第98話 解決案

 教師テレシアは、どこか気まずい顔で言った。


「現在、教師のあいだでは意見が割れています。あなたを……剣術と魔法、どちらで参加させるのか、ということで」


「決まってなかったんですか? てっきり魔法の枠で出るのかと」


 俺の魔法適性は六つすべてだ。これは、この世界の主人公であるアトラスくん以外ではありえない才能。


 剣術も自信はあるが、それ以上に注目を集めることだろう。なので、最初から魔法枠で出場すると思っていた。


「ええ。教師の大半は魔法の枠で参加させる予定だったわ。けど、一部の先生がね……。ヘルメスくんの剣術の才能を活かすべきだって騒いでて……」


「それで、結局決まらなかったと」


「そういうことになるわね」


 ふむ。意外な状況になったな。


 剣術と魔法。どちらがより強いかなんてこの世界じゃハッキリしてる。


 剣術は継続戦闘に優れているが地味。


 魔法は瞬間火力に優れているが燃費が激しい。


 それでも、魔法はさまざまな状況を覆す大砲だ。こと戦いにおいて、魔法の威力の有無はかなり状況を左右する。


 言ってしまえば、この世界では魔法のほうが優先される傾向がある。


 学校の名前が、王立第一高等学園と名づけられているように、多くの人間が魔法の有能性を説いた。


 加えて、今年の一年生にはレアもいる。


 希少な四属性の魔法適性持ちのレアと、全属性の適性を持つ俺が同時に出場すれば、第一学園はかなりの注目を集めるだろう。


 これを活かさない手はない。


「正直、俺はどちらでも構いませんよ。どちらに出場しても優勝を狙いますから」


「さすがね。だからこそヘルメスくんの参加で揉めているのだけど……。みんな、あなたが参加したほうが勝つって最初から決めているから」


「期待に沿えるよう頑張りたいですね」


 極論、剣術でも構わない。


 すでに俺の剣術ステータスは中級の最大値。上級ではないが、一年生としては破格の数値だ。


 というか、この世界で剣術の熟練度が上級に達してるやつなんてほとんどいないはず。


 該当するとしたら、恐らく剣聖グレイルと姉エリスくらいだ。


 レベルによるステータスの加算を含めても、俺が負けるビジョンはありえない。


「ちなみに、このクラスからも何人か代表が出るわ。まず剣術は……候補がヘルメスくん、フレイヤさんね」


「ん。頑張る」


「やっぱりフレイヤか」


 これは想像通り。というか、ストーリー通りだ。ゲームでも彼女は対校戦に参加していた。


「そして魔法は、ヘルメスくん、レアさん、ミネルヴァさんの三人ね」


「ふふふ。まあ、当然ですわね。わたくしが選ばれるのは」


「僕も代表か~。面白い人はいるかな?」


 教師テレシアの言葉に、ミネルヴァとレアが喜びの感情を浮かべる。


 これもゲーム通りだ。ミネルヴァは剣術より魔法の実力のほうが高い。レアは言わずもがな。


「へぇ……。剣術はともかく、魔法のほうはこのクラスからしか出ないんですか」


 ウィクトーリアが感嘆の声を漏らした。


「ええ。優秀な生徒ばかりが集まったわね。先生としては鼻が高いわ」


「でも、人数を考慮するならヘルメス様は剣術に入れたほうがよろしいのでは? 魔法はすでに二人も決まってますし」


「ウィクトーリアさんと同じ意見もあったわ。けど、べつに層が薄いってわけでもないから。それに、たとえ他の人を押しのける形になってでも出したいっていうのが学園側の意思。それだけヘルメスくんには、隔絶した才能があるのよ。正直、もう教師である私たちもお手上げね。ここまで優秀な人は見たことないもの」


「……だ、そうですよ、ヘルメス様。よかったですね。モテモテです」


「それに対して俺はどんな反応をしたらいいんだい……」


 褒められるのはすごく嬉しい。けど、少しだけ事が大きくなってる。どちらでもいいからさっさと決めてくれないかな。


 俺が内心でそんな愚痴を漏らす中、ふいに、離れたところに座っていたフレイヤがぽつりと言った。


「個人的には、ヘルメスには剣術のほうに来てほしい。また、いろいろ学びたい」


 さらに続けてフレイヤは言う。




「でも、魔法がすごいのも知ってる。だから……いっそ、両方に出ればすべての問題は解決する」




「——え?」


 その発言に、教室中が騒然とした。


———————————————————————

あとがき。


両方の意見多くてびっくり!

まあ、ですよね⁉︎

作者もそうする予定でした←

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