第105話 よくよく考えたら

「でもまあ、訓練するのには賛成かな。どう? せっかくだし、カーラに続いてわたしも攻略していかない? ヘルメス様」


「……え?」


 それは、どういう……。


 喉元まで出かかった言葉。それを、ノルン生徒会長は表情から察する。


「もちろん、興味があるんだよー。ヘルメス様の実力に。だって、あのカーラを剣術だけで打ち負かす天才が、実は魔法も使えるなんて知ってたら……挑みたくなるのが人間ってなものさ」


「えーと……」


「ヘルメス様は嫌だったりする? 戦うのは」


「べつに嫌ではないですよ。俺もノルン会長の実力を見ておきたいですし」


「じゃあ決定だね! 二人に試合をすること伝えてくるよ~」


「あ、まっ——」


 止める暇もなくノルン生徒会長はミネルヴァたちのほうへ走っていった。


 そんなことをあの二人に教えたら……。


 ああ、やっぱりこっちに来た……。


「ヘルメス公子! ノルン生徒会長から聞きましたわ! お二人ともいまから試合を行うんですって!? ズルいじゃありませんの! わたくし達も混ぜてください!」


「そうだよそうだよ! 僕もいつだってヘルメスくんと戦いたいしヘルメスくんの魔法が見たいんだから! ズルいズルい! 羨ましい!」


「……そう、だね。ノルン会長だけだとズルいから、二人の相手もするよ……。うん、しっかりとね」


 まあ、こうなるよね。


 最初から試合をするなら二人にはバレていただろうが、それにしたって勢いがすごい。


 普段の三倍は怖い表情を浮かべていた。


 そこへ、苦笑したノルン生徒会長が戻ってくる。


「たはは~。二人とも凄いがっついてるねぇ。ヘルメス様は人気者だ。さすが、あの深窓の令嬢とか言われてるカーラを落とすだけあるねぇ」


「その話は止めましょう。また信じる人がいますから」


 ミネルヴァの目付きが鋭くなったのを俺は見逃さない。


 キミ、本来は原作主人公のヒロインだよね? しかもセンターを飾る系の。


 今さらながら、遠いところまで来たものだ……。


 ぎゃあぎゃあと目の前でうるさい三人を眺めながら、いつの間にか俺は現実逃避していた。




 ▼




 会話もそこそこに、第2訓練場の中央に立つ。


 最初は俺とノルン生徒会長の試合だ。


 対校戦のための試合なので、魔法以外の使用は認められない。


 素手による殴打はもちろん、武器類の持ち込みも禁じられている。


 だから面倒なんだよね、魔法の試合は。


「ふふふー。準備はいいかな、ヘルメス様」


「ええ。こちらに問題はありませんよ、ノルン会長」


「じゃあ始めようか。審判よろしくねぇ、レアちゃん」


「はーい。次は僕だからね、ヘルメスくん」


「ああ。わかってるよ」


「ぐぬぬぬ……。あそこでパーを出しておけば……」


 試合前、ノルン生徒会長の次を狙ったふたりによるじゃんけんが行われた。


 その結果、グーを出して勝利したレアが次戦となる。


 まあ、ノルン生徒会長との試合で俺がボコボコにされないかぎりはね。


「はいはーい。ガヤもうるさいことだし、さっさと始めてねー。——試合開始!」


 レアが手にした旗を振る。


 試合が始まった。


 先に動いたのはノルン生徒会長。


 手のひらに炎の塊を生成する。塊は次第に大きさを増していき、バレーボールくらいのサイズになると、彼女はそれを俺に向けて放った。


「————【火球】!」


 火属性下級魔法——【火球】だ。


 まずはこちらの様子を窺うための攻撃だろう。


 迫る火の球を余裕をもって横に避ける。


 続け様にもう一発。それも回避すると、今度は質より量で襲いかかった。


「やっぱり、そもそも魔法を当てるのが難しいっぽいよねぇ。……なら、これならどうかなー? ————【陽炎】!」


 今度は火属性中級魔法——【陽炎】。


 無数の炎による矢が、俺の頭上に落ちてくる。


 矢はときおり消えたり現れたりを繰り返す。避けるのに難儀する範囲技だが、異常に発達した俺の動体視力なら十分に追える。運動能力もそれに追いつける。


 最小限の動きで炎の矢をかわした。


 だが、そんな俺の懐にノルン生徒会長が入る。


 距離をあけた戦闘では埒が明かないと判断したのか、距離を縮めて魔法を唱えた。


「————【水泡】!」


 巨大な水の塊をぶつけてくる。


 地面を蹴って上に逃げた。くるりと半回転して彼女の背後にまわる。


 遠くでは、部屋の壁にぶつかった水属性魔法が、激しい音を立てて破裂した。


 壁はかなり頑丈な素材で造られているから壊れることはない。それでもわずかな傷ができるあたり、彼女の魔法は相当な威力だと推測できる。


「むー……! あれだけ魔法を撃ち込んでも全部避けるなんて反則だよ~! カーラもそうだけど、剣士はみんないい動きをするよねぇ。魔法ばっかり鍛えてきたわたしたちと違ってさ。ねぇ、レアちゃん」


「そうですね。僕もアレだけ速く動けたら有利になるのかな? でも、運動って苦手だし……」


 話を振られた審判のレア。苦い表情を浮かべながらも生徒会長の言葉に同意を示す。


 まあ、普通は両方極めたりはしない。片方を伸ばすほうがより効率的ではあるからね。ゲーム的に見ても。


 あくまでヘルメスのスペックと、転生特典みたいな恩恵がデカいだけ。


 俺も彼女たちと同じ立場だったなら、きっと魔法を極めようとしていただろう。


「というか! というかだよヘルメスくん! なに防戦一方になってるの! ヘルメスくんからも攻撃しないと! ずっと避けてるだけじゃん!」


「えー……」


「えー、じゃないよ! 攻撃しないと終わらないよ! 戦いは」


 たしかにそりゃあそうだ。


 けど、勝負を受けておいてなんだが、ノルン生徒会長の実力がハッキリしない内はあまり攻撃したくなかった。


 だって、いまの俺の魔法攻撃力はヤバいよ? 下手に上級魔法なんか撃ち込めば、間違いなくノルン生徒会長を殺しちゃう。


 魔法は基本的に手加減ができないからね。ゲームの頃のなごりで、込められる魔力は一定なのだ。そこに俺の高INTが加わると……下級魔法ですらかなりのダメージになる。


 だが、レアの言うとおり攻撃しないことには勝負もなかなか決まらない。


 魔力切れで俺の勝ち、なんてことになってもノルン生徒会長は納得しないだろうし……。


 と、とりあえず……下級魔法でも使ってみるか。なるべき殺傷性の低い、水属性魔法でも。


 そう思い、俺は魔法を唱える。


———————————————————————

あとがき。


三章ちょっと苦悩しながら書いてます。

でも皆さん!本作のフォロワーがですね?

3万人を超えました!


ありがとうございます!

これからもぜひ見ていただけると嬉しいです!


ランキングもなかなか落ちないね。

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