第148話 助けてアトラスくん!

「さて……と」


 ルナセリア公爵邸に現れた謎の青いドラゴン。


 ドラゴンは、この異世界において最強格の筆頭だ。


 俺が知るドラゴンは、レベル80くらいあるし、図体はだいぶ小さいが、このドラゴンも相当な怪力であることが先ほど解った。


 しかし、なぜかそのドラゴンに俺は懐かれている。


 二度も頭を噛まれておいてなんだが、たぶん、懐かれている。


「くるぅ?」


 ドラゴンが、俺の隣に座ってこちらを見つめた。


 どうしたの? とばかりに首を傾げる。


 どうしたも何も、おまえのせいで公爵家は大慌てだが?


 すでに国王陛下にも、「ドラゴンが来ている」という話は伝わっているであろうから、王宮も大慌てだろうね。


 あ、ソファに座るなよ。おまえが座ったら壊れるから。


「何度見ても慣れませんわ……お兄様の隣に、あのドラゴンがいるだなんて」


「というより、ドラゴンって空想上の生き物だとばかり思っていたよ」


 対面に座るルキナと父が、交互にそんな感想を零す。


 俺だって同じ意見だ。


 まさかダンジョン産ではなく、野良のドラゴンが俺の前に現れるとは思ってもみなかった。


 おまけに人懐っこく、いまのところ暴力は振るわない。


 だから俺の頭を齧った件もノーカンにしてやる。特別だぞ。


「旦那様。クラウド伯爵とそのご令嬢がお越しです」


 コンコン、と部屋の扉がノックされる。


 入ってきた老齢の執事が、きりっとした表情で父にそう告げた。


「おお。もう来たのか。ずいぶんと早かったな」


「ドラゴンが見たいのでしょうね……あの伯爵のことですから」


「ルキナの言うとおりだな」


 俺もそう思う。


 彼女とその父親は、まさに学者って感じのタイプで、未知が大好きだ。好きすぎて自分の目で見たい! と言ってよく街の外に出ていくらしい。


 その度に、魔物に襲われているのに懲りていないとか。頭のネジが吹き飛んでいる。


 だが、今回ばかりは、彼ら彼女らの意見がほしい。


 五分ほど経って、部屋にアウロラたちがやってきた。




 ▼




「お久しぶりです、ヘルメスさま、ルキナさま、ルナセリア公爵」


 恭しくそう言って頭を下げたのは、この世界のメインヒロインがひとり、アウロラ・フォン・クラウド伯爵令嬢だ。


 彼女とこうして顔を合わせるのは夏以来か。


「久しぶりですね、アウロラ嬢。今回は早朝からお呼び立てしてすみません」


 父と妹のルキナも挨拶を済ませると、早速彼女は、俺の隣に座るドラゴンを見て瞳を輝かせた。


「そ、それが件のドラゴンですね! 青い……青いドラゴンというのは、文献にも載っていませんよお父様!」


「そうだなアウロラ! これはいろいろと憶測が立つぞ!」


 こちらの返事を待たずに、ドラゴンの周りを囲むクラウド親子。


 ドラゴンは、ふたりの出現にわずかな不安の表情を浮かべた。


「くるぅ……」


「大丈夫だよ。彼女たちは君のことを調べてくれる仲間さ。痛めつけたりしない」


「くるぅ?」


「ほんとほんと。だから少しだけ協力してあげてくれないかな?」


「……くるっ!」


 しょうがないな、と言ってドラゴンは不安や緊張を解く。


 ふてぶてしい態度で二人の学者を迎え入れた。


「お父様……いま、普通にお兄様がドラゴンと会話してるように見えましたが、気のせいですよね?」


「奇遇だな。私もそう見えた。うちの息子は天才だと解っていたが、まさかドラゴンの言葉まで解るようになっているとは……」


「なんとなくのニュアンスだよ。普通に考えて解るはずがない」


「少なくとも私には解りませんでした! お兄様すごい!」


 なぜかルキナが手放しで褒めてくれる。


 ドラゴンの表情を見れば、なんとなく言ってることが理解できると思わないのかな?


 もしかしてこれも主人公補正なのか?


「——っと、それよりルキナにひとつお願いしてもいいかな?」


「お願い、ですか?」


「うん。ちょっと第一学園までいって、〝アトラス〟っていう男子生徒を連れてきてほしいんだ。茶髪でどこにでもいそうな顔の男の子を」


「アトラス先輩ですね。たしかその名前に聞き覚えがあります」


「俺と同じ全魔法属性への適性を持った、平民の男の子だよ」


「ああ、なるほど。そのアトラス先輩を連れてくればいいんですね」


「お願いします」


「お任せください! いまから行ってきますわ!」


 さすが俺の妹。行動が早すぎる。


 メイドを伴ってすぐに部屋を出ていった。


「妹をあごで使うなんて、おまえも成長したな」


「嫌な言い方しないでください、お父様。あくまで俺がこの場を離れると、ドラゴンが暴れた際に困るでしょう? それに、ドラゴンが学園までついてきたらパニックになりますし」


「たしかに」


 すでに俺と家族以外の使用人たちは、絶賛パニックに陥っているのだ。これ以上混乱を広げるのは得策ではない。


 俺はルキナがアトラスくんを連れて帰るのを待つ。


 彼女が戻ったのは、それから一時間ほど後のことだった。


———————————————————————

あとがき。


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