第14話 学年別試験

 翌日の土曜日。俺が足を運んだのは、いつもの中級ダンジョン<嘆きの回廊>ではない。


 これまで一度も潜ったことのない下級ダンジョンへやってきた。


 ダンジョンの名前は<巣窟>。


 下級ダンジョンの中でも特に個体ごとのモンスターのステータスが貧弱なダンジョンである。


 今の俺なら一撃で道中の雑魚を葬り去れる。


 おまけに獲得経験値量も少ないとなると、いよいよもってここへ来た意味がわからないだろう。目的を知らない者が聞けば、全員が首を傾げるはずだ。


 しかし、唯一このダンジョンにはとある特徴があった。


 それは——数。


 配置されたモンスターの数が、下級ダンジョンいち多いのだ。質より量というわけ。


 ゲームを始めたばかりのプレイヤーが、「ここモンスターが弱いって友達から聞いた! 行ってみよ!」って足を運び、大量のモンスターに囲まれボコられ、無駄に行動力を失って無意味な一日を過ごすのが、<ラブリーソーサラー>のリアルネタのひとつ。


 掲示板でこの記事を見たときは笑った。実際に俺もダンジョンに序盤で突っ込んで死んだこともある。


 まあ、今のレベル20のヘルメスくんなら、たとえモンスターに囲まれようと問題はない。範囲魔法は使えないが、それもここで必要な熟練度を上げて習得するつもりだ。


 前世の掲示板でも有名だった。


『結局、経験値がまずいならこんなダンジョンに潜る意味なくね?』


 と。


 けどプレイヤー達はすぐその有能さに気付く。


 それは、熟練度上げに最適だということ。


 主人公(俺の場合は俺自身)の場合、熟練度を上げるには上げたい項目に沿った戦闘経験が必要になる。


 剣術なら剣を用いてモンスターと戦い、魔法なら魔法をモンスターにぶち込む。ただ剣を振るだけでも熟練度自体は上がるし、俺がやったように自分自身へ魔法をかけることでも熟練度は上がるが、魔法はともかく剣術だけは戦闘経験値が必要だった。


 中級に上がる条件も、熟練度が100でなおかつ一定数の魔物討伐だし。


 そういう理由もあって、経験値を獲得しながら熟練度を上げるのにこの下級ダンジョン<巣窟>は最適なのだ。


 適当に周りを歩きながら魔物を探すと、大量の昆虫型モンスターが現れた。


 こういう小さくて弱い個体は、他のダンジョンでも徒党を組む。


 下級ダンジョンだからゴミみたいなステータスだが、上のダンジョンで出てくる昆虫型モンスターは凶悪だ。


 プレイヤーにとってはガチで死に繋がる状態異常をバリバリかけてくる。


 いずれそんなクソモンスター達も討伐しないといけないので、今のうちにその対策たる神聖魔法の熟練度も上げておかないとな。


 俺は剣を抜きながらも魔法を使った。


「——<火葬>!」


 火に変換された魔力が、飛びかかったモンスターを焼き尽くす。


 昆虫型のモンスターは火に弱い。こうして炙ってやれば簡単に死ぬし、熟練度も上がる。


 欠点は射程の短さにあるが、それも剣とステップを駆使してやればなんとなった。


 俺はひたすらMPが切れるまで魔法を撃ち続ける。MPが切れたら今度は自然回復を待ちながら剣を振る。これが最も時間を無駄にしない効率的な熟練度上げだ。


 MPポーション? あれは剣術の熟練度が上がりきったら使うよ。高いし、俺の小遣いだけだと破産する。


 だから今はこの方法でひたすら戦う。


 共通イベント<学年別試験>が始まるまで。




 ▼




 時間の流れは思った以上に早い。特に楽しいとなおさら早く感じる。


 平日は知能と魔法の熟練度上げに特化し、休日はダンジョンに篭る。そんな生活を無心で続けていたら、イベントが始まる二ヶ月なんてあっと言う間に過ぎた。


 試験の日程に近付くほど周りの生徒たちもやっきになる。おかげでレアやウィクトーリアに無駄に絡まれることもなく、それなりに平和で充実した日々を過ごした。


 そして試験当日。


 なんと予定どおりに全ステータスの熟練度を必要以上に上げ、おまけにレベルも30に達した俺は、とうとう共通イベント<学年別試験>へ挑む。


 今日をもって、単なるイケメンモブは卒業だ。誰よりも目立ち、栄光への道を駆け出す。


 グッと拳を握り締め、まずは最初の<筆記試験>へと臨むのだった。

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