第123話 譲れない戦い
【秋の対校戦】、第一試合は、見事ミネルヴァが勝利を収めた。
ひたすら物量で相手を翻弄し、火力でゴリ押すという戦法だ。
こと短期決戦に特化した戦い方は、苛烈な彼女らしい戦法とも言える。
「お疲れさま、ミネルヴァ。いい試合だったね」
帰ってきたミネルヴァと手を重ねる。ハイタッチの乾いた音が聞こえた。
「ありがとうございます、ヘルメス公子。わたくしの実力を考えれば当然! ……と言いたいですが、相手の代表生徒も素晴らしい才能でしたわ。あれで一年とは末恐ろしい」
「たぶん実戦不足だったね。レベルは高いんだろうけど、見てて反応が遅い印象だったし」
レアもミネルヴァとハイタッチして声をかける。
「レベルだけ先に上げて練習したんだろうね。期間は代表に選ばれてからかな? 見るかぎり、そこまでニュクスさんたちと仲良さそうには見えないし」
戻った男子生徒に、アリアンが気さくな笑みで話しかけているのが見えた。
しかし、ニュクスは特に反応していない。ジッと俺のことを見つめている。
「向こうにはニュクスさんがいるからね~。彼女とレベルを上げたってことなら納得できるかも。僕やミネルヴァさんもヘルメスくんに手伝ってもらったし」
「ふふ。勝敗を決したのは、互いの練習量ですわね」
ドヤ顔でミネルヴァが胸を張る。
たしかに練習量はかなりのものだ。俺がいない間も、二人はサボったりしなかったからね。
態度がデカいのは、それに似合う性格と根性の持ち主だ。
「本当にお疲れ様。いま治すから待っててね」
そう言って傷付いたミネルヴァに、神聖魔法の治癒を施す。
軽傷が一瞬にして治った。
「あ……ヘルメス公子! なにをなさっているのですか! 貴重な魔力を試合前に使うなんて……。保健室に行けば常駐の医者くらいいるのに」
「まあまあ。そんなに怒らないでよ。俺がミネルヴァの傷付いた姿をあまり見たくなかったんだ。頑張ったし、これくらいいいだろ?」
「へ、ヘルメス公子……その、ありがとうございます……」
俺が気持ちを伝えると、ミネルヴァの声は一気に小さくなった。
顔も赤いし、照れちゃったのかな? でも、傷付いた相手を見るのは辛いものがある。
下級神聖魔法くらいなら大して魔力も消費しないし問題ないだろう。
「いいね。僕も試合が終わったらヘルメスくんに治してもらおうかな」
「怪我しないで勝てば一番いいんだけどね」
「それは難しいよ。彼女……アリアンさんは、あのニュクスさんの友人。きっとレベルも練度も高いだろうからね」
ジッと、いつの間にかこちらを見ていたアリアンさんとレアの視線が交差する。
先ほどミネルヴァと戦った男子生徒は、ひとりで保健室に向かったらしい。
残った二人の少女と、俺とレアが見つめ合う。
ひとしきりの時間が過ぎると、今度はレアの番がやってくる。
「んじゃま、行ってくるねヘルメスくん、ミネルヴァさん」
手を振ってレアが中央エリアまで歩いていく。
その姿を見送って俺もミネルヴァも声を発した。
「頑張れレア!」
「頑張ってくださいねレアさん! あなたが負けてもヘルメス公子がいるから大丈夫ですよ——!」
「たはは~、さっきの仕返しかな?」
ミネルヴァの言葉に苦笑するレア。それでも彼女の声には恐れや不安などはなかった。
これからアリアンと戦えることが嬉しくてしょうがない。そんな感情が宿っているように聞こえた。
向こうからもアリアンさんが歩いてくる。
「アリアン、負けたら承知しない。あとで虐める」
「ニュクスは鬼なのかな!? もうちょっと第一学園を見習おうよ!」
「よそはよそ。ウチはウチ」
「ムカつく~。あとで絶対に虐めてやる……」
中央エリアに到着するアリアンさん。彼女は仲間からの脅しを受けながらも飄々とした笑みを浮かべていた。
正面に立つレアを見て声をかける。
「こんにちは、レアさん。学園で見かけたとき以来だね~」
「こんにちは。そうだね。今日はアリアンさんと戦えるのが楽しみだったよ」
「私も楽しみ~。だって、前は戦えなかったしね。この手で魔法の申し子を越えられると思うと、今にも震えてくる……!」
「そっか~。でも、僕は負けないよ? ニュクスさんがヘルメスくんと戦えないのは残念だけど、手を抜くわけにはいかないからね」
「あはは。たしかにニュクスは残念がるけど……こっちも負けられないから、——全力でいくね?」
両者のあいだにぴりぴりとした空気が流れる。
会場もふたりの圧に押されて音が消えた。
奇しくも先鋒戦と同じように静寂が支配し、静まった会場内に審判役の男性の声だけが響いた。
「第二試合、中堅戦——始め!」
合図が聞こえる。
同時にレアとアリアンさんが地面を蹴った。
———————————————————————
あとがき。
来週くらいには限定近況ノート出せるかな?
ちょっと体調不良気味ですがいける!
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