第118話 緊張とは無縁だった
ゲーム【ラブリーソーサラー】の共通イベントがひとつ、——【秋の対校戦】が始まった。
第1試合は、第1学園と第5学園の代表生徒がぶつかり合う。
しかし、結論だけいうと第1学園の圧勝だった。
誰もがその結果を予想していただろう。先鋒と中堅で出たミネルヴァとレアが、相手の代表生徒を蹴散らし、大将である俺が出る暇もなく2回戦への進出が決まった。
片やもう第1試合後半、第2学園対第3学園の試合もまた一方的なものだった。
前回はニュクスと一緒にいなかった男性の代表生徒とアリアンが、相手の生徒を蹴散らし第2試合へ。
次は第1学園と第4学園。第2学園と第6学園の試合だ。
「まずは一勝、だね。お疲れ様ふたりとも」
試合がはじまる前。準備の段階でふたりに声をかける。
すると、ミネルヴァもレアも一勝したことでやや自信のある顔つきに変わっていた。
「ありがとうございますわ、ヘルメス公子。ですが、さすがは各学園の代表生徒。存外、苦戦させられるものですね」
「ありがとうヘルメスくん! 僕はいまのところまだ余裕があるかな~? まあ、足元を掬われないように注意するけど」
「うんうん。一戦通してかなりいい顔になったね。次も二人の勝利を信じてる」
「嫌な応援の仕方をしてきますわね……。あまりプレッシャーをかけないでください。——と言いたいところですが、後ろにあなた方がいると憂いはありません。先に行って来ますわ」
そう言うとミネルヴァは先鋒戦がはじまるため訓練場の中央へと向かった。
それを見送って僕とレアはくすりと笑う。
「なんだかいい調子だね、ミネルヴァさんは」
「そうだね。まだ緊張は残ってるけど、多少の緊張は誰だって持ってるもの。緊張以上に自信があるならなんの問題もなさそうだ」
ありていに言えば【固くなってなかった】とでも表現するべきか。
あれなら下手なミスは犯さないだろう。
「へぇ……その口ぶりだとヘルメスくんも緊張するってことかな?」
「そりゃあね。俺だって人間だもの」
「嘘だなぁ。僕、あまり他人の感情に敏感なタイプじゃないけど、ヘルメスくんからはいつもの空気を感じるよ」
「いつもの空気?」
「そ。いつものヘルメスくん。おおらかで、不動で、なにも気負っていないヘルメスくん」
「……要するに、緊張してるようには見えないってこと?」
「たはは。そういうこと~」
あっさりとレアは俺の言葉を肯定した。
まあ、たしかに彼女の言うとおりではある。別に緊張はしていない。
最初は少しくらいするかも? と思ったが、よくよく考えれば学生と俺とではレベルがあまりにもかけ離れている。
3年生の代表生徒にすら初級魔法で撃ち勝てるのだから、1年生相手に緊張しろっていうのが無理な話だ。
けど、大勢の前で戦うっていうのは一種のプレッシャー。そういう意味では緊張してるのかもしれない。
「でも落ち着く」
「落ち着く?」
「うん。いつもどおりのヘルメスくんを見てると、心が冷静さを取り戻していくの。だから、ヘルメスくんはそのままでいてね? 僕が勝てるように」
「……そうだね。ミネルヴァもレアも負けたら、俺まで順番回ってこないし」
「期待の天才! 一戦もすることなく退場! とか言うのも面白そうだ」
「笑えないって」
にやりと笑ったレアに、俺はため息を零して苦笑した。
それからほんの10分後。
攻撃に重きを置いたミネルヴァが、見事勝利を収めて先鋒戦が終わる。
続く中堅戦のレアも、危なげなく勝利を収めた。
むしろ相手に同情したくなるほどレアの戦い方は巧みだった。
4つの属性が使えるアドバンテージは大きいね。
そして、俺は出番のないまま決勝へと移行する。
▼
「ふふ! ふふふ! ヘルメス公子がいなくても無事、決勝戦まで進むことができましたわ!」
試合を終えて高らかにミネルヴァが叫ぶ。
水を飲みながらレアがこくりと頷いた。
「そうだねぇ。一戦くらい落とすかな? って思ってたけど、ぜんぜん余裕だったよ~。やっぱり、一番の強敵は第2学園の人たちかなぁ? 今年は全員がレベル高いって噂だし」
ちらりとレアの視線が、現在試合中の第2学園生に向けられた。
あちらもあちらで今のところニュクスが出てくる気配はない。
他の生徒たちが予想したとおりとはいえ、第1も第2も戦力を温存できていた。
あとは第2学園がシード枠になった第7学園とぶつかり勝ったほうが決勝戦となる。
果たしてくじ引きで運を引き寄せた第7学園は、そのまま第2学園を倒すダークホースになりえるのか……。
期待の込められた第2回戦最後の試合が行われる。
———————————————————————
あとがき。
皆さまからの厚い応援が嬉しいぃ……!!
本作経由でギフトをくださった方にも最大限の感謝を!
まだまだ毎日投稿はやめられない!
200話とか300話くらいまでは続けたい!
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