第113話 剣術戦

「ニュクスのお願い?」


「ええ。いますぐあなたと戦いたい。剣術でも魔法でもどっちでもいいから」


「……俺と?」


「是非!」


 喰い気味に肯定された。


 俺と戦いたい、か。別に彼女と刃を交えるのはいいけど、そもそもの疑問がある。


「なんで俺と戦いたいの?」


「ヘルメス様がこの学園の代表生徒で、なおかつ有名人だからだよ~。王国最高の天才って呼ばれてるの、まさか本人が知らないわけないでしょう?」


 ニュクスの代わりに隣の女生徒、アリアンが答える。


「知らないんだが……。俺のいない所でそんな風に呼ばれてるの?」


 ちらりと答えを得るためにレアとフレイヤに視線を向けた。ふたりは無言でこくこくと首を縦に振る。


 どうやらマジらしい。普通に衝撃の事実だった。


「どうやら本当にそう呼ばれてるらしいけど……うん? ちょっと待って。この学園の代表生徒?」


 なんか言い方に妙な引っかかりを覚える。まるで二人がこの学園の生徒ではないかのような……。


「私とアリアンは第二学園の代表。今日は、ヘルメス様と戦いにきた」


「——えぇ!? だ、第二学園の……?」


「うん。ニュクスは剣術と魔法で。私は魔法のほうに参加するんだ。ヘルメス様はどっち?」


 明るい声でアリアンがさらっと凄いことを言った。


 剣術と魔法、その両方に出る代表生徒? それって……。


「ヘルメスも両方に出る。ニュクスと同じ」


「……え?」


 フレイヤの返事に、ニュクスの目が見開かれる。


 自然と俺を見上げる形になった。


「いまの話……本当?」


「あ、あー……うん。まあね。でも他の人には言わないようにね。代表生徒は基本的に当日に発表されるし」


 まあバラしちゃいけないなんてルールもないし、別にいいのかな? 俺の気に過ぎか。


「わかった。ヘルメス様のことは秘密にしておく。代わりに戦って」


「したたかぁ……」


 平然と約束に報酬を上乗せしてきた。心臓に毛でも生えてるのかな? なんとなく、雰囲気がレアに似ていた。


 彼女もまた、強さを求める俺みたいな人間なのかもしれない。


「ちょっとちょっと~! そんなこと言っていいのニュクス。ヘルメス様に迷惑だよ!」


「でも、ヘルメス様と戦いたい……」


「ああ! そんなシュン、としないで! なんだか私が悪いみたいになるじゃん! もうフレイヤ様ともレアさんとも戦ったんだし、十分じゃない? ヘルメス様は両方の代表として出るって話だし、本番で戦う機会があるよ!」


「でも……」


「でもじゃなくてね……」


「ふふ。いいよ。少しだけなら、相手になる。本当に少しだけね。このあと用事があるから」


 二人のやり取りが面白くて、思わずOKを出してしまう。


 魔法の撃ちあいは服が汚れるから困るけど、剣術とか殴り合いくらいなら問題ないかな?


「い、いいの!? 本当に!?」


 ずずいっと顔を近づけてくるニュクス。瞳孔が開いててマジ顔なんだけど……怖い。


 すぐにアリアンに引き剥がされた。それでもこちらを見つめ続ける。


「う、うん、いいよ。剣術で構わない?」


「もちろん! ありがとう、ヘルメス様! 感謝します!」


 そう言うと、ニュクスはご機嫌にくるりとその場を反転。いつでも戦えるように俺との距離を離す。


 それを見送ったアリアンが、くすりと笑ってからこちらに視線を向けた。


「なんだかごめんね。ニュクスのワガママに付き合ってもらって。あの子のあんな嬉しそうな顔、久しぶりに見たなぁ」


「そんなに喜ぶべきことなのかな、これって」


「あの子は強くなることに貪欲だから。自分と同じかそれ以上の天才を前にしたら、歯止めが利かないらしくて……。どうぞ、いっちょ揉んでやってください!」


「君……彼女の友達だよね」


 友人なのに「やっちゃってください!」っていうのはどうかと思うよ。まあ、それも仲がいいからこその軽口なのかな。


 アリアンとその後ひと言ふた言交わして別れる。


 すると、木剣を手にしたフレイヤが俺のことを待っていた。スッと木剣を手渡してくる。


「ん。頑張って、ヘルメス。第一学園のために」


「プレッシャーだねぇ……。でも、木剣ありがとう。使わせてもらうよ」


「ガンバレー! ガンバレー! ヘルメスくーん!」


 フレイヤから木剣を受け取り、レアの声援を浴びながら振り返る。フレイヤたちが離れていくと、徐々にぴりぴりとした空気がお互いのあいだに流れはじめた。


 うーん。いいねぇ。この空気。


 結構楽しめそうな予感がする。




「それじゃあ二人とも準備はいい? ——試合開始!」


 陽気な声でバッと片手をあげるアリアン。その声が合図となり、俺とニュクスの戦いがはじまる。


———————————————————————

あとがき。


温かいお言葉とギフトをありがとうございます……!


皆様のおかげでPV数が1000万を超えました!

本当に……!圧倒的感謝!!!


まだまだ毎日投稿は続きます!どうかこれからもよろしくお願いします!

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