第129話 ベタ褒め

 【秋の対校戦】、魔法の部の試合がすべて終了した。


 見事、第二学園を下し、優勝をもぎ取ったのは我が第一学園。誰もが勝利を疑わなかった予想通りの勝利と言える。


 その後、俺とレアとミネルヴァは、祝勝会を兼ねて学園のラウンジにやってきた。


 学校は休みだ。授業がない。だから他に生徒も利用しないとのことで、特別に三人でラウンジを貸し切った。


 だだっ広い空間にたった三人しかいないというのは、普段の様子を知っているだけに妙に贅沢な気持ちを抱く。


 だが、互いに飲み物の入ったコップを打ちつけあい、乾杯の声を発してしばらく。俺たちしかいないはずのラウンジ内に、見覚えのある声が届いた。




「ルキナが駆けつけましたよ! お兄様!」


 そう言ってラウンジの入り口に立ったのは、他でもない俺の妹、ルキナ・フォン・ルナセリア。


 本来はルナセリア公爵領にある第四学園中等部に在籍しているはずの彼女が、美しい黒髪を揺らしてこちらへ向かってくる。


 おまえかーい。


 思わず内心で突っ込みを入れる。まさか普通に乱入してくるとは思わなかった。


 ……いや、訂正しよう。我が妹なら絶対に来るという確信はあった。想像より早かったのは、俺が決勝戦の大将戦で相手を圧倒したからかな。


 テーブルの前にルキナがやってくる。レアやミネルヴァの前でゆっくりと歩みを止めると、ツインテールに結んだ髪を頭ごと下にさげて挨拶をした。


「こんにちは、レア先輩、ミネルヴァ様。皆さまのご歓談中に申し訳ありません。わたし、ずっとずっとお兄様の勝利を分かち合いたくて……!」


「こんにちは、ルキナさん。前に何度かパーティーで会ったかしら。久しぶりですわね」


「こんにちは~。僕はぜんぜん覚えていないや。でも、噂はよく耳にしているよ。第四学園中等部最強の魔法使いって。気持ちはわかるからどうぞどうぞ。お兄さんの横にでも座って」


 ミネルヴァが涼しい顔で挨拶すると、レアもそれに続く。


 立ったままの彼女に申し訳ないと思ったのか、彼女もまたルキナと話したかったのか。自分と俺のあいだに椅子を持ってきてそこにルキナを招く。


 当然、ルキナがそれを断ることはない。


「ありがとうございます、レアさん先輩。レア先輩とミネルヴァ様の試合も素敵でした。ほとんどお二人で勝ち進んでいましたしね」


 そう言ってルキナは俺の隣に腰を下ろす。彼女の分の飲み物を目の前に出してあげると、嬉しそうにニコリと笑って「ありがとうございます、お兄様」とお礼を言ってから一口飲んだ。


「あはは、それほどでもないよ~。最後にはヘルメスくんがすべて持っていってくれたからねぇ。途中まではルキナさんが言うように順調だったんだけど」


「そうですわね。歯がゆいですが、ヘルメス公子がいなければ第一学園の優勝はありえなかった。それほどまでにあの第二学園のニュクスさんは強敵でしたわ」


「ああ、お兄様と戦った人ですね。なんでも第二学園に現れた天才だとか」


「そうそう。前に僕は戦ったことがあるけど、手も足も出なかったなぁ……。たぶん、ヘルメスくんと同じですっごいレベル高いよ、あの人」


 ごくごく、と勢いよくジュースを飲み干すレア。苦い思い出が、いま、彼女の脳裏に浮かんでいることだろう。


 あの時、僕がレアたちのもとに行けなかったら、彼女は大怪我を負っていた可能性もあるからね。


「魔法の申し子であるレアさんが勝てないほどの才能……ますます、あの方はお兄様に近いような気がしますね」


「まあ、その天才をもってしても、我が校の最強には勝てなかったようですがね」


 ふふん、となぜかミネルヴァが得意げにそう言った。


 その言葉に、俺の隣に座る妹ルキナもこくりと頷く。


「まさにその通り。お兄様と比べれば他の方は劣ってしまいます。それは仕方のないこと。天才と知られるルナリセアの歴史の中でも、お兄様はさらに一粒の原石。他に類を見ない神童でしたから!」


 恍惚、という表現が似合う顔を浮かべてルキナは言った。そこまで持ち上げられると俺が恥ずかしい。


 身贔屓も入っているからね、そこには。


「過分な評価をありがとう。世界は広いからね。もしかすると俺が知らない強者がまだまだいるかもしれない。負ける気はないけど、傲慢にもなれないさ」


「そういう所がお兄様の美徳です。ますます惚れてしまいますわ」


「そんなヘルメスくんの明日の試合は、またしてもニュクスさんが相手かな?」


 なみなみとコップに飲み物を注ぎながらレアがにんまりと言った。


 ミネルヴァがお菓子を食べながら答える。


「でしょうね。あの方の才能はフレイヤさんを超えています。まず確実に決勝戦でぶつかるでしょう。トーナメントも、第一と第二で離すはずですから」


「初っ端から第一と第二がぶつかったら、その後がしらけるしねぇ」


 うんうん、とレアとミネルヴァが同時に頷く。二人の中ではもう、決勝戦の様子が脳裏に浮かんでいるのだろう。


 俺は剣術のほうでも大将だから、恐らくまた決勝まで出番はないと思われる。


 仲間の二人が優秀だからね。フレイヤと……もうひとりのが。


———————————————————————

あとがき。


アトラスくんは後にまた出てきます。

彼は大事なキーパーソンなのですたぶん。

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