第125話 天才と天才

 【秋の対校戦】、決勝、第二試合。


 中堅として出た第一学園代表のレアと、同じく第二学園代表のアリアンが熾烈な戦いを見せた。


 手数で捌くレアと、火力で押すアリアン。


 両者が散らす火花は、もっとずっと見たいと思わせるほど美しく面白い戦いだった。


 その果てに、最後に立っていたのは……。


「試合終了! 勝者! 第二学園のアリアン!」


 アリアンだった。


 会場中が、【魔法の申し子】に勝ったアリアンを称える。


 特に第二学園側の生徒たちの熱がすごい。


『おぉおおお————!!』


『アリアン様が第一学園のレア・レインテーナに勝ったぞ!』


『快挙よ! 今年こそは第二学園が勝つの!』


『あと一勝! 残りの大将戦もがんばってー!』


 会場中に響く割れんばかりの拍手と歓声。それらを聞きながら、むくりと倒れていたレアが立つ。


 どこか吹っ切れたような表情でくすりと笑うと、後頭部をかきながらこちらに戻ってきた。


「いや~……ごめんね、二人とも。負けちゃった」


「ううん、お疲れ様レア。すごくいい勝負だったよ。レアらしい見応えのある試合だった」


「ヘルメス公子の言うとおりですわ。お疲れですレアさん。素晴らしい試合を見せてもらいました。あなたは顔を伏せる必要はありませんよ。胸を張ってください。第一学園の代表生徒として、なんら恥じる試合ではなかったのですから」


 やや落ち込むレアに、俺もミネルヴァも優しく声をかける。


 もちろん俺たちだけじゃない。


 ずっと観戦席で試合を見守っていた他の生徒たちも、レアに優しい言葉をかける。


『お疲れ様! あともうちょっとだったよレアさん!』


『素敵でしたレア様! 来年こそは勝てますよ!』


『ウチの代表生徒はみんな強いんだ! 勝敗なんてどっちでもいい!』


「……みんな……」


 見上げた先で、多くの生徒たちと視線を交わすレア。


 誰もが誇るべき内容だったとレアを励ます。


 その通りだ。勝敗なんて関係ない。歴史上でも稀に見るほどの才能は、勝ち負け以上の結果を残す。


 第二学園生のアリアンだって、レアと戦えて楽しかったはずだ。


 そもそも……。


「そもそも、レアの目的は色々な魔法の使い手を見て楽しむことだっただろ? どうだった? レアは楽しめたのか?」


「僕は……うん。すごく楽しめた。【秋の対校戦】は最高だよ! でも、次は勝つ。負けたままっていうのも、個人的には気に入らないからね!」


「ふふ。その調子ですわ。わたくしも来年は足を掬われないように気をつけないといけませんし……ええ。レアさんと一緒に頑張りましょう」


「まあ、ヘルメスくんはともかく、僕とミネルヴァさんは来年も代表生徒になれるかどうかだけどね~」


「なぜ急にそんなネガティブなことを言うんですか! 空気が台無しでしょう!」


 冗談っぽくそう言ったレアに、ぷんぷんとミネルヴァが怒りを露にする。


 どうやらレアのテンションや精神面は問題ないようだ。


 試合終了間際は少しだけ荒れていたが、それも俺やミネルヴァ、学校のみんなのおかげで回復した。


 ミネルヴァと話し合う姿は、すっかりいつものレアである。


「まあまあ、落ち着いてミネルヴァさん。こういうのは油断しちゃだめなんだよ。さっきミネルヴァさん自身が言ってたじゃん。油断はよくないって」


「そ、そうですが……なにも【これから頑張るぞ!】って時に気分の下がることを言わなくても……!」


「たはは! 本当だよね。ちょっと面白くしてみた」


「確信犯ではありませんか! まったくレアさんはいつもそうです。練習中も面白いからと言って意味不明な戦法を編み出したり……」


「わー……なんかミネルヴァさんの説教が始まったんだけど。助けて! ヘルメスくん!」


 ガミガミ、グチグチ。


 これまでの分も含めて文句を垂れ流し始めたミネルヴァに、たまらずレアが救いの手を伸ばす。


 あれはあれで凄く仲がいいのが面白い。ゲームだとほとんど絡みはなかったはずなのに、現実になるとこうも相性がいいものか。


 レアから伸ばされた手を、しかし俺は取ることはなかった。


 苦笑しつつ、中央ステージを指差す。


「助けたいのは山々だけど、これから俺の試合なんだ。ごめんね」


「ヘルメスくーん!」


 悲痛なレアの叫びが聞こえた。ミネルヴァは止まらない。


 南無三。心の中でそう唱えてから俺は中央ステージへと歩みを進めた。


 反対側の控えから同じくニュクスが近付いてくる。


 やがて十メートルほどの距離をあけて立ち止まった俺たち。


 片や薄っすらと笑みを浮かべ。片や真剣な様子でこちらを見つめる。


「ようやく……この時がきた。前回の剣術勝負は負けたけど、今度こそ私が勝つ。魔法も、剣術も」


「悪いね。今日も俺が勝つよ。そして明日も。こんな所で負けていられないんだ」


 最強へ手を伸ばすために。




 緊張感がマックスまで高まった空気を察してか、審判役の男性が手を上げて試合の開始を宣言する。


「これより、大将戦を始めます! 第一学園代表、ヘルメス・フォン・ルナセリア! 第二学園代表、ニュクス・アルテミシア! ——試合開始」

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