第8話 事件
日曜日。
学校が始まる前日というのは、なぜこうもダルいのか。月曜日に比べればはるかにマシだが、それでも明日から無意味な授業に参加しないといけない。それを考えただけで億劫だ。
げっそりとマイナスな思考を巡らせながらも、今日も今日とて<スケルトン>狩り。
低レベルでなおかつ自分より強い相手を倒してるだけあって、経験値の入りがすごくいい。気付けば夕方あたりでもうハメ技を使わなくても複数のスケルトンを倒せるようになった。これなら魔法と剣術の熟練度上げもザルいな。あのイベントを前に、どれだけ準備できるか楽しみだ。
引き上げる前に最後のスケルトンを倒し、俺のレベルが<20>になる。
ヘルメスの情報によると、この世界の人間の平均レベルが20~30らしい。上限が100なのだからもっと上げられるはずだが、よくよく考えたらそれが心底難しいことだとわかる。
ここはゲームの世界であってゲームの世界ではない。現実なのだ。レベルが上がれば上がるほど次のレベルが遠ざかり、無茶をしようとしてダメージを負えば痛い。死ねば蘇生はできず、セーブもロードもない。そんな世界で生きていれば、多少慎重になってレベリングを断念する人間が多くなるのも理解できた。
そして下級や中級程度のダンジョンでレベリングしてる者にとって、20~30まではそこそこ上がりにくい。俺みたいにハードな狩りができるならともかく、複数人で経験値をばら撒いてる連中はかなりシンドイだろう。かと言ってソロで潜れば危険はパーティーの比じゃない。その悪循環こそが、この世界に停滞を招いた原因だ。
リアルになるとこれだけクソゲーだとは思わなかった。前世の知識があって本当によかったと思う。
「これで最後っと……」
ドロップ品を拾い終えた。あと一分もすれば倒したスケルトン共がリポップするはず。俺はガチャガチャと音を立てる荷物を抱え、足早に部屋を出た。
明日からはもっと奥でモンスターを狩ろう……などと考えながらダンジョンを抜ける。
筋力値が上がったことで荷物の運搬が楽になり、スタスタと疲労を感じさせない足取りで冒険者ギルドに向かう。
本当はさっさと寮に帰りたいところだが、<丈夫な骨>はもう十分に持っているので、本日のドロップ品は全て冒険者ギルドで買い取ってもらう。
公爵家の人間だからね。金には困ってないが、なるべく両親には迷惑をかけたくない。せっかくダンジョンでレベリングできるのだから、自分で金を稼ぐのも悪くないだろう? こっちのほうが遠慮なく使えるし。
人通りの少ない道を真っ直ぐに突っ切る。ダンジョンが近くにあると、たまに中からモンスターが出てくることもあるらしい。なので近くに人はあまり住んでいない。基本的に武装した冒険者か鍛錬にきた生徒くらいだ。なので夕方から夜に変わるこの時間帯は、妙な静けさがあって薄気味悪い。ちょうど不死者なんてバケモノを倒してきたばかりだからね。特に嫌な感じがした。
しかし、俺の恐怖が具現化することはなく、幽霊どころか変態すら出てこない。
耳に届く音だって……
「——れか! けて!」
「ん?」
なにか聞こえた。確実に風の音ではない何かが。
それも声量に込められた感情から、ちょっと嫌な予感がする。
足を止めて耳を澄ませた。すると、今度はより鮮明にそれが聞こえる。
「誰か! 誰かいませんか!? 助け——!」
「っ」
悲鳴だ。女の子の悲鳴だった。
迷わず俺は動く。声がしたほうへ急いで走る。
ジグザグに路地裏の角を曲がり、廃墟が並ぶ建物の奥、行き止まりに彼女はいた。
涙を浮かべる、銀髪の少女が。
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