第117話 秋の対校戦
王国各地の学園から選ばれた精鋭たちが、ここ【王立第一高等魔法学園】に集まる。
次から次へとやってくる馬車を見下ろして、柄にもなくみんな緊張していた。
「いやぁ……本番まであっという間だったねぇ」
沈黙を破ったのはレアだった。
やや気まずい顔で呟く。
「調整のほうは大丈夫そう?」
「ヘルメスくんほどじゃないけど、僕だって頑張れるってことを証明しないと! まあ、さすがに短期間でニュクスさんより強くなるのは無理だったけどねぇ」
「彼女は恐らくレベルも相当に高いからね。こればっかりはしょうがないよ。たぶん、大将戦で僕が戦うから平気さ」
「その時は任せました!」
びしり、とこちらを見上げながらレアが敬礼する。その可愛らしい仕草に、固まった空気もわずかに和らいだ。
「ふふ……レアさんを見ていたら、緊張も吹き飛びましたね。わたくしが前座なのは認めにくいものがありますが、ええ。ヘルメス公子がいればきっと勝てると信じています」
「ミネルヴァ様が緊張? 珍しいこともあるもんだね」
「あなたは一言うるさいですよ、レアさん。わたくしとあなたのどちらかが一勝でもすれば、勝ち上がるのは必然。調子に乗って足を掬われないようにしてくださいね!」
びしり、と鋭いミネルヴァの指摘が飛ぶ。
だが、マイペースなレアはたとえ優等生のミネルヴァにそう言われてもお構いなし。のほほん、とした表情で笑う。
「わかってるよ~。さ、それより早く第二訓練場に行こうよ。もう結構集まってるだろうしね」
「……まったく。そうですわね。行きますわよ、ヘルメス公子」
「ああ」
先頭を歩くふたりに続いて、俺も歩き出す。
▼
第2訓練場に入ると、すでにそこには多くの生徒がいた。
周りを囲むのは、各学園から応援に駆けつけた貴族令嬢や子息たち。
当然、そこには第一学園の生徒も含まれる。
「うひゃー! 観戦の人だけでも席が埋まってるよ~。そんなに興味があるのかねぇ、みんな」
レアがたまらず驚きの声を漏らす。
俺も非常に同意見だった。
「当たり前でしょう。【秋の対校戦】は学園の名を背負った戦い。普段はあまり興味がない生徒も、自分たちが在籍する学園は勝てるのかどうか気になるものです」
「……ミネルヴァ様、もしかして緊張してる? 今日はやたら口数が多いね」
「——ッ! こ、このわたくしが緊張などととと!」
「噛んでる噛んでる」
見事にミネルヴァは自爆した。
レアが腹を抱えて笑っている。
「あはは! そっか、ミネルヴァ様は緊張を紛らわせるために喋ってたんだね。いやー、気持ちはよくわかるよ!」
「ぐぐぐ! そのやたらムカつく顔をこちらに向けないでもらえますか、レアさん!」
俺はわかってるぜ? とドヤ顔を浮かべるレアに対して、ミネルヴァは顔を真っ赤にしてキレる。
二人ともほどほどに緊張してるのが俺にまで伝わってきた。
「ふふ。落ち着きなよ二人とも。練習でやったようにすれば俺たちは勝てるよ。一勝でもしてくれれば俺が必ず勝つから、まずは肩の力を抜いていこう」
「ヘルメス公子……」
「ヘルメスくん……」
「さすがに、公子は言うことが違いますね。あなたの顔を見ていると、不思議と落ち着きますわ」
「それはよかった。なに、みんな強いんだから不安に思う必要なんてない。俺たちは俺たちの戦いをみせよう」
「はい」
「うん!」
ミネルヴァとレアの顔から憂いが消えた。
どこか自信すら感じさせる表情を見て、これなら問題ないと判断する。
そして、第7までのすべての学園の代表生徒が第2訓練場に集まった。
学園長が渋い声で【秋の対校戦】のはじまりを告げる。
割れんばかりの歓声が訓練場を埋め尽くした。離れたところで、こちらを見つめるニュクスと視線が交差する。
トーナメント表を見るかぎり、彼女が在籍する第2学園とは決勝戦で当たる予定だ。
楽しみは最後までとっておこう。
踵を返し、まずは第1学園と第5学園の試合が始まる。
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