第25話 ドロップアイテム
下級ダンジョン<暗雲の森>最奥にて、洞窟から巨大な蛇が顔を覗かせる。
コイツがこのダンジョンのボスであることは、前世の記憶から容易に断定できた。しゅるしゅると長い舌を出し入れしながら、黄金の双眸がジッと
「モンスターのくせに慎重な奴だな。もっと魔物らしく突っ込んでこいよ」
言いながら剣を抜いた。切っ先を地面すれすれに向けて相手の様子を窺う。この世界がまだゲームだった頃の記憶だと、<暗雲の森>のボス、ヴェノムサーペントはあらゆるステータスが高いが、中でも敏捷値、AGIに優れた個体だった。跳ねるように迫る突進は、初見だと反応しにくくて何度も攻撃を喰らった覚えがある。それゆえに、俺は現実世界での差を図るため後手に回ることにした。
しかし、慎重派なヴェノムサーペントも同じ考えなのか、なかなか攻撃を仕掛けてこない。すでに見つめ合って一分以上の時間が経過した。このままだと無駄に長期戦になる予感がしたので、仕方なく俺は魔法を唱える。属性はヴェノムサーペントの弱点である<火>だ。
「——<陽炎>!」
魔力による変質が俺の頭上をわずかに歪め、そこから白く明るい炎の矢が現れる。火属性中級魔法<陽炎>だ。ひとつ下の<不知火>の上位互換。不知火は火矢しか放てないが、こちらは魔力の操作により矢以外の形を作れる。とはいえ今回は小手調べ用なので数がいる。何本もの矢を出して、それらを同時にモンスターへと放った。きらきらと星が流れるように炎の矢がヴェノムサーペントへと殺到する。勝負は始まった。
迫りくる流星にヴェノムサーペントの反応は早い。即座に洞窟から体を出し、地面を高速で這い回りながら魔法の矢を避ける。威力より数を優先したからか、避けきれない数本の矢がヴェノムサーペントに刺さるも、高いVITが大してダメージを通さない。余裕の表情でそのまま俺の下へ近付いた。
口を大きく開き、鋭い牙で剥き出しにして襲いかかる。当然、俺はその攻撃を横に飛んでかわした。ガチン、という音を立ててヴェノムサーペントの口が閉じる。奴のSTRがどれほどの数値かはわからないが、直撃すれば神聖魔法による
「——<神憑>」
まずは中級神聖魔法によるステータスの強化。
次いで、
「——<炎天>」
火球の上位魔法を唱える。巨大な炎の塊が、勢いよくヴェノムサーペントへ落ちた。素早さの高さゆえに攻撃は避けられたが、事前にどちらへかわすか予測はできていた。ボスに負けないほどの速度で今度は俺がヴェノムサーペントに近付く。剣を上段に構え、そのまま振り下ろした。
斬れる。
俺の剣は、STRは、ヴェノムサーペントの皮膚を容易く切り裂いた。必死こいて上げてる剣術と、レベリングによる成果は上々だ。ダメージこそ多くはないが、血を流したことで敵の意識が俺の右手に向く。魔法攻撃だけじゃない。刃による攻撃もまた脅威だと伝えられた。これで魔法攻撃も通りやすくなる。
反撃と言わんばかりに体をしならせ、強烈な尻尾による一撃を放つヴェノムサーペント。それを地を蹴って後退しながらかわす。切り裂かれた空気がブンッ! という音を立てるが、当たらなければどうということはない。表情を変えずに、あくまで冷静に対処する。
その後の戦闘はほぼ一方的になった。最初から相手の攻撃パターンを知ってる俺が、ヴェノムサーペントの攻撃を喰らうことはなく、剣や魔法を鬼のように叩き込んで討伐が終了する。
大量の経験値を獲得したが、残念ながらドロップ品は無し。ダンジョンでもゲームの頃と同じように魔物が素材を落とすことは知ってる。ボスが落とすかどうかは検証していないが、他の魔物が落とすのだからボスだって落とすのが道理だろ?
それに、俺が欲しいアイテムはそれなりに希少だ。最初からすぐに手に入るとは思っていない。
近くの壁に背中をあずけ、剣を地面に突きたてると、俺はヴェノムサーペントが
▼
俺が下級ダンジョン<暗雲の森>のボス討伐を始めて数時間。とうとう、その時はきた。
三時間を突破してもなにひとつアイテムを落とさないボスの亡骸を見て、もしかして今日は手に入らないじゃ……さっさとよこせよ畜生! とぶつぶつ独り言が増えてきた俺も、地面にぽとりと落ちた大きな牙を見て、思わず、
「おぉおおおおおっしゃぁあああああ!!」
とはしたなくはしゃいでしまった。この牙こそが、俺がこのダンジョンで探し求めていた大切なピースだ。失くさないようにゆっくりと持ち上げる。
アイテムの名は<毒蛇の牙>。
そのまんまじゃん、という名前のわりにかなり使えるアイテムだ。というか<暗雲の森>に来る理由の九割がこのアイテム狙いと言ってもいい。それだけこのダンジョンは普通に攻略しようとすると旨みがない。だがこのアイテムだけは別だ。
これさえあれば格上相手にも勝機が見い出せる。強すぎるモンスターは無理だが、俺が倒したいと思ってるアイツには効く。前世で実証済みだ。
やっと手に入れたドロップ品を大切に大切に持って帰路に着く。帰りは時短で真っ直ぐ突っ切ろうと思った。道中の敵も全て無視だ。どうせ経験値なんて雀の涙ほどだし、やるとしても剣で追い払うくらいだ。そうと決まれば行動は早い。ボスを何体も何体も倒したおかげで少しだけ上がったステータスを活かし、全速力でダンジョン内部を駆け抜ける。明日は久しぶりのレベリングだ。不死者や亡霊系モンスターを狩りまくるぞ!
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