第142話 アトラスくん
ヒロインたちが集まったパーティー会場。
そこへあらわれたニュクスたちと会話をする中、彼女は平然と言った。
「伝え忘れてた。ヘルメス様、私と付き合ってください」
沈黙が流れる。
ニュクスを除く女性陣の目から、光が消えた。
遅れて俺が口を開く。
「つ、付き合う……? な、なにを?」
「それは——」
「ちょおおおぉぉ————と、まったあああああぁぁぁ————!」
サッとニュクスの前にアリアンが割り込む。
大きな声を上げて、両手でニュクスの顔を掴んだ。
「あんたねぇ! いくらなんでも脈絡がなさすぎるでしょ!」
「いはい……ははひへ、はひはん」
痛い、離して、アリアン、かな。
ムニムニと頬をつままれて喋りにくそうだ。
「なーにが離して、よ! あんたが余計なこと言うから周りからの視線が痛いじゃない! も~……どうするのこれ? 目力だけで殺されそうなんですけど」
アリアンの言うとおり、ニュクスの周りでは三人もの女性がニュクスのことを睨んでいた。
あの普段は温厚で怒るなんてことをしないであろうレアでさえ、ゾッとするほど暗い瞳でニュクスを見つめていた。
中でもミネルヴァとルキナの顔がヤバい。
「と、とりあえずミネルヴァ様は、その手に出してる魔法を消してくれませんか? さすがに会場で火属性魔法を使うのはどうかと思うな~……なんて」
「そうでしょうか? あなた方を燃やしたらパーティーが盛り上がると思いまして」
「盛り上がらないよ!? というかなんでナチュラルに私まで含まれてるの!? 悪いのは全部ニュクスじゃん!」
「アリアン、水臭い。私たち親友でしょ?」
「なにその親友巻き込もうとしてんの!? いーやー! 私はニュクスのせいで死にたくなああぁ————い!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながらアリアンは逃亡を図るが、今度はニュクスに腕を掴まれて拘束される。
ニュクスはレベルが高い。
剣術の熟練度も上げていると思われるので、ステータスで劣るアリアンでは逃げられない。
もがきながらも一歩も動けないでいた。
「ひとまずニュクスさんとアリアンさんは、向こうの控え室で一緒にお話しませんか? ええ、私、お兄様のことならなんでも気になるのです」
にこ~、と恐ろしいまでの笑顔を貼り付けたルキナもそれに続く。
「る、ルキナ様? なんだかものすごーく怖いんですけど……というか、だから私は関係ない……」
「ドンマイ、親友」
「ニュクスあとでぶっ飛ばす」
アリアンとニュクスの二人は、仲良くルキナに引きずられていった。
事情を聞きたいミネルヴァとレアもそれに続き、なぜかひとり、俺だけがその場に取り残される。
すぐに他の生徒たちが俺を囲もうとやってくるが、忙しい、用事があると言ってその場をあとにした。
▼
人目を避けて外の庭園にやってくる。
こういう施設があるところには、必ず庭園がある。
ゲームだからなのかお金持ちが通う学園なのか時代だからなのか。
俺にはよくわからなかった。
「それにしても……パーティー会場へ来て早々に外へ出るハメになるとは」
人気者は辛いね。
特に女性からのアプローチがすごい。
普段はだれかしらそばに女性が控えているから問題はないが、今回ばかりはゾッとした。
婚約を求める貴族令嬢のなんと多いことか。
しばらくルキナたちも帰ってこないだろうし、のんびり庭園でも眺めながら暇を潰すか。
そう思って歩き出す。
俺は庭園にほとんど興味がない。男だからっていうのはあれだが、そもそも草花にはあまり興味がない。
学園は勉学をするための場所だし、休日はダンジョンへ篭りっぱなし。
気付けばこの庭園へ足を踏み入れるのは、入学して半年くらい経つのに初めてかもしれない。
サアァァァッ、と風が吹く。
草木が揺られて独特の匂いをこちらへ飛ばした。
冬がやってくる時期だからか、少しだけ肌寒かった。
そのとき。
ふと、近くで声がした。雑草を踏みしめる足音が聞こえた。
斜めのほうへ視線を延ばすと、そこには……。
見慣れた茶髪の青年と、見慣れぬ女子生徒が一緒になって歩いていた。
あれは……。
「アトラスくん?」
なぜここに彼が?
いやそれより、そばで腕を組んでる彼女は誰だ!?
メインヒロインではない。
こう言ってはなんだが地味な外見だ。可愛らしいとは思うが、ヒロインに比べて光るなにかを感じない。
なぜか妙に嫌な予感がする。
徐々に彼らの声が鮮明に聞こえてきた。
「外は涼しいね。そろそろ冬かな?」
「そうですね。マフラーとか編んでみましょうか? アトラスくんのためにプレゼントします!」
「いいの? 嬉しいなぁ……僕、不器用だからそういうの苦手で」
続けて、彼は肩を竦めて言った。
「そういうところまで、ゲームどおりにしないでほしかったよ」
———————————————————————
あとがき。
いよいよストーリーが大きく動きます。
四章も間近だ!
気づけばまもなく150話……。
フォロワー数も35000を超え、
☆も16000になりました。
皆さまありがとうございます!!!
毎日投稿を続けてはや四ヶ月ちょっと!
まだまだ毎日投稿は終わらない!
よかったらまだの人は、
☆☆☆や作品フォローよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます