【Web版】モブだけど最強を目指します！～ゲーム世界に転生した俺は自由に強さを追い求める～

第122話 どんなもんですか！

　昼休みが終わり、早くも【秋の対校戦】が終盤へともつれ込む。

　相手は、天才魔法剣士ニュクスを擁する第二学園。

　訓練場に足を踏み入れたレアとミネルヴァのやる気はマックスだった。

　漲る闘志の込められた眼差しで、正面奥に控えるニュクスたちを見つめる。

　対するニュクスたち第二学園生も、にやりと笑って俺たちを見ていた。

　互いの視線がぶつかる。審判と進行役の男性が揃って声を上げた。

　決勝戦の始まりを、周りの観戦席で見守る生徒たちに告げる。

　訓練場内部がすさまじい熱気に包まれた。

「さて……まずはわたくしの出番ですね。華やかな勝利を届けますわ」

「頑張って、ミネルヴァ」

　リング中央へ歩みを進めるミネルヴァ。その高貴なるオーラに、会場のだれもが魅了された。

　俺も例外じゃない。めいっぱいの激を飛ばして彼女の背中を見守る。

「頑張ってね～、ミネルヴァさーん！」

　レアも堂々としたミネルヴァの背中を見て激励を飛ばす。

　だが、

「負けても大丈夫！　あとには僕とヘルメスくんがいるから～！」

　と余計な言葉まで付け足した。

　ミネルヴァがぴくりと反応を示して足を止める。ちらりと背後を見ると、

「余計な言葉をありがとうございます。わ・た・く・し・が！　勝つので問題ありません」

　青筋を浮かべて、辛うじて笑顔でそう答えた。

　隣でレアが、「ひぃっ！　お、怒ってる……」と一歩後ろへ下がる。

「ただの冗談だったのに……緊張を解すにはちょうどいいかなって……」

「それも本人に言ってあげるべきだったね」

　もう遅いと思うけど。

　中央エリアに足を踏み入れたミネルヴァと、第二学園の男子生徒が正面で睨み合う。

　あとは審判が試合開始の合図をすれば始まる。

　だれもが二人を見守り、あれだけうるさかった会場の空気が徐々に静寂に支配されていく。

　音が消え、完全に静寂に包まれた瞬間。

　——審判の男性が合図を出した。

「それではこれより、第一学園と第二学園の試合を行います。先鋒戦——始め！」

　戦いの幕が切って落とされた。

　先手はミネルヴァ。火属性の魔法を使って果敢に攻め立てる。

　ここ一ヶ月ほどですっかり魔法の操作が上手くなった彼女。

　その一撃は決して軽くない。相手の男もそれがわかっているのか、魔法による相殺は狙わず、巧みな動きでミネルヴァの魔法を避けていく。

　だが、魔法が飛んでこないとわかるとミネルヴァは距離を詰める。

　彼女は生粋の近接戦闘型（インファイター）。守りや回避より攻撃を優先し、自分が倒れるより早く相手を倒せ、がモットーだ。

　それゆれに、魔法攻撃を当てやすくするために距離を縮めていく。

　男は逆に、一定の範囲を守って戦うタイプなのか、嫌そうな表情を浮かべてミネルヴァを迎撃する。

　放出された属性は水。相性は向こうのほうがいい。

　が、ミネルヴァはその魔法を、相性が悪い火属性で相殺しながら男に迫る。

「くっ——！」

　たまらず男が引くが、【秋の対校戦】のルール上、行動できる範囲には制限がある。

　基本的に魔法戦は、どちらの魔法の威力が強いかで勝敗を決するところだが、中には、ミネルヴァのような戦法で優位を掴もうとする者もいる。

　こうなると、中・遠距離型の魔法使いは不利だ。

　逃げ場がなくなり、相手を迎え撃つしかなくなる。

　ミネルヴァの能力が相手より下の場合は逆に不利になる戦法だが、彼女の才能もまた一級品。

　属性による相性がよくても、ミネルヴァがどんどん押していく。

「攻撃の手が——止まりましたわ！」

　範囲に優れる火属性魔法をうまく活かし、相手の防御を広げたところに一点集中の攻撃が飛ぶ。

　わざと視界を狭め、見えなくすることで一瞬だけ相手の行動が遅れる。

　速度を活かした戦法を駆使するミネルヴァを相手に、その一瞬は致命的すぎた。

　どんどん相手の動きが遅くなり、ミネルヴァの動きを追えなくなる。

　炎が水の壁すらも蒸発さえ、わずかに曇る視界。

　こうなると、もろ共の範囲を吹き飛ばせるミネルヴァの魔法が優勢だった。

　巨大な炎の塊が、正面に立つ男子生徒を包んだ。

　男の叫びが上がる。魔法でギリギリガードは間に合ったが、それゆえに完璧な防御はできない。

　衝撃で後ろへ飛び、引かれたラインを超えて外に出る。

　床を転がり視界が晴れたところで……。

　審判が試合終了の声を上げた。

「——そこまで！　第一試合、第一学園ミネルヴァ・フォン・サンライトの勝利！」

　わぁ、と会場が揺れる。

　びりびりと盛大な声が、俺たちの耳をつんざく。

　だれもが対戦相手を称え、同時にミネルヴァの勝利を祝った。

　これで少なくともレアが負けても、俺が出場することは決まった。

　少しだけ怪我を負ったミネルヴァが帰ってくる。

　疲労を滲ませながらも、彼女は笑った。

「ふふ。どんなもんですか！」