第35話 学年別試験、結果発表

 ミネルヴァ・フォン・サンライトの誘拐事件が幕を閉じる。


 ゲームには無かったイベントにびっくりこそしたが、終わってみると中々実りのある騒動だった。


 まずヘラルドと戦えたことが大きい。試験で戦った騎士モールスを除くと、基本的にダンジョン産の魔物とばかり戦ってきた。そのせいで、圧倒的に対人経験が乏しいのだ。


 そんな中で自分とレベルが近い、むしろ剣術の熟練度の差で俺よりステータスの高い相手と戦えたことは、今後、夏休みのイベントを迎えるうえで貴重な土台になるだろう。


 だが、メリットがあればデメリットもある。


 対人経験を積み、ミネルヴァを助けられたことがメリットなら、俺にとってのデメリットは……生徒手帳を失くしたこと。


 そう。そうなのだ。あのゴタゴタの最中に、ポケットにしまっていたはずの生徒手帳が消えた。どこで落としたのか非常に気になるが、もしもミネルヴァなんかに拾われていたら……最悪だ。彼女に正体がバレて興味を持たれたら、攻略してるかもしれない主人公に悪い。


 ミネルヴァ以外なら誰が拾ってもいいからと神様に祈り、————その祈りが不気味な形で叶えられる。




 俺の生徒手帳が返ってきた。差出人不明の包みとともに。


 使用人が中を調べたかぎり、生徒手帳以外になにも不審な点はなかった。


「一体だれがこのような事を……。身分を明かせば、それなりの金銭だって要求できたでしょうに……」


 送り物こと生徒手帳を受け取った執事のひとりがそう呟いていた。同感だ。わざわざ名乗りもしないなんて怪しすぎる。


 まあおかげで俺は学校に普通に入ることができるし、再発行せずに済んだが、なんとも釈然としない。


「……まさか、な」


 脳裏を過ぎったミネルヴァの顔をかき消す。


 彼女が生徒手帳を拾ってくれていたなら、きっとすぐにでも俺の所へ来るだろう。そうしないということは、きっと平民の誰かが拾って、相手が貴族だったから怖くて遠まわしに届けた。うん。そう思っておこう。


 なにも起きていないのに、嫌な想像ばかり巡らせていたら気が滅入るというもの。


 そろそろ共通イベント<学年別試験>の結果が出る。


 俺がどれだけの成績を叩きだせたのか楽しみなのに、ここで暗くなったらもったいない。


 着替えを済ませ、俺は今日も学校へと足を運ぶ。休日はダンジョンに潜れて最高だったのに、やっぱり平日は前世と一緒だ。なにもかもが億劫に感じる。




 ▼




 中履きに履き替えて<1-1>の教室に入ると、担任の教師テレシアから<学年別試験>の結果は中庭近くにある廊下に張り出されると聞いた。


 俺は早速、休み時間になるなり中庭へと向かう。すでに中庭の一角には、多くの生徒で溢れていた。どこになにがあるのかなんて一目瞭然である。


「ヘルメス様の成績を見るのが、メイドである私も楽しみです」


「少なくとも剣術と魔法試験は完璧だったはず。問題は筆記だけど……まあ、平均より上だろうね」


 前者の二つはともかく、後者の筆記試験はステータスの数値がものをいう。


 個人的な評価で言えばオールパーフェクトだったが、それを下すのは教師たちだ。正解か不正解しかない筆記試験は想像どおりとはいえ、試験官次第で評価が変わる実技のほうはどうだったかな。


 前世でも体験したドキドキ感を胸に、やたらざわついている集団の中へと飛び込む。


 集まった生徒たちのあいだをすり抜けながら壁際へ近付くと、張り出されていた紙が視界に映る。そこには、三種類の試験の順位と、総合順位まで記載されていた。


「お、おぉ……」


 その結果を見て、俺はなんとも言えない感動を覚えた。




<筆記試験>

一位 ヘルメス・フォン・ルナセリア 100点

<魔法試験>

一位 ヘルメス・フォン・ルナセリア 100点

<剣術試験>

一位 ヘルメス・フォン・ルナセリア 100点

<総合順位>

一位 ヘルメス・フォン・ルナセリア 300点




 全ての試験においてぶっちぎりの成績だった。というかオール満点。


 それぞれ、二位の順位がこちらになる。




<筆記試験>

二位 アウロラ・フォン・クラウド 91点

<魔法試験>

二位 レア・レインテーナ 90点

<剣術試験>

二位 フレイヤ・フォン・ウィンター 88点

<総合順位>

二位 ミネルヴァ・フォン・サンライト 252点




 という感じで、本当に圧倒的な成績を叩き出した。


 中庭に集まった生徒たちがものすごくざわついていたのは、この結果を見たからだろう。全ての紙の上に俺の名前が書いてある。


 それを確認したあと、静かに集団から離れた。


 人目を避けるように角を曲がって廊下の奥を目指す。大半の生徒が中庭に集まっているおかげで、中庭から少し離れるだけで人の気配が消えた。


 そこで俺は、グッと拳を握り締めて心の中で盛大に吠える。




 き、気持ちぃいいいいいいい!!




 と。


 これが一位を取る感覚! 全身が幸福に満たされてヤバイ。アドレナリンが過剰分泌され、ふるふると小刻みに体が震える。


 この快感を知ってしまえば、まともな成績など気にもならない。これから先も一位であり続けようと思えてしまう。きっと今ごろは、生徒のみんなが俺の話題で持ちきりだ。


 それを想像するだけで興奮が絶えない。


 あー、最高。


 その後も俺は、ひとり静かにメイドに見守られながら自分の結果に悶え続けるのだった。


 フランもフランで、俺の成績を見て感動していた。ガチで泣いてるのを見て、さすがに興奮も少しだけ引いた。いや、嬉しかったけども。


———————————————————————

あとがき。


試験結果は割と適当です。数字に深い意味はありません。

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