第127話 やりすぎ
自身の魔法が悉く初級魔法で打ち消されたニュクス。
彼女は圧倒的格上である俺に勝つために、背水の陣で対抗してきた。
ゼロ距離まで近付き、相手が避けられないように魔法を放つ。
魔法しか使えないこの試合では、ステータスの高さがものをいう必勝法だ。
彼女の誤算があるとしたら、俺自身のINTを除くほかステータスが軒並みクソ高かったことだろう。
彼女の動きは普通に追えたし、十分に余裕を持って魔法を合わせることができた。
火炎放射のような魔法を呑み込み、俺の水球がニュクスに当たる。
甲高い音を立ててニュクスが吹き飛んだ。地面を何度もバウンドし、最後には控えで彼女の雄姿を見守っていたアリアンたちのさらに後ろ、会場を囲む壁まで吹っ飛んでぶつかる。
魔法を打ち消した挙句、それでも十分なダメージを叩き出した。
これまでとは違う意味で空気がシーンとする。
思わず俺も、「あ……やべ」と困惑するくらいだ。
まさかあそこまで中級魔法の威力が高いとは思ってもいなかった。
初級と中級ですら威力がかなり離れている。エリア外に出すくらいで済むかな? と思っていたのに、冗談みたいにニュクスは吹っ飛んだ。
完全に俺が悪役みたいになってる。おそるおそる彼女のほうへ視線を向けると……。
「——ホッ」
よかった。ずるずると地面に倒れたニュクスは、しっかりと原型を留めていたし、血もほとんど流していない。
意識もあるのか、駆け寄ってきたアリアンになにか喋ってる。
その様子に安堵したのは俺だけじゃない。アリアンはもちろん、第二学園生と審判役の男性もホッと胸を撫で下ろした。
そして、高らかに宣言する。
「試合終了! 勝者、第一学園のヘルメス・フォン・ルナセリア!」
パチパチパチ……。
これまでの試合結果に比べて、圧倒的に拍手の音が小さかった。
理由はわかってる。
——お前やりすぎだろ!?
ってことだろ? 俺もそう思う。自分自身のバグッぷりを改めて再認識したわ。
姉エリスのことを馬鹿にできない。彼女は相手の選手を病院送りにして半殺ししかけたが、俺も似たようなことをしている。
これから高等部に上がって代表生徒に選ばれるであろうルキナにまで迷惑をかけたら嫌だな……。
ルナセリア公爵家はヤバい連中だ、とか言われたらね。
そう思っていると、ふいに遠くから叫び声があがった。
「お兄様~~~~!! 素敵でしたわぁあああ————! さすがは天才ルナセリア公爵家の跡取り! 人類最強!」
……聞き覚えのある声だった。覚えがあるっていうか、バリバリ身内だ。
ちらりと声のしたほうへ視線を向けると、案の定、デカデカと応援用の旗を持ったメイドのそばに妹ルキナを見つける。
試合が始まるまでのあいだにあんな目立つものは見えなかった。
恐らく俺の邪魔にならないよう、試合が終了するまで待っていたのだろう。
旗には、【最強】【愛してる】の文字が刻まれている。
静まり返っていたはずの空気を切り裂き、何度も何度もルキナは俺へ声援を送ってくれた。
正直、恥ずかしかったが嬉しかった。
ありがとうの意味を込めて彼女に手を振ると、黄色い悲鳴が聞こえてから静まった。
たぶん、嬉しくて倒れたのかな? ウチではよくある光景だから特に突っ込まず控えに戻る。
「おつかれー! ヘルメスくん! すごかったね! すごいっていうか、凄すぎるっていうか!」
「ええ。ええ。レアさんの言うとおりでしたわ。第二学園の天才を相手に、まさか正面から圧勝してしまうとは……」
「ありがとう二人とも。ただ俺はレベルが高かっただけだけどね」
「何を言いますか。そのレベルを上げたのもヘルメス公子の功績。誇ってください。あなたは誰よりも強かった。本当に、お疲れ様です」
フッと柔らかく笑ってミネルヴァがそう言った。
レアも朗らかに笑って「うんうん! お疲れ様だよ本当に」と労ってくれる。
「二人ともお疲れ様。とりあえず魔法のほうは勝ったね。問題は、明日の剣術戦かな」
「それもヘルメス公子とフレイヤさんがいれば勝てると信じてますわ」
「もう一人の代表はなんだっけ? あの……なんとかくん!」
「一文字も出てないじゃないですか……」
「だって興味ないし……」
「気持ちはわかりますが、貴族としてそれくらい覚えてください。名前は——」
完全にボケてるレアを見て、「この子は将来大丈夫かしら?」と母性を垣間見せるミネルヴァ。
しっかりとフルネームで生徒の名前を教えていた。
そんな二人と一緒に俺たちは会場をあとにする。
遅れて、後ろから声援や拍手が響く——。
———————————————————————
あとがき。
ぶっちゃけ、ヘルメスくんはニュクスの魔法を受けてもほとんどダメージを負いません←
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