第143話 主人公の秘密
パーティー会場にて、多くの貴族令嬢に囲まれることを危惧した俺は、急いで中庭にある庭園のほうへ移動した。
しばらくそこで時間を潰そうとしていたところ、珍しい人物を見つける。
同じクラスにして、この世界の主人公アトラスくんだ。
見知らぬ令嬢とともに庭園内を歩いていた。
「外は涼しいね。そろそろ冬かな?」
「そうですね。マフラーとか編んでみましょうか? アトラスくんのためにプレゼントします!」
「いいの? 嬉しいなぁ……僕、不器用だからそういうの苦手で」
二人の会話が聞こえてくる。
悪いと思って別の場所へ向かおうとした。
——そのとき。
俺の耳に、驚きの情報が入ってくる。
「そういうところまでゲームどおりにしないでほしかったよ」
「…………は?」
いま、アイツはなんて言った?
ゲームと、ゲームどおりにしないでほしかった、と言ったのか?
気付いた時には、俺は動き出していた。
茂みを飛び越えてアトラスくんのもとへ向かう。
こちらに気付いた二人が挨拶するのも無視して、半ば無理やりアトラスくんの肩を掴む。
「お、おまっ……おまえ……いま……!」
「へ、ヘルメスさま? どうかしましたか?」
俺にいきなり肩を掴まれて困惑するアトラスくん。
隣に並んだ令嬢もおろおろと困っていた。
落ち着け。落ち着くんだ、俺。
ここで感情に任せて俺がアトラスくんに質問をしたら、俺だけじゃない。アトラスくんにまで迷惑がかかる。
すうぅっと盛大に深呼吸をしてから、パッと肩から手を離す。
なるべく穏やかな笑みを浮かべて言った。
「……すまない。突然。ちょっとアトラスくんと話したいことがあるから、彼を借りてもいいかな?」
「え? あ、はい……どうぞ」
恋人関係に見える彼女から許可をもらうと、いまだ困惑したままのアトラスくんの背中を押して遠くに連れていく。
普通に話す分には十分な距離をとって、アトラスくんに訊ねた。
「君にいまから質問をしたい。正直に答えてほしい。ウソをついたと感じた場合、俺は武力行使も辞さない覚悟だ」
「そ、それってどういう……」
「ワケはすぐにわかる。だから、お願いだから答えてくれ」
「は、はぁ……わかりました」
ごくりと生唾を呑み込むアトラスくん。困惑する気持ちもわかる。
だが、俺にとっては譲れない内容なのだ。少しだけ彼には我慢してもらおう。
そして、ゆっくりと口を開く。
「まず、最初の質問を。君は——〝ラブリーソーサラー〟というゲームを知っているか?」
▼
単刀直入に訊ねる。
真剣な眼差しでアトラスくんを見つめると、彼は一度大きく目を見開くと、次の瞬間には笑っていた。
「も、もしかしてヘルメス様も転生者ですか!?」
「やっぱりか……」
これほどわかりやすい回答もない。予想どおりの展開に逆に頭が痛くなる。
「そうだよ。俺もこの世界をプレイしていた。そして、前世の記憶——日本での記憶を持っている」
「うわぁ! 奇遇だなぁ。ひとりくらい他にもいるかもしれないって思ってたけど、まさかヘルメス様がそうだとは……」
「俺もびっくりしたよ。アトラスくんが転生者なんて。どうりでシナリオにぜんぜん関わってこないはずだ」
「シナリオですか?」
「ああ。〝学年別試験〝も〝倶利伽羅への貢ぎもの〟も〝秋の対校戦〟も、君は姿を見せなかった。まるでシナリオなんて関係ないと言わんばかりに」
「あー……そう言えばそんなイベント事ありましたね」
まるで、いま知ったかのように、ポンとアトラスくんは手を打つ。
暢気な顔して言うことはなかなかエグいな。
彼はわかっているのか? 自分の双肩にヒロインたちの未来がかかっていることを。
……いや、わかっているとは思えない。
わかっていたらあんなモブらしき少女と付き合うはずがない。
だとしたら、もしかして?
そこまで考えて、最悪の想像が脳裏を過ぎる。
ぶるりと背筋を震わせながら、俺は一応の確認をとることにした。
あってないことを祈りながら。
「な、なあ……アトラスくん」
「はい? なんですか」
「もしかしての質問なんだが……君は、前世でラブリーソーサラーをプレイしたことがあるんだよな? ラブリーソーサラーのシナリオくらい知ってる、よな?」
まじまじとアトラスくんを見つめながら問いかける。
すると彼は、頭上に〝?〟を浮かべたまま首を横に振った。
なんでそんなことを? と言わんばかりに。
「すみません。僕、友達がプレイしてるのを少し見たくらいで、PVとか公式サイトの説明書きを知ってるくらいです」
「う、うそ……マジか」
ここ最近で一番の……いや、転生してから一番の衝撃を受けた。
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