第9話 ジャガーイーモと、金色の秋

(JuggerPotoooooooo and the Growing leaves.)



「やぁ、おはよう。カリフリーグ」


 カリフリーグが目を覚ますと、椅子に座ってジャガーイーモと向き合っていた。


「……拘束具もなしとはな」


「それじゃあ、君を信用したことにならないからね」


「そんなもの、いるかい。私は人類への謀反者だ。今すぐ暴れ出したって、おかしくない」


「……」


 ジャガーイーモは黙って、彼が訊くべき一言を待っていた。


「……なぜ、助けた」


 ジャガーイーモは目を伏せて微笑む。


「……そうしないと、僕の言ったことが嘘になるからね」


「ああそうだったな。罪は忘れられ、やがて許し合えるようになる何度でもやり直せる人々は分かり合える、だったか。よくもまぁ、友を二人も殺したやつに言えたものだ。……今からでも遅くないぞ。抵抗しないでやるよ。もううんざりだ。小さな箱の中で眠っていた方が、まだマシだ」


 カリフリーグはまくしたてるように言った。ぶっきらぼうに、手と足を投げ出して。


「……カリフリーグ、僕は気づいたんだ。贖罪をすれば罪が消えるわけじゃない。だからといって、許しを求める声が蔑ろにされてはいけないと」


 ジャガーイーモは、少し悲しげな眼で彼に訴えた。


「許しだと。いつ私がそんなことを望んだ。そんなこと、誰も望んじゃいない」


 カリフリーグは同情を示すようなジャガーイーモに腹を立てる。


「そうだね、許しとは違うかもしれない。でも君は、君の衝動をまだ信じているのだろう?」


 ぴくりと、カリフリーグのまぶたが動いた。


「……なにを」


「僕と戦っている時、君は言ったね。『やはり素晴らしいな、人の衝動は』、と」


「……」


 反抗的だった彼は、しかし詰まった。


「さぁな、覚えちゃいない。つい興奮して、支離滅裂なことを言っちまっただけだろう」


「君にはまだ、人々の衝動を望む心が残っているんだ」


「……」


 しばし、沈黙。


 カリフリーグは不機嫌な顔のまま、諦めたように溜息をついた。


「……はぁ、わかったよ。その通りだと認めてやる。だがな、だとしてもそれはお前のような聖人君子が人類皆でなきゃ意味がないんだ。誰かが苦しむ様なんて、もう見たくないんだよ」


 ジャガーイーモは少し笑って、カリフリーグの頬をつついた。


「ほらな、やっぱり君はいい奴だ」


「どこが」


 ジャガーイーモは微笑んで、カリフリーグに手を伸ばした。


「共に行こう、カリフリーグ。幸い僕たちは不老不死だ。道半ばで倒れることはない。二人で人類全員を、導いて見せようじゃないか」


「……拒否権はないみたいだな」


「さっきの言葉を信じれば、まぁ僕について来ずとも、自由にしていいけどね」


「ふん、悪いが私にそんな自信はないね。せいぜい首輪でもつけているのがちょうどいい。……以前、君が私達をそう導いたように」


 ジャガーイーモは満足したように微笑んで、仲間と、今後について話し始めた。


「それは結構だ。……ああそうそう、この計画について色々考えてね。まず皆に僕たちの体を食わせる。これを続けて行けば、いずれ食べ物の争いは起こらなくなる。でもこれを繰り返して行くと前と同じになっちゃうから、不死性を失わせる薬も併用していく。それから――」



――二人はしばらくそうして議論していました。


 色々なことを済ませた後、まずジャガーイーモは故郷に帰りました。そこでカリフリーグと共に、自省の為に無償で働くことにしました。


 最初でこそ警戒されていましたが、働き者の二人が誠実に接していくうちそんな恐怖は忘れられ、村の人たちと仲良くなりました。


 村長は何度もえずきましたが、次第に打ち解け、彼女のトラウマも、いつのまにかなくなっていました。そして村の人達全員に愛されるようになり、楽しい時間を過ごせるようにもなりました。


 暫くして、村長が亡くなりました。不老不死の彼らにとって、田舎ののんびりとした楽しい毎日は、本当に一瞬の出来事に過ぎません。


 それから二人はまた、旅に出ます。


 沢山の人々と出会って、色んな問題を知って、その度に解決策を見つけました。


 色んな悪い人と出会い、その度に叱っては、許しました。


 そうやって人々のことを助けていくうち、いつの間にか二人は野菜の王様になっていました。二人の望んだことではありませんでしたが、自分たちの体を食べさせていくうち、皆がそうなって欲しいと願ったのです。王様どころか、神や救世主と讃える者まで出てくる程です。


 そうして事実、世界は二人による独裁政治となりましたが、二人はずっと、自らの神性と王様であることを否定し続けました。自らの正体を明かし、咎人であることを明かしました。それでも尚、二人を否定する者は現れませんでした。それは信仰などではなく、二人がずっと献身を続けてきたことによる、信頼に違いありませんでした。


 二人の築き上げた世界は、大変平和なものになりました。


 動物でもあり、野菜でもある。衝動と無関心が混じり合い、人々は優しい世界、野菜生活を築き上げることができました。


 それからずぅっと幸せな時代が続くのですが、それはまた、別のお話。



おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジャガーイーモと、しょくざいのたびじ にぇば @He6o

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