第6話 魔法の申し子
まさかのヒロイン登場。
びっくりして即座に返事が返せなかった。ぱくぱくと口を開閉させながら、数秒後、なんとか声を絞り出す。
「れ、レア・レインテーナ?」
「そうそう。覚えててくれたんだ。嬉しいねぇ。どうやら改めて自己紹介をする必要はないね。よかったよかった。時間の無駄って好きじゃないんだよねぇ。君はどうかな?」
「えー……と。そう、だな。俺も時間の無駄は好きじゃないね」
「お~奇遇。君とは話が合うかもしれないと思ってたけど、予想通りでラッキー」
「どうしてそう思ったんだ? こんなこと言うのもなんだが……俺と君は初対面のはずだ。正直、俺には君の考えはわからない」
ゲームでの設定ならぺらぺら話せるが、今それを言うとややこしいことになるので知らないふりをする。
すると彼女は、人差し指を立てて「チッチッチッ~」と笑った。
「そりゃあわかるよ~。だって昨日、入学式の後だっていうのに<図書室>から出てくるヘルメスくんを見かけてね。悪いとは思ったけど、少しだけ君とメイドちゃんの話が聞こえてきたんだ~……。——魔法、好きなの?」
「っ」
あの場に彼女もいたのか。
なるほど。レア・レインテーナが俺に声をかけてきた理由がわかった。
彼女は、世間的に有名な魔法使いである。家は平凡で特徴もないレインテーナ子爵家だが、その中で唯一、レアだけは特別だった。
彼女の異名は<魔法の申し子>。
その名が示す通り、主人公と俺を除けば王都一の魔法使いだと言える。
なぜなら彼女は、通常、一人につき一つの属性しか適正を持たない世界で、<神聖>と<闇>を除く基本属性全ての魔法が使える。その数、なんと四つ。
これだけでも天才、神童と呼ばれて然るべきなのに、レア・レインテーナの才能は留まるところを知らない。ゲーム序盤ですでに、彼女は四つの属性の魔法を<中級>まで覚えているのだ。
上達速度だけ見れば主人公より早い。
そんな彼女の前で、魔法の話しをペラペラしていれば、嫌でも目に留まる。彼女はそういう人物だ。平民である主人公と気さくに接していたのも、その性格ゆえ。
だが、今回ばかりは裏目に出たな……どう返すべきか。しばし悩んだ末、嘘はつけず素直に答える。
「……好きだよ。魔法は面白いからね」
「だよね!?」
「うおっ」
答えた途端に同意された。
ぐいっと思い切り顔を近づけられて、宝石みたいなピンク色の瞳がアップで映る。
俺が童貞感丸出しの慌てようを披露するも、鼻息を荒くした彼女はそれに気付かない。なおも口調は激しさを増していく。
「魔法は最高だよ! ヘルメスくんはよくわかってるねぇ。魔法のなにがいいって、魔法以外では再現できない点だよね! 唯一無二な感じがして、いくら遊んでも飽きないよ。むしろ遊ぶたびに新たな発見が増えて、次はどんな事ができるのか悩んだりしない? 本とか読むより実戦で試したほうが対策とか見つかるし。けど、前代未聞の技を習得しようとすると、やっぱりまだまだ僕の技術も足りなくてさ~」
「ストップストップ! 落ち着いてくれレインテーナ嬢。君がどれだけ魔法が好きかはわかった。わかったから離れてくれ! さすがに人目があるところでヒートアップしすぎだ。周りのみんながこっちを見てるよっ」
「あー……えへへ。これは失敗失敗。僕としたことが、魔法の話になると我を忘れちゃう。ごめんよヘルメスくん。ああそれと、僕のことは気さくにレアって呼んでくれ。僕だけヘルメスくんのことを名前で呼ぶのは哀しいだろう? それに、なんだか君とは長い付き合いになりそうな予感がするんだ」
「<魔法の申し子>にそう言われるのは光栄だね」
「ふふ。だってヘルメスくんは、僕以外で初めて見た同士だもん」
「同士?」
「魔法好きな同士。ヘルメスくん以外はいなかったよ~……入学式の後で<図書室>に行った人。つまり、僕と君だけ」
それで興味を抱いて話しかけてきたのか。
意図せずしてヒロインとお知り合いになるとは……なにがどう繋がるかわからないものだな。
「だから仲良くしようね、ヘルメスくん!」
そう言ってレアは手を振りながら自分の席へ戻っていった。
嵐のような怒涛の攻めが終わり、俺は色んな意味を込めてため息を吐いた。
入学二日目にして、計画に問題が発生する。
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