第7話 ジャガーイーモと、たっときシシャ

(JuggerPotoooooooo and Deadly Messengers)



 ジャガーイーモ達一行は、すぐさまカリフリーグたちの情報を集め始めた。すると、彼らが様々な事件に関わっていることが分かった。情報を集めるのに、既にあれから3か月ほどが経っていた。


「武器庫強奪、研究者拉致、権力者の殺害並びにその者達が持っている全てを奪取、その他多数……。しかもそのどれも彼がやっていないように見せかけている。仲介役の部下を使ったり、口封じをしたり……情報統制まで徹底しているとは、並大抵ではないな、こいつ。しかも一部の人々からは篤く信頼されているときた」


 クロップクロウは資料を机に投げた。


「だが目的がわからない。金の為にしてはやることが大きすぎるし、支配したいにしてはめちゃくちゃだ。だが何か大きなことを企んでいるのは確かだな。くそっ、僕の記憶がしっかり思い出せれば……」


「それを言っちゃあおしまいさ。とにかく奴のやったことは無差別テロだ。絶対に許しはしない」


「そこが問題だ。あれだけ影響力の大きなことをしたのに、何の声明も出さない。何かを人々に伝えたいわけではない……一体、なにが目的で……」


 ジャガーイーモは資料を眺めるが、頭を抱えるばかりで何も思い浮かばない。手慰みに、ただコーヒーを飲むことしかできない。


「それで言うと気になるところがある。そもそもあの爆弾は何だ。どこから手に入れた。軍と繋がってるとでも言うのか?」


「だとしても、個人にそんな武器を与えると思うか? そうでないとしたら、あれがどこかの国の意思と見るのは少し難しい。あの火山はどの同盟、陣営に目を向けても双方に被害を与えた。あれを攻撃と見た場合、それで得を得る国はどこにも存在しない」


 クロップクロウはぱちんと指を鳴らした。


「……そうか! 彼は極秘に自分だけの軍事基地を作っているんだ! それなら大量の金を求める理由も、秘密裏に行動する訳も、研究者を拉致したのも頷ける。彼は旧時代でも、君と共に研究者の力を借りて大量破壊兵器を作ったのだろう? それと同じさ。奴はまた大量虐殺をしようと言うんだ!」


「待ってくれ。確かにそうだが、理由が分からない。以前は啓蒙の為のテロで、しかも無辜の民を殺しはしなかった……と、これも彼からの情報だが……」


「目的の為なら死を厭わぬやつなんだ。なら、考えるより先に叩く! これだけ情報が出揃ってるんだ、警察も動いてくれるさ」


 ジャガーイーモは、部屋を出て行こうとするクロップクロウを止めた。


「いや待て……これは、僕が片付けるべき問題だ。他の人を巻き込む訳にはいかない」


「何を言ってる? 奴は無差別テロを起こすような奴で、私兵まで抱えているんだぞ! 目的の為なら多少の犠牲は仕方がない。それに、君だって最強というわけじゃない。奴の兵全員で襲い掛かられたら、君など簡単に拘束されてしまうぞ」


