第109話 剣と魔法の二人
ニュクスとアリアンの前に、白髪の美少女が現れた。
その顔、雰囲気にふたりは見覚えがある。咄嗟にニュクスが声をかけた。
「——ねぇ、あなた」
「ん? なに」
白髪の美少女——フレイヤ・フォン・ウィンターが足を止める。振り返って視線をニュクスたちに合わせると、「ああ、やっぱりだ」と彼女の素性に行き着く。
「第一学園生のフレイヤ・フォン・ウィンター様よね?」
「……そういうあなたは、——ニュクス・アルテミシア?」
「あら。私の顔と名前、覚えていたのね」
「ん。簡単には忘れない。パーティーで少ししか顔を合わせていないけど、あなたはこっちでも有名だから」
「そう……。剣聖の娘であるフレイヤ様に覚えていてもらえるなんて光栄ね」
「あのー……? もしもーし? アリアンちゃんもいるんだけどなぁ? もしかして蚊帳の外だったりする?」
唯一、ふたりの会話からはぶられたアリアンが、自分の存在をアピールした。が、マイペースでクールなふたりはそれをスルーする。
「それで? なんの用? なぜ、第二学園生のあなたがここにいるの?」
「いま自然にアリアンちゃんのこと省いたよね? 間違いなく存在を消したよね?」
「ちょっと会いたい人がいるの。よかったら教えてくれないかしら、フレイヤ様」
ナチュラルにスルーされ続けられるアリアン。もう彼女は黙ることにした。
「会いたい人? だれ」
「ヘルメス・フォン・ルナセリア様」
「……ヘルメスに? なぜ」
「そんなの、彼と戦いたいからに決まってるじゃない。彼がどちらの代表に出るかは知らないけど、一度しか戦えないなんて哀しいわ。私、剣術も魔法も得意なのに」
「……そう。でも、今日はまだ私も見てない。たぶん、まだ学校には来てないんじゃないかな」
「それは……残念ね。わざわざヘルメス様に会うためだけに足を運んだのに……。また明日にでも持ち越そうかしら」
「——だったら」
ニュクスの台詞に、間髪入れずにフレイヤが言った。
「だったら、私と剣術で戦うのはどう?」
「……フレイヤ様と? 私が?」
「うん。個人的に第二学園の天才と刃を交えたいと思ってた。そっちがいいなら、人気のない場所を案内する」
「へぇ……。ずいぶんと好戦的ですね」
「ニュクスに言われたくないと思うなぁ……うん」
たまらずアリアンがボソッと呟いた。ニュクスが睨む。アリアンが視線を逸らした。
「嫌? 嫌なら無理にとは言わないけど」
「……いいえ。やりましょう。せっかくの機会ですし、ここで尻尾を巻いて逃げるのは天才と呼ばれる者としてあまりにも不恰好。であれば、どちらがより優秀か示してご覧にいれましょう」
「強気だね。そんなに強いの?」
「もちろんです。なにせ、第二学園はじまって以来の、最高の天才と呼ばれていますから」
「ふうん……」
じろり、とフレイヤがニュクスを見つめる。ニュクスもまた不敵な笑みを浮かべてフレイヤを見つめた。
互いにある程度の自負がある以上、結果を示す以外の道はない。
置いてけぼりを喰らったアリアンを無視して、フレイヤは踵を返す。
「ついてきて」
と短く言って、スタスタと校舎の奥側へと歩いていく。当然、ニュクスは無言でその背中を追った。アリアンもそんな彼女についていく。
すると、先頭を歩くフレイヤの前に、さらなる女子生徒が姿を見せた。
淡い青色の髪を腰まで伸ばした美少女——レア・レインテーナが。
「ふふふ~。なにやら楽しそうな話をしていたね! 話は聞かせてもらった! 勝手に!」
「……なんの用」
ない胸を張ってドヤ顔を浮かべるレア。フレイヤが彼女にジト目を向ける。
「もちろん僕も一緒に行きたいって話! そっちにいるの、噂の第二学園の天才なんでしょ? 僕にも少しくらいお零れがほしいなぁ」
「あなた……。まさか、【魔法の申し子】?」
ニュクスが溌剌に喋るレアを見てその素性に気付いた。遅れて背後のアリアンも驚愕を浮かべる。
「ウソ!? レア・レインテーナ?」
「ん~? なんだか僕のことを知ってるような口ぶりだねぇ。ごめんごめん。僕はふたりのこと知らないんだけど……」
「さっき第二学園の天才とか言ってなかった?」
鋭いフレイヤの突っ込みが飛ぶ。しかし、レアは首を左右に振った。
「それはフレイヤさんたちの話を聞いてたからだよ。ニュクスって名前に聞き覚えはないかな」
「……そう。まあ、彼女は第二学園の生徒よ。秋の対校戦に出場する代表生徒でしょうね」
「会話は聞いてたからそれくらい知ってるよん。でも、説明ありがとうフレイヤさん」
視線が再びニュクスたちへ戻る。
「それで、ね? よかったらふたりの決闘? に僕も混ぜてよ。ニュクスさんって魔法も使えるんでしょ? だったら、フレイヤさんの次は僕と戦お? 是非、その才能を見せてほしいなぁ」
にこりと微笑むレア。その瞳の奥底に秘める「興味」の二文字を見て、ニュクスは簡潔に答えた。
「願ってもない。こちらこそ、魔法の申し子と戦えるなんて光栄」
「ズルいズルい! 私だって戦ってみたかったのに!」
「アリアンは代表として出るんだからいいでしょ。そこで好きに戦えばいい」
「ニュクスだって出るじゃん!? なに自分だけ正当化しようとしてるの! 馬鹿!」
「いいからいいから」
騒ぐアリアンの口を無理やり塞いで、ニュクスはフレイヤに先導を任せる。
自分の戦いさえ邪魔されないのなら、とフレイヤも何も言わずに歩き出した。その後ろにニコニコ笑顔のレアが続く。
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