第119話 お、お前は!

 普通に第2学園が勝った。


 むしろ第7学園は、他の代表生徒に比べるとそこまで強くなったくらいだ。


 対校戦がはじまる前にクジ引きで準決勝進出が決まっただけの運。本当に、彼らはそれだけだった。


 あまりにあっさりと第2学園が勝つから、会場の空気がシーン、としてしまう。


 しかし、それもほんの少しの間だけ。


 審判の男性が、休憩を挟んで決勝戦を行う——と宣言した途端、訓練場内部は再び割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。


 1時間ほどの休憩を挟み、とうとう第1学園と第2学園がぶつかる。




 ▼




 第2訓練場をミネルヴァやレアとともに出る。


 現在、決勝戦を前にした休憩時間だ。


 選手も食事やら休息を楽しむ。


「ふう……順当とはいえ、やはり次は第2学園ですか」


 ラウンジの一角、円状のテーブル席に腰を下ろしたミネルヴァが小さく呟いた。


 その言葉の中には、これまで以上の不安を感じる。


「そうだねぇ。さすがに緊張しちゃうよ。ミネルヴァさんと僕、どちらかが一勝でもしないと敗退だからね。優勝確実! とか言われておいて、ヘルメスくんを試合に出さなかったらどんな批判を受けることか……」


「あなたはわたくしを励ましたいの? それとも陥れたいの? 変に緊張させないでください! 見ないフリをしていたのに!」


 レアのネガティブ発言にミネルヴァがキレる。でも事実なのでストレートに苛立ちをぶつけることができなかった。


 俺はくすりと笑う。


「まあまあ。俺は別にそれでもいいよ。二人が頑張ってくれた結果なら、どんな内容でも受け止める。これまでの試合では二人にまかせっきりだったからね」


「それは当然です。ヘルメス公子は我々の大将なんですから」


「そうそう。後ろでドーンと構えててよ。僕とミネルヴァさんのどちらかが勝てばいいんだから」


「……まあ、最終的にそこへ着地しますよね」


 ハァ、とため息をつくミネルヴァ。


 彼女の表情に再び緊張の色が混ざる。そこまで気負わなくても、みんなで戦った結果なら俺は受け止められるのに……なんて、そんなの何の意味もないか。


 大事なのは周りの意見だ。それが結果的には優先される。


 特に彼女は公爵令嬢だし、家のこととかいろいろあるに違いない。


「とりあえず一勝を目標に頑張ろう。それより、さっさと軽く食事を済ませておかないと大変だよ。空腹だと力も半減しちゃうからね」


 前世では面白い言葉があった。


 【腹が減ってはなんとやら】ってね。


 別に命をかけてるわけじゃないからアレだけど、彼女たちの覚悟が少しでも前向きになるよう、なにか軽食を頼もうとする。


 空腹は人の感情、思考能力さえも下げてしまう。


 食べすぎはまずいが、軽く胃になにか入れるくらいは平気だろう。


 テーブルに置かれたメニュー表を開く。


 ここはゲームの世界だ。多少おかしなものがあっても驚きはしない。


 前世に比べると料理の数は少ないうえ味も落ちるが、今ではすっかりそれも慣れた。


 昼だけどサンドイッチくらいがちょうどいいかな?


 肉とかいまの体にはよくないだろうし。


「俺はサンドイッチにでもしようかな」


「僕は甘いものがほしいなぁ。たくさん魔法を使って疲れた~」


「ヘルメス公子と同じものをお願いします」


「レアは甘いもの。ミネルヴァは同じやつだね」


 昼食時に甘味を優先的に食べるのってどうなんだろう?


 あまりお行儀がいいとは言えないが、レアは二回も代表生徒と魔法を撃ちあったからね。


 その疲労はなにもせずに見ていた俺とははるかに違う。


 同じく二回ほど魔法を撃ちあったミネルヴァは、緊張こそしてるがあまり疲労の色は見えない。


 試合を見ていた感じ、魔力消費量はミネルヴァのほうが多いように見えたが……。


 きっと、緊張のせいで疲れも飛んでるな。いまは自覚させないほうがいい。決勝戦が終わった途端に緊張の糸が切れて自動的に疲労を自覚するだろう。


「じゃあちょっと注文してくるね」


「ありがとうございます」


「ありがとー! ヘルメスくん」


 厨房前のカウンターに向かう。二人には少しでも休んでいてほしかった。




 しかし、俺がカウンターのほうへ足を運んだ瞬間、背後から声をかけられた。


 ——妙に、聞き覚えのある声が耳に届く。


 ドクン、と跳ねた心臓。ぴたりと足を止めて振り返る。




「……な、なんでお前がここに……」


「ふふ。あはは! お久しぶりですわね……会いたかったですよ、


 俺の後ろに、見覚えのある顔の女生徒が立っていた。


 不敵な笑みを貼り付け、どす黒い瞳をこちらに向ける。


 ケタケタと笑う様子はどこか不気味で、それでいて愛おしそうに俺を見つめる彼女は言った。




「ルキナが会いに来ました」


———————————————————————

あとがき。


皆さま、ギフトや応援ありがとうございます!

お礼になるか判りませんが、本作経由で貰うことが多いため、本作の特別短編でも限定近況ノートに書こうかな、と考え中です!

皆さん読んだりしますかね?


『姉エリスとの短編』

『妹ルキナの短編』

『もし、ヘルメスが第二学園の生徒だったら?』

などなど。

ご興味ありましたら教えてください。

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