四章 竜の里編

第147話 ドラゴンに懐かれている件

 空からドラゴンが降ってきた。


 自分で言っといてなんだが、意味不明すぎてうまく呑み込めない。


 まず、なぜ街中にドラゴンがいるのか。


 ドラゴンは飛べるのだから場所なんて関係ない?


 いやいや落ち着いてほしい。俺はぜんぜん落ち着いていられないけど、落ち着いてほしい。


 そもそもドラゴンは、ゲームの世界において最強と名高い生命体だ。


 ゲームだと、たしかレベル『80』くらいある。


 いまの俺では、正面から挑めば確実に返り討ちに遭うくらい強い。


 目の前の個体は、俺が知るほかのドラゴンより小さく見えるが、それにしたってどうしてドラゴンが?


 見覚えがないあたり、嫌な予感がする。


「まさか……ラブリーソーサラー2のイベントかなにかか?」


 困惑しながらも空を飛行するドラゴンを見上げていると、ふいにドラゴンの高度が下がった。


 こちら目掛けて下りてくる。


「くるるるぅっ!」


 可愛らしい高めの鳴き声を発して、ドラゴンが俺の目の前に着地した。


 蒼玉サファイアのように美しい鱗が、陽光を反射して輝く。


 まるまるっとした同色の瞳が、可愛らしい表情で俺を捉えた。


 なんだか全体的に……小さくてデブいな。




「きゅるっ」


 がぶり。


 いきなりドラゴンに頭を齧られた。


「いてええええぇぇぇ————!?」


 慌ててドラゴンを引き剥がす。


 おいこら血が出てるじゃねぇか。ふざけんな。


 もしかして俺の内心を読んだ? ……まさかな。


 ドラゴンにそんな能力があるなんて話、聞いたことがない。


 これが続編のシナリオだというなら、そういう能力があってもおかしくはないが。


 ひとまず、いまだ襲い掛かってこないあたり、もしかしたら対話できるかもしれない。


 頭を齧られたことはノーカンだ。


「な、なぁ……ドラゴン、くん?」


「くるぅ」


「どうして街中にきたんだ? 人でも食べにきたのか?」


「くくるぅ」


 違うと言わんばかりに首を横に振る。


 今さらながらになにしてんだろう、俺。はたから見たら完全に頭のおかしい人である。


 だが、やはり知能が高いのか、こちらの言葉を理解してるように見える。


「じゃあなんでここに来たんだ? まさか俺に会いにきたとか言わないよな」


「くるるぅっ!」


「おわっ!?」


 正解だったのか、気分がよくなったのか、いきなりドラゴンは俺に抱き付いてきた。


 いくら小さいとはいえ、それはドラゴンの中では、だ。


 人間より普通にデカイから、抱きつかれると俺は押し倒されてしまう。


 女の子ではなく竜に押し倒されるシチュエーション……残酷だ!


「お兄様!? な、なにを!?」


 騒ぎを聞きつけて、妹のルキナと父がやってくる。


 他にも何人かの使用人の姿が見え、ドラゴンに押し倒された俺を見てから顔色を青くする。


 これでは完全に捕食される二秒前だ。頭から血を流してるから余計にヤバイ。


 なんとか声を張って誤解をとく。


「ち、違う! 俺が餌になってるとかそういう感じじゃない! このドラゴン、俺に懐いてるみたいなんだ!」


 ガジガジ。


「頭齧られてますよ、お兄様」


 それな。


「てめぇ!! 人がせっかく助けてやろうとしてんのに何してんだ! 離せ!」


 ぐいっとドラゴンの頭を後ろに押す。


 青いドラゴンは、「なんのこと?」と言わんばかりに首を傾げる。


 イラッ。


 コイツ、今日の晩飯にしてやろうか……。


 抵抗しないのでそのまま押し返して立ち上がると、だらだらと血を流しながらにこりと笑ってルキナたちを安心させる。


 でもおかしいな、みんなの顔がより一層強張っているように見える。


 さっさと治療するか……。


 『初級神聖魔法』で傷を癒す。


 それを見たドラゴンが、また俺のもとへ抱き付いてくる。


 今度は押し倒されないように踏ん張った。


「お、お兄様……その、なぜここにドラゴンが?」


「もっともな疑問だね。ちなみに俺も知らない。朝、中庭に出たらいきなり現れたんだ」


「いきなり……それにしては、ものすごく懐かれているように見えますが……」


「どうしてだろうね。コイツとは初対面のはずなのに」


 キュルキュルキュル鳴いてうるさいドラゴンの顔を押さえつけながら、楽しい楽しい? スキンシップをとる。


 油断するとコイツの力に押し負けて、また倒される未来が見える。


 邪魔だから座っててくんねぇかな。


「と、とりあえず国王陛下には報告しないと。それに、そのドラゴンが暴れないように頼んだよ、ヘルメス」


「俺」


 無慈悲だな、父よ。


「ヘルメスなら強いしね」


「頑張ってください、お兄様!」


「ですよねぇ」


 まあ、この家でレベルが一番高いのは俺だろうし、姉エリスがいないなら俺しかいないか。


 いい加減鬱陶しいので、ぺろぺろ顔を舐めてくるドラゴンに厳しい言葉を投げた。


「おいこら。仲良くするからちょっとだけ離れてくれ。おまえのせいでべとべとなんだが?」


 サイズがでかいからただ舐めるだけでもベチョベチョになる。


 使用人や家族たちが見守る中、俺とドラゴンの攻防は続く。


 早いとこ、情報を持ってるかもしれないアトラスくんに訊ねないとな。


 コイツ、どうしたらいいのって。


———————————————————————

あとがき。


四章スタート!

気付けば150話を突破し、皆さまのおかげでここまで毎日投稿を続けられました……!

ありがとうございます!


投稿を初めて約五か月!

まだまだ毎日投稿は終わらない!

これからも何卒よろしくお願いします!



あ、よかったらまだの人は、

☆☆☆や作品フォローをお願いします!とてもとても励みになります!!!



※限定近況ノート、エリス短編の続きを投稿しました!遅れて申し訳ございません。

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