 クロップクロウは指を彼の鼻先につけ、厳しく言った。


「しかし……!」


「言ったろ。俺はお前が自分を罰しなくなるまで、何度でも君に優しくすると。それと同じだ。何でも抱え込もうとするんじゃない」


 ジャガーイーモは反省した。また一人で、いや、旧時代の人間だけで完結しようとしてしまったことを。既にこの問題は、この時代の者達のものでもあるのだと。


「……そうだな、すまない」


「そういうことだ」


 二人が部屋を出ようとしたその時だった。


「にゃは~、それは流石に困るかにゃ~」


「っ!?」


 窓に人が現れたかと思うと、数個の手榴弾が部屋に投げ込まれた。


「ぼん」


 ドカーンと大きな音が鳴り、宿屋の部屋はボロボロになった。


「しんだか、しんだか」


「そんな訳ないでしょう。これだからネズミは困ります」


「ふちゅるるるっ」


 宿屋の前の道で、6人の影が立っていた。


「てめぇら……よくも罪のねぇ宿屋を爆破してくれたな……!」


 クロップクロウは頭から血を流しながらも、残骸から身を起こした。


「いきてた、いきてた」


「にゃは~カラスちゃんしぶと~い」


 カリフリーグの親衛隊は、なんとも余裕綽々に構えていた。


「ジャガーイーモが盾になってくれたからなぁ……それでも怪我はしたが、まだピンピンしてるぜ」


「一気に6人もお出ましとは……自己紹介、頼めるかい?」


 ジャガーイーモも、臨戦態勢に入った。


「すっごぉーい、ほんとにリーダーとおなじに再生するじゃーん。あ、私はアプリキャット。よろしくね~」


「我が名はティガリック」


「ラディットだ」


「おらはキュウカンベアだぁ」


「お久しぶりです。既に知っていらっしゃるでしょうが改めて。私の名はエグレファント。こちらのネズミはマウスカットと言います。意思の疎通が難しいものですから、私が代わりに」


「あうあうあー」


「ちょいちょい、エグちゃん長いしかたすぎー」


 とてもこれから殺し合いをしようなどという気配でない軽さの彼らは、クロップクロウたちからしてみると気味の悪さを感じた。


「ご丁寧にご挨拶してくれるってことぁ、話す余地はあるのかい?」


「アハハ! むりむりー!」


「我々としてもどんなに多くても二人で十分だと思ったのですが、何やら我が主は慎重なようでして」


「そんならこっちも助かるぜぇ。纏めて精鋭をぶっ殺せるんだからよォ」


 クロップクロウは頭の毛並みを整え、目を大きく開き威嚇した。


「威勢がいいな。私が相手をしてもいいか」


 ティガリックが前に出て、一対一を申し出た。


「構いませんよ」


「人助けをするような輩がこんなに品が無いとは。聖人らしくなれるよう、剛毅朴訥を叩きこんでやる」


 拳と拳を力強く打ち合わせ、構える。


「アハっ! ティガちゃんあつくるし~。クサいのは体臭だけにしてよね~」


「臭くなどない!」


「むさい話は終わったかい? そんじゃ、行くぜぇ……」


 クロップクロウも戦闘態勢をとり、双方、身を構える。


 睨み合い、後。二人の姿が、一瞬消えた。


「ぬぅ!?」


 次の瞬間、ティガリックが血を流した。

 クロップクロウはすれ違いざまに暗器のナイフを使い、一瞬の内に三度彼を切りつけ刺したのである。


「へ~……」


 アプリキャットはにやにやと彼を見つめた。


「へっ! 恐らく前回の戦いから俺たちが弱いと踏んだんだろうが……大間違いだぜ」

「なにっ!?」


 クロップクロウは瞬時にラディットの後ろに立つと、彼の首を簡単にへし折ってしまった。


「俺は仮にも元正規兵にして、てめぇらの情報を調べてる間戦いのやり方も覚え直したからな……。俺がカラス系だってことを忘れてたか? 狡猾で残忍でお馴染みの種族だぜ!」


「すごーい、あの二人もうやられちゃった! 犬じゃないのにかませ~っ!」


 アプリキャットはうきうきとしていた。


「嬢ちゃん、怪我したくなかったら精々複数でかかってくるんだな」


 クロップクロウは、挑発するように手招きした。


「にゃはっ! ホントはおイモちゃんとやりたかったけど、あんたも面白そうっ!」


「ではアプリキャット、そちらは頼みました。マウスカット、キュウカンベア。我々はジャガーイーモ殿の相手をします」


「あう、あうー!」


「おらの出番なんだな!」


 三人はジャガーイーモに立ち向かい、彼も戦闘態勢をとる。暫くお互いに出方を伺い……そして。


(……来るっ!)


 三人は一斉にジャガーイーモに襲い掛かる。が、


「さぁ来い、相手してや……なにっ!?」


 三人は攻撃ではなく、正面、右横、真上からネットを投射してきた。


「三方同時っ! ならばっ!」


 ジャガーイーモは完全に囲まれる前に腕を引きちぎり放り投げた。


「なげた、なげた」


「っ! キュウカンベア! あの腕を追いなさい!」


「えっ、でも、本体はとらえたど――」


 いつの間にかキュウカンベアの後ろにジャガーイーモが立ち、彼の心臓をえぐり取った。


「おでの……しんぞ……」


 ジャガーイーモは腕の方に本体を移し、そちらから瞬時に再生していたのだ。


「再生能力はカリフリーグ様より上か……!? カリフラワーは収穫に3か月、ジャガイモは4か月かかるのにっ……!」


 エグレファントが驚くのも束の間、続いてすぐさまジャガーイーモはマウスカットの方を殺そうとする。が、即座に反撃され腕と頭部を破壊される。


「あうぐっ!」


(こいつ、ほぼ同時に二撃入れやがった……!)


