第132話 順調

 ヘルメス・フォン・ルナセリア。


 フレイヤ・フォン・ウィンター。


 ロレアス・フォン・グラディール。


 それぞれ公爵、侯爵、伯爵子息、令嬢の俺たちは、やや険悪な雰囲気のまま【秋の対校戦】、剣術の部に臨む。


 先鋒はフレイヤだ。中堅をロレアスくん、俺が魔法の部と同じように大将となる。


 最初、この順番を学校の教師と一緒に決めた時、当たり前だがロレアスくんからの否定的な言葉が出た。


 魔法の部でも大将なら、逆にこちらでは先鋒でもいいのでは? と。


 しかし、それに対する回答はこうだった。


『順番はこのままで。ヘルメスくんを最後に出したほうが盛り上がるし、先鋒はフレイヤさんが相応しいと思うわ』


 この教師の言葉に、では中堅の自分はどういう扱いなのだと詰め寄るロレアスくんを、必死に俺はなだめた。


 個人的には中堅でも先鋒でも大将でもなんでもいい。どちらにせよ勝利することに変わりはないのだから。


 だが、担当の教師曰く、最初にヘルメス——俺を出して勝利してしまうと、残りの二人が負けた時に大ブーイングが起こる可能性があるとのこと。


 一番後ろの大将に据えることで、「まあウチの大将が戦っていれば確実に勝ってたけどね」と若干の軌道修正が狙えるらしい。


 どちらも同じ意味に聞こえたが、きっと細かい部分で違うのだろう。


 プライドとか、建前とか、そういうアレが。


 とにかくそういうことで、俺は引き続き剣術の部でも大将になった。


 ロレアスくんからの刺さるような視線に耐えながら、とうとう、最初の試合が行われる。


 恐らく今回も第一学園vs第二学園が決勝でぶつかるはずだ。


 何度か訓練で見たかぎり、フレイヤもロレアスくんもそれなりに強い。


 ロレアスくんは若干微妙だが、積極的に俺と剣を交えたフレイヤは仕上がっている。


 安心して彼女に先鋒を任せられた。


「……よし。それじゃあ、行ってくる。ヘルメスに勝利を」


 木剣を片手に歩き出すフレイヤ。彼女の背中を見送りながら声をかける。


「そこは第一学園に、じゃないの? まあ、気をつけて」


「ん。問題ない」


 フレイヤはいつもどおりクールな様子で中央まで歩みを進める。


 どうやら気負いや緊張のようなものはない。あれなら自らの実力を十全に発揮できるだろう。


 後ろから、「頑張れ~」と応援しながら見守る。




 【秋の対校戦】、剣術の部が始まった。




 ▼




 剣戟の音が第一訓練場に響き渡る。


 現在、中央で試合を行っているのは、準決勝を勝ち抜こうとする第二学園と第五学園。


 優先なのは第二学園だった。


 ちなみに俺たち第一学園は、優秀な仲間たちのおかげで問題なく決勝まで進んだ。ここでも俺は出番がない。


 それでもフレイヤが嬉しそうにハイタッチを求めてくるので、彼女の勝利を何度も称えた。


 ロレアスくんも順調だ。王国でも二番目に有名な武闘派貴族の跡取りなだけある。


 いまのところ、危なげなく勝利を収めてきた。


 もちろん、ハイタッチなどしない。俺が声をかけても仏頂面で答えるくらいだ。


「——勝負あり! 第二学園、決勝進出!」


 審判が第二学園所属の生徒の勝利を告げる。あちらもあちらで問題なく決勝まで駒を進めた。


 魔法の部でも十分じゅうぶん優秀なメンバーを引き連れていたのに、剣術でも優秀らしい。


 同じくずっと戦わないまま後ろで控えていたニュクスが、めらめらと燃え滾る瞳をこちらに向けていた。


 また、彼女と剣を交えるのかな。


「ふん! やはり決勝は第二学園ですか。なかなか悪くない動きですが、ご安心ください。この度の剣術の部では、ヘルメス様の出番はありませんので。フレイヤ様とこのロレアスめが勝って終わらせましょう。悠々自適にお休みください、ヘルメス様」


 ロレアスくんの声には、若干の嘲笑と煽りのような感情が含まれていた。


 口元はニヤつき、目付きも鋭い。


 怒っているような笑っているような、ずいぶんと判断のしにくい顔だ。


 けど、俺は反対に純粋に笑みを作った。


「そっか。俺だけ楽してごめんね。勝ってくれるならなんでもいいよ。どうせ出ようが出まいが、勝つか負けるかしかないんだし。結果が勝利なら文句はないさ」


 別に俺自身が勝利にそこまで拘っているわけではない。あくまで、勝利は二の次だった。


 本当はこのイベントで、少しでも面白いものが見れると思っていただけ。


 ニュクスという本物の天才が見れただけでもうお腹いっぱいだよ。


 やれるならさっさと勝ってほしい。


「ぐっ……っ! そう、ですか。では、またあとで!」


 苛立ちに任せて舌打ちすると、ロレアスくんは機嫌が悪そうにどこかへ消えた。


 決勝戦は昨日の魔法の部と同じく、昼食を挟んだ午後からだ。


 俺もまた、適当に昼食を摂ろうと考える。


———————————————————————

あとがき。


すみません。体調を崩してしまったので、限定近況ノートを投稿するのが少しだけ遅れるかもしれません。


問題なければ平日中には投稿したい!

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