第124話 手数と威力

 試合が始まった。


 レアとアリアンは同時に床を蹴る。行動は全くの同じだった。


 互いに肉薄し、魔法を唱える。


 レアは火属性の魔法を。アリアンは水属性の魔法を撃ち込む。


 これもまた第一試合と同じ光景だ。熱が急激に冷まされ蒸発。水蒸気が生まれて視界を曇らせる。


 そこへ、レアが風魔法を使い相手ごと霧を吹き飛ばした。


 当然、アリアンはそれを同じ魔法でガードする。


 ぶつかり合う魔法。同じ属性、同じ位の魔法が衝突しあうと、あとはどちらかの威力が勝るかによる。


 勝ったのは——。


「おわっ!?」


 アリアンのほうだった。


 やや強めの余波を受けるレア。あわや転びかけた彼女は、なんとかギリギリ踏ん張って次の魔法へ移行する。


 地面に手をついて、土属性の魔法を使った。


 床が不自然な振動で揺れる。その後、魔力によって生成された壁がアリアンの足元からあらわれた。


 足場が不安定になったことでアリアンの行動は遅れるが、即座に風属性魔法を使ってレアを攻撃した。


 その時にはもう、レアは動いている。


 アリアンへ肉薄し、最初と同じように火属性魔法を撃ち込んだ。


 巨大な火の塊が迫る。


 風はレアの背後を通り抜けた。


 それを見たアリアンは即座に水属性魔法で相殺。霧が生まれて最初に戻る。


 しかし、今度はレアは風魔法で霧を吹き飛ばしたりはしなかった。


 火で作った矢を巧みに飛ばし、土壁で行動範囲が制限されるアリアンへ手数によるゴリ押しを試みる。


 だが、アリアンもまた水属性魔法を広げて壁を作り、その攻撃を防ぐ。


 出力では相手のほうが上だ。恐らくレアは行動を制限しながら積極的に攻め、手数で上回ろうとしている。


「うーん……これは面倒だなぁ」


 たまらずぼそりとアリアンが呟いた。静寂ゆえに俺の聴覚はそれを捉える。


「しょうがない……ミネルヴァ様の戦法を真似するか」


 そう言って勢いよく床を蹴って肉薄する。


 レアとの距離がさらに縮まった。


 慌ててレアは風魔法で相手を吹き飛ばそうとするが、それを同じ魔法で相殺すると、お返しと言わんばかりに水属性魔法を撒き散らす。


 それ自体にダメージはさしてない。目的はレアの視界を妨害するためのもの。


 同属性の魔法で咄嗟に水をガードするが、今度は攻守が入れ替わる。


 アリアンの強力な風魔法がレアへ襲いかかった。


 レアも魔法で迎撃するが、威力が違う。レベルがアリアンのほうが高い。


 手数ならレアが勝るのに、威力が高すぎて完全には防ぎきれない。


 徐々にレアが後ろへと退いていく。それを確認すると、魔力消費なんてお構いなしにアリアンは魔法を連射した。


「く、うぅっっ!!」


 このままでは場外まで押しきられる。そう判断したレアが土属性魔法を発動させた。


 自分の足元に壁を発生させ、無理やり上に逃げる。


「逃がさないよ~!」


 それをさらに追撃するアリアン。


 レアは跳躍しながらアリアンの攻撃を避けて魔法を撃ち込む。もはや互いにひたすら魔法を撃ち込むだけの試合と化していた。


 これが魔法戦だ。魔法しか使っちゃだめならこうなるのは当然である。


 よりレベルが高いほうが勝つ。そこまで差がないなら、相手の攻撃を避けながら当てられるやつが強い。


 それでいうと、有利なのは火力の高いアリアンだ。


 彼女は魔法の出力が安定してる分、レアが防御や回避に専念しなくちゃいけなくなる。


 対するレアは火力不足。手数だけは多いが、それだけでは彼女には勝てない。


 わざわざ休日にダンジョンへ行ってまでレベルを上げたというのに、アリアンはそれを上回る。


 恐らく普段から、ニュクスと一緒にダンジョンへ潜っているのだろう。


 次第にレアが追い込まれていき、そこへアリアンが駆けた。


 距離が一気に縮まる。互いに攻撃をほとんど避けられないような距離だ。


 ——アリアンは思い切った。


 笑顔でレアに迫る。


 互いに攻撃が当たった場合、当然ながら威力の高いほうが有利になる。自分のほうが火力は上なのだからとダメージ覚悟で突っ込んできたのだ。


 これまでギリギリの距離を保ってきた戦いとは異なる。


 本当に、完全にゴリ押しだ。肉を切らせて骨を断つ。


 考えるのは簡単だが、それをあんな躊躇なく行動に移せるとは……。




 衝撃に一瞬だけレアの動きが止まる。ダメだ。もう逃げられない。


 互いの魔法攻撃がぶつかる。威力の高いアリアンの魔法がレアの魔法を貫通し、そのまま衝撃がレアを襲う。


 余波で後ろにアリアンも飛ぶが、よりラインギリギリに立っていたレアが転がり、——場外へ出た。


「試合終了! 勝者! 第二学園のアリアン!」


 無慈悲にも審判がレアの敗北を告げた。

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