第97話 悩みの種

 校内に鳴り響くチャイムの音。それを聞いて、雑談に花を咲かせていたクラスメイトたちは席につく。


 静かになった教室内をぐるりと見渡してから、教師テレシアは再び口をひらいた。


「それじゃあ、これからHRもはじめます。今日はちょっとだけ大事な話だから、しっかり聞くように」


 一拍置いて彼女は続ける。


「まず、10月後半に行われる【秋の対校戦】について説明します。【秋の対校戦】では、各学園の代表生徒が剣術と魔法に分かれて試合を行います。学年別なので、学園ごとの生徒の参加率はそれなりに高いです。主に三人、三人で計六人ですね。すでに、教師のほうで代表は見繕っています」


 彼女の話の途中、隣の席のウィクトーリアがこそこそと話を振る。


「【秋の対校戦】ですか。話くらいは知っていますが、実際にどれだけすごい催しなんでしょう?」


「そうだね……」


 ——秋の対校戦。


 それは、ゲーム【ラブリーソーサラー】の共通イベントのひとつ。


 【学年別試験】のときと同じく、特定のキャラの好感度を上げるためのものだ。


 たしかメンバーは、アウロラとイリスを除いた三人。


 ただし、この時点でアウロラとイリスの好感度が一定以上まで上がっていると、自動でスキップされる。


 そしてその内容は、剣術、あるいは魔法による対人戦。


 剣術を選んだなら剣術オンリーで。魔法を選んだなら魔法オンリーで他校の生徒と戦う。


 ただ、これ地味にクソゲーなんだよなぁ。


 剣術のほうは戦い自体が地味だし、魔法は圧倒的クソゲー。


 互いに魔法しか使えないもんだから、距離を離しながらひたすら魔法を連射する。でも、魔法は魔法同士がぶつかると相殺判定が起こる。


 この異世界では威力の差がちゃんと適応されるが、ゲームだった頃はそんなもの関係ない。


 下級だろうと上級だろうともれなく相殺された。だからクソゲーなのだ。


 理由? その相殺ばっかり起こってなかなか勝敗がつかないからだ。それも一回戦から。


 【秋の対校戦】はトーナメント形式だから、もう長いのなんのって……。


 当時、掲示板ではその事をファンがボロクソに叩いていたのを思い出す。


「実質、学園ごとの実力者たちが出場するわけだし、かなり見ごたえがあるんじゃないかな? 王国の臣民として、自分たちがどれだけ強いか、国に尽くせるのかを軽くアピールもできるわけだし」


「なるほど……。では、王族の方もご覧になると?」


「そりゃあね。王族の中にも選ばれる人はいるし」


「で、でもそれって……王族を倒したら不敬になったりは……」


「しないよ。殺したら問題だけど、怪我を負わせるくらいなら許される。まあ、王族はかなり優秀な血筋だから、倒せる生徒なんてほとんどいないけどね」


 王族連中はゲームの頃から優秀だった。登場自体はかなり少ないが、たとえば【秋の対校戦】を例にあげよう。


 魔法の代表に主人公が選ばれると、必ず剣術のほうで王族の誰かが優勝する。逆もまたしかり。


 剣術を選ぶと、魔法のほうで王族が優勝する。それくらい、王家の血筋は優秀なのだ。


 ま、優秀度でいえば俺らルナセリアのほうが上だがね。王家は各分野に秀でるが、こと戦闘方面では圧倒的にルナセリアが勝る。


 姉は剣術のバケモノだし、妹は魔法の才がある。俺にかぎっては、その両方を兼ね備えた存在だ。


 仮に正面からぶつかっても圧勝できる自信があった。


「でも、今年は話題のすべてをヘルメス様が掻っ攫いますね」


「というと?」


「今年はヘルメス様も参加されるでしょうし、ヘルメス様より強い人なんて……きっと学生にはいませんよ」


「あはは……そう言ってくれるのはありがたいね」


 当然、俺も参加する気まんまんだ。


 というか、俺が選ばれないはずがない。ウィクトーリアが言ったように、俺はこの学園でおそらく最強であろう。


 世界中を探しても、俺に勝てるキャラのほうが少ない。


 ——が。


「ヘルメスくん」


「……え? あ、はい」


 急に教師テレシアに呼ばれた。


 まずい。話してるのがバレたのか? そう思って謝る準備をしようとするが、どうやら違うらしい。


 教師テレシアは、どこか気まずそうな顔で言った。




「現在、教師のあいだでは意見が割れています。あなたを……剣術と魔法、どちらで参加させるのか、ということで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る