 ジャガーイーモは一度距離を取るが、すぐさま距離を詰められ残りの手足も砕かれる。


「あうあう、ぐちゅー!」


 マウスカットは歓喜して、腕をぶんぶんと振った。


「よくやりました、マウスカット」


 エグレファントにネットを射出され、ジャガーイーモの四肢欠損した胴体が捕らわれてしまう。


「くそっ、破けない……!」


 体が再生し何とかネットを壊そうとするが、非常に頑丈で全く傷がつかない。


「無駄ですよ。これは我々のP=マン博士が、カリフリーグ様のパワーを基準に開発したものですから」


「拉致された科学者か……! そいつがあの噴火を誘引させた爆弾の発明家か!」


「その通りです。気づいていたんですね。あれが現代の核兵器ではないと」


「あれはあくまで作動実験ってわけか……!」


「そこから先は、カリフリーグ様に直接お聞きになるといいでしょう。……さて、向こうも終わったようです」


「っ!?」


 ジャガーイーモが驚いてエグレファントの視線の先に振り向くと、片腕を失くしたアプリキャットがクロップクロウの首根っこを掴み、べちゃっ、と床に放り投げた。


「にゃは~! すっごく楽しかった~! こんなに楽しめたのはあなたが初めてだにょ~。片腕持ってかれちゃったし、自慢していいよ~?」


「すまねぇ……」


 クロップクロウはぼろぼろになり、血を大量に流していた。


「クロップクロウッ!」


「さて、それでは帰るとしましょう――」


 もはや彼らに抵抗する力は残されておらず、まさに絶対絶命の状況であった。


 その時、空に強く響く嘶きが聞こえた。


「っ! あれは!」


「キャロップ!?」


 ヒヒィンと駆け付けたキャロップは、体中に爆弾を巻いていた。キャロップは、以前の発破作業の際に購入しては余らせていた爆弾を、襲撃と同時にこっそりと馬小屋から抜け出し自分の背中に乗せたのだった。

 

「まずい、あの量の爆弾では網が破られる! 二人とも止めなさい!」


「あうー!」


「へへーん、お馬ちゃんなんて簡単に――」


 余裕綽々にアプリキャットとマウスカットが向かうが、マウスカットは頭を齧られアプリキャットは後ろ足で蹴られてしまう。ぐぇっ、と吐いたのも束の間、アプリキャットの胴体は粉々に砕けた。マウスカットは見るも無残に顎だけを残し、頭部がほぼ完全になくなっている。


「くっ! やむを得ない……! 撤退する!」


 網に入ったジャガーイーモを連れて逃げようとするが、速度を落とさないキャロップはそのままエグレファントに突貫した。


 横から体当たりをかけられたエグレファントは、その衝撃で左の手足が破壊されてしまう。


「くっ、きぃん! ぐっ! ぬぅっ!」


 キャロップはそのままエグレファントを踏みつけ完全に殺そうとするが、残った片腕で攻撃を捌かれあと一歩足りない。とはいえエグレファントも、もはや体力の限界が近づいていた。


