなのか。はたまた、彼女たちが特殊なのか。もしくは……俺が冷たい人間なのか。


 普通も常識もわからなくなった現在、俺はどんな顔して彼女たちに報いればいいのだろう。




 ふと、本当にささいな考えが脳裏を過ぎった。


 ——いけないな。今はそんなこと考えている暇じゃない。


 せっかくルキナがアトラスくんを呼んでくれたんだ。彼にこの状況のヒントでも、答えでも聞かないとまずい。


 情報がないと対処のしようがないからね。


 かぶりを振って、余計な思考を頭の中から追い出す。


 困惑した様子のアトラスくんに視線を再度向けると、お互いの目が合う。


 まずは、


「ごめん。悪いんだけど、ルキナたちは外に出てもらえるかな。俺はアトラスくんと大切な話があるから」


 アトラスくん以外のメンバーを部屋から追い出す。


 ここから先は前世の、ゲームの話だ。他の人たちにはとてもじゃないが聞かせられない。


 俺の真剣な声色と表情を見てなにかを察したのか、ルキナもメイドたちも、そして父親ですらこくりと頷いて素直に部屋から出ていった。


 意外なほどあっさりしている。


 ルキナはともかく、メイドや父は仕事が残っているからかな? それに、王宮からも急いで使者が来るだろう。


 その対応のためにも、いつまでもこの部屋にいるわけにはいかなかった。


 ぞろぞろと人が連れたって部屋から消えると、ぽつーんと残されたアトラスくんに声をかける。


「とりあえず、いつまでも入り口に立ってないで、ソファに座ったらどうだい?」


「あ、ああ……うん。そうですね」


 ぎこちない返事を返して、アトラスくんが対面のソファに腰を下ろす。


 当然、視線は俺の隣に座る竜へ向いていた。


「君をここに呼んだ理由は、見たまんまだよ。なにかこの竜を見て、ゲームに関する情報はないかな? たぶん、ラブリーソーサラー2のイベントみたいなんだけど」


「そ、そっか。ヘルメスさまはたしか、ラブリーソーサラー2が発売する前にこの世界に来たんでしたっけ」


「うん、まあね」


「えっと……青い竜、青い竜……冬を目前にしたこの時期に、青い竜が来るイベント……」


 ぶつぶつと呟きながら、アトラスくんは必死に考える。


 記憶をひっくり返しながらゲームの情報を思い出そうとするが、なかなか答えは返ってこない。


 さすがにゲームをプレイしていない非ユーザーには難しかったか。


 半ば、「知らない」という返事が返ってくることを予想しながらアトラスくんの言葉を待つ。


 すると、ものの五分ほどで、アトラスくんが顔を上げた。


 その表情には、ありありと、「思い出した」みたいな感情が宿っている。


「そうだよ……僕は知ってる。青い竜とのイベントは、友達がよく話してくれてた! 僕も友達がプレイするのを横で見てたから、よく覚えてるよ!」


「ほ、本当に?」


 マジか。ラッキーだ。やっぱりラブリーソーサラー2のイベントで、しかもタイミングよくアトラスくんの記憶にあるもの。


 期待に胸を膨らませて、さらに彼の返事を待つ。


 するとアトラスくんは、笑みを作ったままの顔で言った。




「たしかその竜が関わってくるイベントは、ラブリーソーサラー2の共通イベント、————〝祈りの巫女と滅びの竜〟だよ!」


———————————————————————

あとがき。


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