第103話 お次は魔法訓練

 フレイヤたちとの訓練を終えて翌日。


 学校に登校した俺を出迎えたのは、金髪の令嬢ことミネルヴァだった。


「おはようございます、ヘルメス公子! 今日は実に魔法の訓練日和だとは思いませんか?」


「思いませんかー!」


 彼女の後ろからレアも出てくる。片手をあげてぴょんぴょんとその場で跳ねていた。可愛い動きだ。


「二人ともおはよう。まだ授業も終わってないのに放課後の話かい?」


「性急だとは存じますが、昨日はフレイヤさんにヘルメス公子を取られましたからね。今日はもちろん、我々の魔法訓練に参加してくれると思ってよろしいですわよね?」


「ですわよね!」


「……あの、レアさん?」


 同じ言葉を繰り返すレアに、たまらずミネルヴァが声をかける。


「ん? なにかな?」


 きょとん、とした感じでレアが返事した。なぜ急に話しかけられたのか理解していないように見える。


 額に手を添え、呆れながらミネルヴァは言った。


「なぜ、わたくしの言葉を真似するのですか? 恥ずかしいのでやめてください」


「えー!? なんで? 面白いよ? それに、ヘルメスくんにお願いするなら気持ちを二倍にしなきゃ! ね?」


「そこで俺に同意を求められても……」


 正直、レアの発言は可愛い以外になんの感想もない。真似してるな、くらいなものだ。


 ある意味ミネルヴァが気にしすぎだと言うべきなのかな?


 それはそれで誤解と怒りを招きそうなので口を閉ざす。


 悪びれる様子のないレアに、ミネルヴァも早々に諦めた。


「もう解りましたわ……。レアさんの奇行に関してはなにも言いません」


「奇行……?」


 ミネルヴァの発言にレアが物申す。


 だが、彼女はレアをスルーしてさらに続けた。


「それより、いまはヘルメス様のことですわ。よろしくお願いしますね、ヘルメス様」


「ねぇねぇ、それよりってなに? 僕べつに奇行とかしてないよね? ちょっとお話が聞きたいなって」


「……よろしくお願いしますね、ヘルメス様」


 あ、二回いった。


 ちらりとレアに視線を合わせてたあとで、二回いった。


 彼女だけでは頼りないってことかな?


 昨日、ミネルヴァはレアに魔法を教わったはずだけど、そこでなにかあったのかな?

 あとで聞いてみるか。


 そう思いながらも、彼女のお願いを承諾する。それぞれが席に戻っていき、授業がはじまった。




 ▼




 すべての授業が終わる。


 学校の終了を告げるチャイムの音が校内に響いた。それを聞いて、ミネルヴァが席を立ってこちらにやってくる。


 レアもだ。


「さあヘルメス公子! 第二訓練場へいきますわよ!」


「いきますわよー!」


「はいはい。そんな急かさなくても逃げないよ」


 鞄に荷物を突っ込んで席を立つ。半ば腕を引っ張られるように二人へ第二訓練場に連行される。


「時間は有限です。少しでもはやく強くならないと、秋の対校戦で足元を掬われますわ! サンライト公爵令嬢として、わたくしは勝利を目指すんです!」


「僕は純粋にヘルメスくんと魔法の練習するのが楽しみなんだ~。秋の対校戦はそんなに期待してないし」


「なにを仰いますか! ヘルメス様の次に期待されているのは、悔しいですがあなたなんですよ! レアさん! そんなあなたがやる気なしでは周りへの意識低下を招きます! 頑張りましょう! やる気が大事ですよやる気が!」


「はーい」


「はい、は伸ばさない!」


「はい」


 なんだか親子みたいな会話を繰り広げて、俺たち三人は第二訓練場へとやってきた。


 ミネルヴァが扉をあけると、すでにそこには先客がいる。


 ……あれ? デジャブ?


 昨日も同じ光景を見た気がする。


 火属性の魔法を発動させていたと思われるその先客は、扉から入ってきた俺とミネルヴァたちを見て、「あ」と口をひらいて挨拶をした。


「ミネルヴァ様にヘルメス様……それにレアさんじゃない! こんにちは~」


 どこかのほほーん、とした女性が魔法を消して手を振ってくる。


 彼女もまた、昨日のカーラ副会長と同じように見覚えがあった。


 なんせ、彼女は……。




「あら……。あなたもここにいたんですね、——ノルン


 我らが【王立第一高等魔法学園】の生徒会、その頂点に位置する生徒会長なのだから。

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