第146話 新しいイベントの予感

 今日は秋の対校戦終了を祝うパーティーが開かれている。


 場所は会場にもなった王立第一高等魔法学園の講堂。


 男子生徒たちはきっちりとした正装を、令嬢たちは煌びやかなドレスを身にまとい、食事に談笑と楽しんでいた。


 俺ことヘルメス・フォン・ルナセリアも、ある意味では楽しむべくひとりの時間を満喫しようと外へ出た。


 中庭に向かうと、そこで珍しい相手と出会う。


 彼の名前はアトラス。


 この異世界、——〝ラブリーソーサラー〟の主人公だ。


 見知らぬ、恐らくモブと思われる地味めな令嬢を連れて歩いている彼が、俺にとって信じられない言葉を発した。


 その言葉に反応して思わず彼を連れ出したが、そこでさらに信じられない言葉を聞くことになる。




 なんと俺が、このラブリーソーサラーの世界の主人公だったことが判明した。


 それも続編の主人公だとさ。


 なるほど、どうりでハイスペックだと思っていたが、続けてアトラスくんが教えてくれたのは、その続編、〝ラブリーソーサラー2〟のヒロインに関する情報だった。




「えっと、名前はたしか……ウィクトーリアって子と、セラって子と……アルテミス? って子と、ローズ子爵家の双子の姉妹がメインヒロインだったかな?」


「……う、ウソだろ……」


 ま、マジか。


 その名前に聞き覚えがある、——なんてもんじゃない。


 全員揃って俺と関係のある女子生徒の名前だった。




 ウィクトーリアは誘拐犯から彼女を助けたことがあり、その後も何度か関わったことがある。


 セラは〝学年別試験〟の際に、ロレアスくん一向に虐められているのを助けた。


 アルテミスは、ダンジョン内でピンチのところを助けたっけ。


 双子の姉妹に関しては、〝狩猟祭〟でキマイラの死体をプレゼントした。


 いま覚えば、どれもゲームのイベントに出てきそうな内容で顔が青くなる。


「全員、見事に関わってるんだが……」


「ですよねぇ。さすがゲームの主人公! って僕は感動してましたけど」


「感動するな! 止めろよ!!」


 アトラスくんの肩を掴んでぐらんぐらんと揺らす。


「へ、ヘルメス様ぁ! ゆる、ゆるし……て」


 俺のパワーに圧倒されて、アトラスくんの目が回る。


 だが、これっぽっちではぜんぜん俺の気持ちは治まらない。


 まさか単なるモブだと思っていたのに、ヘルメスが主人公でおまけにウィクトーリアたちがメインヒロイン?


 なに順調に主人公らしく物語に介入してんだよ!?


 ……いや、主人公なんだから当然といえば当然なんだけど。


「クソ! いまさら俺が主人公としてシナリオを進めないとダメなのか?」


 パッとアトラスくんの肩から手を離して考える。


 冷静になると、自分が主人公という立ち位置にいるのはそうまずいことではない。


 少なくともこれまでは、シナリオのほうが俺に干渉してきただけで、わりと自由はきいてる。


 おまけにアトラスくんというシナリオブレイカーもいるくらいだ。不安はない。


 不安はないが……いやごめんやっぱ無理。


 せっかくだから主人公としての役目を果たすか! と胸を張りたいところだが、アトラスくんはともかく、俺はラブリーソーサラー2のことなど何も知らないのだ。


 シナリオを知らないのにどうやって対処しろと?


 不可能だろ。


 アトラスくんもプレイヤーだったわけじゃないみたいだし、どう考えても詰んでる。


 こういう時は……。


「——うん! 忘れよう。俺はヘルメス・フォン・ルナセリア。ただのモブで公爵子息だ」


 ぐったりしてるアトラスくんに別れの言葉を告げて、その場から立ち去る。


 あれこれ複雑に考えるほど嫌な感情が出てくる。


 迷った時は、答えが出ない時は忘れるにかぎる。




 俺は結局、すべてから逃げてパーティーを楽しんだ。


 なに、どうせ俺が無視しててもシナリオのほうから来てくれるんだろう?


 ならそれを待つだけだ。


 たとえどんな逆境だろうと、必ず俺は越えてみせる。


 主人公だろうがモブだろうが関係ない。やっぱり俺は——最強を目指すだけだ。




 ▼




 一難さって翌日。


 ベッドから起きた俺は、欠伸を噛み殺して自宅の中庭にやってくる。


 パーティー終了後、数日間は学校が休みになる。


 それを利用して、半ば無理やりルキナに実家に連行されて今にいたる。


 久しぶり、でもない実家の布団は、やはり慣れているのかよく眠れた。


 今日は晴天なのでいいダンジョン日和だ。


 中庭で光合成? をしたあとで、準備を済ませて外に出よう。




 そう考えていると、ふいに太陽に影がさした。


 上空になにか黒い点が見える。


 黒い点は徐々にその大きさを増していき、やがてそれが、——とある生き物であることがわかった。


 ハッキリと姿、形が視認する。それを見て、俺は衝撃のあまり口をあんぐりと開いて叫んだ。




「——ど、ドラゴン!?」




 間違いない。小さく青いドラゴンが、俺の頭上を飛んでいた。


 ものすごく嫌な予感が……否。


 イベントの予感がした。


———————————————————————

あとがき。


三章『秋の対校戦編』終了!

想像の倍は長くなりましたが、無事、次の四章に話は流れていきます。



四章『竜の里編』。

ラブリーソーサラーの主人公、アトラスから真実を教えてもらったヘルメス。悩む暇もなく、そんな彼の下に謎のイベントが転がり込む⁉︎


史上最高の鬼畜イベントに挑むべく、ヘルメスは、上級ダンジョン『十戒』を除くほか上級ダンジョンにて、上級魔法の習得を目指す!


さらに、ヘルメスたちの下に、竜の里の使者が現れて……?



「あなた様が……世界を救う光なのですね」


ヘルメスの最強を目指す日々は、さらにその勢いを増していく——。




※すみません。限定近況ノートのほうは今日か明日には投稿します!遅れてすみません!!!本当に!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る