第145話 続編のヒロイン
「だってヘルメス・フォン・ルナセリアは、————〝ラブリーソーサラー2〟の主人公なんですから!」
たしかにアトラスくんはそう言った。
彼の言葉が理解できない。脳が自然とその単語を拒否する。
——主役。主人公。
加えて、〝ラブリーソーサラー2〟。
ありえない。ありえない!
徐々に理性が無理やり彼の言葉を呑み込むと、ひたすらかぶりを振って俺は内心でそれを否定する。
俺が死んだとき、ラブリーソーサラーの2は販売してなかった。
そもそも1が出たのだってそんなに昔の話じゃない。
いくら大流行しているからって、いや、大流行してるからこそ信じられない。
俺が知らない続編の話など……。
「俺が……ヘルメスが、ラブリーソーサラー2の主人公? ラブリーソーサラーは1までしか出てなかったはずなのに?」
震える声でなんとか言葉を繋ぐ。
「あれ? ご存知ありませんでしたか? 僕もプレイしたわけじゃないけど、たしかに僕が死ぬ前に発売してましたよ。ラブリーソーサラー2」
「ということは……アトラスくんは、俺が死んだあとの地球から転生したのか!?」
「あ、なるほど! たしかにそう考えると辻褄が合いますね」
ポン、と手を叩いてアトラスくんは納得する。
しかし、いまだ俺のショックというか、動揺は止まらない。
知りたいことが山のように増えた。
「……まず教えてくれ。君が言う、ラブリーソーサラー2の主人公は、本当にヘルメスなのか?」
「そうですよ。ヘルメス・フォン・ルナセリア。公爵子息で特別高いスペックを持った主人公。絶世の美貌に才能、家柄とすべてを持った存在。製作者曰く、前作の主人公、——僕ですね。僕とは対比の存在を生み出したらしいですよ」
「対比……」
そうか。
平凡で平民、才能しか持たない1の主人公、アトラス。
それに比べて2の主人公、ヘルメスは完璧だった。
美貌もあり、最高位貴族。才能もあって、だれからも愛されるような人気者。
たしかにそう言われると、真逆の人間だと思う。
「だから俺には、アトラスと同じ〝全魔法属性への適性〟があったのか……てっきり……」
てっきり、転生特典かと思っていた。
「僕はむしろ、ヘルメス様が結果を残してくれるから、ヘルメス様が主役としてこの世界が回っているのかと思ってましたよ。ヒロインたちとも関わってるし」
「俺はただ、モブだと思ってたから強さを求めていただけだ。最初の共通イベントも、あくまで自分の力を試したかっただけだし……」
「あー……だからヘルメス様はそんなにお強いのですね。ゲームをプレイしてなかったから、それが普通なんだと思ってました」
あはは、とアトラスくんは笑うが、事情を知ってる俺はぜんぜん笑えない。
「それにしたって普通は、ゲームのシナリオを攻略しようとするだろ。どうして君はなにもせずに他の子と付き合ったりしたんだ?」
「僕は生前も平凡な人間でした。その人生を悔いてもいないし、ほどほどに楽しいとすら思ってる。だから、この世界でも平凡な人生を求めたんです。ヒロインたちに関わったら、絶対に大変なことになるでしょ? それに、僕はシナリオとかぜんぜん知らないし」
「まったく……気持ちはわかるが、少しくらい頑張ってくれよ……いや、俺も君に任せようとした部分があるから文句なんて言えない立場だけど」
「お互いに同じことを思ってましたね。あはは」
コイツ……この状況でも平然と笑えるってなかなか剛毅なヤツだな。
マイペースとも言う。
だが、二年生になる前にそのことに気づけたのは大きい。
もしかすると、前に起きたウィクトーリアやミネルヴァの誘拐も、続編である2のシナリオに則ったイベントかもしれないし、今後はイレギュラーはすべて続編のせいだと仮定できる。
……ん? そう言えば、まだ聞いてない重要な話があったな。
「なあ、アトラスくん」
「はい?」
「アトラスくんはラブリーソーサラー2の話、少しくらいは知ってるかい?」
「うーん……まあ、公式サイトとか動画をチラッとくらいなら見ました。それがなにか?」
「だったら教えてくれないか。ラブリーソーサラー2のヒロインってだれなんだ?」
このゲームには恋愛要素がある。
1で五人ものヒロインがいたのなら、当然、続編の2にも複数のヒロインがいるはずだ。
基本的に前作と同じ数にすることが多いから、少なくとも五人はいるとみてる。
ドクドク高鳴る心臓を抑え付けながら、アトラスくんの返事を待つ。
すると彼は、少しのあいだ考えるような仕草をしてから、にぱっと笑みを浮かべた。
「そっか、ヘルメス様知らないのかぁ。普通に彼女たちと話してるから、てっきり知ってるのかと思ってましたよ」
さらに一拍置いて、アトラスくんは言った。
「えっと、名前はたしか……ウィクトーリアって子と、セラって子と……アルテミス? って子と、ローズ子爵家の双子の姉妹がメインヒロインだったかな?」
———————————————————————
あとがき。
実は彼女たちがヒロインだったのです!
まあ、解った人も多いとは思いますが……。
ちなみにニュクスもヘルメスとは本来関係のある人物です。正体はおいおい……。
あ、ヴィオラ王女もね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます