第116話 第四学園の天才

 たまたま教師に呼び出されていて学園に向かうと、俺は予期せぬ戦いに巻き込まれた。


 レアをギリギリのところで助けることはできたが、それにしたっていきなり【秋の対校戦】でぶつかるかもしれない相手に勝負を挑まれるとは……。


 教師との話が終わり、すっかり夕陽ののぼった空を眺めながらふと、一、二時間前のことを振り返る。




 彼女——ニュクスは強かった。


 紛れもない天才だと言える。俺がふざけたレベルに達しているだけで、本来、同学年で彼女に勝てる者はいないだろう。


 ちょっと刃を交えただけでも、彼女がそれなりのレベルだということはわかった。


 恐らく40から45といったところか。


 天才剣士フレイヤですら20から30だというのに、それをはるかに超えた数値を持っている謎の少女。


 俺が見たことも聞いたこともなかったキャラなのだから、ゲームのモブだろうが……それにしては強すぎる。


 ゲーム本編に出てきたら、極限までステータスを上げたプレイヤーのライバルにもなりえる存在だ。


 その場合、他のキャラの好感度を一切稼いでいないのでバッドエンド直行なわけだが。


「またイレギュラーな要素、か。慣れてきたけど、これが現実になったことによる弊害なのかな?」


 それか、俺というバグに合わせて周りが強くなったのか。


 どちらにせよ、今のところ予想外すぎる問題ではない。


 戦った感触的に本番でも圧倒できるだろう。魔法のほうは未知数だが、あのレベルでは上級魔法が使えるようには見えない。


 どちらにも参加してくる以上、おそらく決勝戦は彼女と俺の一騎打ち。


 何度も戦うのはどうかと思うが、剣術も魔法も勝利は揺るがない。


 勝つことで少しくらい学園と両親、ひいてはルナセリア公爵家に貢献しておこう。


 父にはかなり自由にさせてもらってるからな。




 そう最後に結論を出し、俺は廊下を渡って昇降口を目指した。


 いよいよ、これから【秋の対校戦】が始まる。


 各学園の威信をかけたバトルだ。


 中には面白いものが見れる可能性だってあるだろう。むしろ俺は、そちらのほうが楽しみだったりする。


 ああ……本当に楽しみだ。


 この時の俺は、一瞬たりとも考えることをしなかった。その【秋の対校戦】で、に出会うなんて可能性を……。




 ▼




 場所は変わってルナセリア公爵領。


 そこは、天才の一族が治める領地。王国内でもとくに急速な発展を遂げているため、第二の王都とさえ称される場所だった。


 そんなルナセリア公爵領にある【王立第四中等魔法学園】にて、ひとりの女生徒が靴音を鳴らして廊下を歩いていた。


 夕陽に照らされる横顔は、幼さを映しながらも非常に整っているのがわかる。


 あともう少し年齢を重ねれば、きっと社交界で名を残すほどの美人になるだろう。それが誰の目からも明らかだった。


 事実、まだ学園に残っていた男子生徒たちは、みな彼女を見て顔を赤くする。


 そんな絶世の美少女——ルキナ・フォン・ルナセリアは小さく呟いた。




「ようやく……ようやくよ! ギリギリ間に合う! 今ならまだ、【秋の対校戦】が始まるまえに王都に着ける! やっと……やっとに会える!」


 仏頂面だった顔に喜びの色が浮かぶ。徐々に歩く速さが増していき、それがスキップへと変わった。


「本当にようやくだわ……。お母様を必死に何度も何度も何度も説得して……ちゃんと学園でもいい成績をとって今日! お兄様の晴れ舞台を見にいける! そもそもなんでお兄様が第四学園にいないのよ!! お兄様はルナセリアの人間でしょ!? 王都じゃなくてこっちにいたっていいじゃない……!」


 ぶつぶつと徐々に彼女の様子が変わっていく。


 最初は兄ヘルメスのもとへ行けるのが嬉しい、から、今度はなぜ近くに兄がいないのか、という不満へと。


 一度出た文句はなかなか止まらない。堰を切ったように彼女の口から溢れる。


「大体……!」


「——あ、ルキナ様だ」


「あら、シオン。こんな所でなにしてるの。早く帰りなさい」


 言葉の途中、正面奥から見知った顔の女生徒がこちらにやってくる。


 どこかポアポアした感じの少女だ。


 名をシオンと呼ばれた彼女は、ゆっくりと手を振りながら挨拶を交わし、ルキナの表情を見て首を傾げた。


「あれー? ルキナ様、なんか機嫌がいい?」


「ん……? よくわかったわね。聞きなさい! 今回の【秋の対校戦】を見に行く許可が貰えたわ! これでお兄様に会いにいけるの!」


「でたー、ルキナ様のブラコン。健在だね」


「当たり前でしょ!? 妹が兄を愛するのは当然のこと! 今はそれが過ぎてちょっと距離を離されたけど、本来は妹が兄の応援に行くのが当たり前なの! 妹は兄のためになんでもするのが世界の常識なの! 嬉しいに決まってるじゃない」


「うんうん。でも、キスとか下着を盗むとか一緒にお風呂に入るのはどうかと思うよ?」


「——は? なんで? 常識じゃない。意味わかんない」


 心底わからないといった顔で友人を馬鹿にするルキナ。


 それを見て、「いつもどおりのルキナ様だなぁ」と彼女は能天気に笑った。


 そして、


「それより、しばらく私はいないんだから一人でもしっかり起きなさいよ? じゃあね、シオン」


 ルキナは手を振って彼女と別れる。


 シオンもまた手を振って彼女を見送った。


「うん、頑張るね~。いってらっしゃい」


———————————————————————

あとがき。


やっと妹出せた……。

姉?それはまた先の話です……。

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