第13話 トップしか目指さない

 <王立第一高等魔法学園>に入学してから半月が経った。


 その間、メインヒロインの一人レア・レインテーナと顔を合わせたり、彼女に付きまとわれたり、ウィクトーリア・フォン・ラナキュラスを暴漢から助けたり、彼女の両親から婚約者にどうかと提案されたり、俺の学校生活はそれなりに充実していた。


 モブにしてはありえない程の充実感だが、別に俺はそれを望んでいない。むしろ、一ヵ月後に控える共通イベントへの対策で大忙しだ。




 共通イベント<学年別試験>。


 文字通り、学年ごとに前世でいう<中間テスト>みたいなものを行う。生徒に課される内容は、以下の三つ。


 知能を競う<筆記試験>。

 魔法を図る<魔法試験>。

 剣術を見る<剣術試験>。


 以上三つの試験を受けるのが生徒の義務である。


 中間テストに比べると項目こそ多いが、ゲームにおいてはそれだけのイベントではない。このイベントは、言わばヒロイン攻略への一歩。


 プレイヤーは攻略したいヒロインに必要な試験をクリアしなければいけない。


 クリアと言ってもどれだけステータスが低かろうがクリアにはなる。問題は、一定以上のステータスまで上げた状態で試験に挑むと、それに通ずるヒロインの好感度が僅かに上がる、という点。


 例えばわかりやすい例だと、剣術を得意とするフレイヤ・フォン・ウィンターなら、剣術の熟練度が下級の80以上、もしくは中級あればOK。


 魔法の申し子であるレア・レインテーナなら、最低限、四つの属性の熟練度を下級の80以上、なおかついずれかの属性の中級魔法が使えること。


 他にも複数のステータスが一定ラインを超えていないと好感度が上がらないキャラもいるが、それは説明すると長くなるので割愛。


 今大事なのは、俺がこのイベントで全ての試験でトップを取りたいということ。


 別にヒロインを攻略するつもりがないなら、わざわざトップを取る必要はないのでは?


 そう思ったそこの奥さん。違うんですよ~。


 ルナセリアの一員として優秀な成績を取らねば! なんて崇高な目的はないが、俺は単純にこの世界で無双したいのだ。男ならば誰もが一度は夢見る頂を、もしかすると目指せるかもしれないこの世界で目指したいのだ。


 わかるだろう? こんなチャンス二度とない。活かすも殺すも俺次第。


 なら活かすしかない。


 幸いにも、ゲームではそんなチート行為不可能だった。どう足掻いても全ての試験でトップを取るためのステータスを稼ぐには時間がかかりすぎる。一度試した俺だからわかる。


 だが、この世界にゲーム程の縛りはない。俺の行動次第では、総合成績一位もありえる。


 ゆえに、俺の目標は決まった。


 わかりやすく並べるとこうだ。




 一。

 剣術の熟練度を100にして中級にする(これは割と楽)。


 二。

 全属性魔法の熟練度を100にして中級にする(これが一番めんどくさい)。


 三。

 知能を50まで上げる。序盤の共通イベントならそれだけあれば十分。後期は80以上必要だが。


 四。

 夏休みのイベントに備えてレベル上げ。最低でも30はないとダメ(試験後のレベリングを含めたら40~50はほしい)。


 以上が俺の試験および夏休みまでの計画だ。


 夏休みに突入することを踏まえると、剣術と魔法の熟練度はもう少し上げておきたいが、共通イベントまではこれでいい。


 しっかりと脳内のメモ帳に今後やるべきことを刻み込み、俺はニヤリと笑った。


 実にやり甲斐のある世界だ。


 早速明日から休日。ダンジョンに篭って高速こうそく爆速ばくそく熟練度上げが始まる。


 狂気の時間だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る