「ぐあっ! ならば……道連れにするッ……!」


 エグレファントは、キャロップの体に付いた爆弾の起爆装置に手を伸ばした。


「キャロップ! 逃げろ! 待てっ、よせっ!」


「我が成す魂は、我が成す主と共にありっ……!」


「やめろ!……よせぇぇぇっ!」



――ジャガーイーモの叫びは、空しくも爆発の鳴動でかき消えた。





――ジャガーイーモも爆発に巻き込まれたが、そのお陰で網は壊された。彼は体が再生してすぐキャロップの姿を探した。


 だがそこには、人参の一欠片も残ってはいなかった。


「そんな、そんなっ……! キャロップっ……!」


「ジャガーイーモ……」


 クロップクロウは、何も言えなかった。ただ暫くの沈黙が、続いていた。


 だがその沈黙は、最悪の形で破られた。


「奇襲を仕掛けておいてあっさり全滅とはな。使えない連中だ」


「っ!?」


 カリフリーグが、目の前に現れた。


「貴様っ……! 何故ここに……!」


「なに、部下たちの働きぶりを見に来ただけさ。私の目算が甘かったようだがね」


 ジャガーイーモはすぐさま殴りかかるが、強力な電流を流すテーザー銃を撃ちこまれ、身動きがとれなくなる。


「くぅっ!?」


「君と言えど、電流を流せば数十秒は筋肉が弛緩する。とはいえ、やはり少しは動けるようだな。大したものだ」


 必死に身をよじらせるが、芋虫のようにしか動けない。


「何のつもりだ……!」


「そのカラス君を連れ去ろうと思ってね。君の人質にするにあたって、ちょうどいいだろう」


 クロップクロウは、網で拘束された。


「ジャガーイーモ……! 俺のことは気にするな……! てめぇはてめぇのことを……!」


「ああ、私としても君の行動に制限をかけるつもりはないよ。寧ろ、邪魔をされる前に君とは決着をつけなければならないと思っているからね。……もうじきあれが完成する予定なんだ。その時になったら、私の方から人質を解放しよう」


「カリ、フリーグゥッ……!」


 ジャガーイーモは必死に睨みつけるが、負け犬の遠吠えに過ぎなかった。


「フフフッ、その時が来るまで楽しみにしているといいさ……それではまたな。かつての我が同士よ」


 そう言うと彼はクロップクロウを連れて、ふっとどこかへ消えてしまった。


「くぅっ! ぬぁぁぁぁ!!!」


 一人になった男の慟哭が、廃墟の空に虚しく響いた。



To be continued...→


―――――――――――


設定飼糧


ティガリック Tigarlic

モチーフ:tigerトラ+garlicニンニク


元軍人。最初は慣れないが、くせになる香りがする。



ラディット Radit

モチーフ:radishダイコン+rabbitウサギ


PMSC出身。説明終わり。



アプリキャット Apricat

モチーフ:apricot・cat


このっ……メスネコがっ! ふぅーっ、ふぅーっ! いやらしい体つきしやがってっ……!


戦災孤児だったところをたちの悪い資産家に引き取られ、虐待を受けていた。その資産家をカリフリーグが殺し彼の全てを奪ったことで、彼女もまた引き取られた。


実を言うと、資産家を殺したのは彼女自身である。資産家が殺されそうになっている所をドアの向こうから見ていることがバレ、カリフリーグに連れて来られたのだ。


「さぁ、君がこの銃の引き金を引くんだ」


「や、やめろ、やめてくれぇ! 私がお前をあの廃墟から救わなければ、お前はあそこで死んでいたんだぞ! お前はその恩を、仇で返すつもりか! さぁその銃を私に寄越すか、その男を撃てぇっ!」


 彼女が引き金に指をかけると、男はひぃっ、と鳴いた。


(おとなのおとこのひとでも、しにそうになればこんななさけないこえでなくんだ……かわいい)


 ぱん、ぱん、ぱん、ぱん。


 銃声が響くたび、男は獣のような情けない叫び声をあげた。


 弾が切れた時には男は静かになり、少女は不思議な高揚感で満たされていた。


「よくできたね。よければ私と来るかい」


 今まで恐怖の対象だった大人を、ああも簡単に跪かせた。その事実は、彼女の心を崇拝に傾かせるのに、そう難しいことではなかった。



――数年後。


「にゃはっ! カリフリーグ様、次はだれをころしますかーっ?」


 血に濡れた頬を拭い、アプリキャットは問うた。


「そうだね。次は、私の大切な人の、大切な人を殺そうか」


「にゃにゃにゃっ! それ、すっごくたのしそ~!」


 アプリキャットは主に抱き着くと頭を撫でてもらい、笑顔になった。


―――――――――――


マウスカット Mousecat

モチーフ:muscat+mouse


人体実験で少し頭がおかしくなっていたところをカリフリーグに助けられた。

キュウカンベアと同じ実験場である。



キュウカンベア Cucumbear

モチーフ:cucumber+bear


人体実験で少し頭がおかしくなっていたところをカリフリーグに助けられた。

マウスカットと同じ実験場である。



ピー=マン博士 Dr. P man

モチーフ:ピーマン+man人間


カリフリーグに拉致された科学者。初めは無理やり兵器開発に従事させられていたが、カリフリーグのカリスマ性や現代では考えられない技術力に魅せられ、今では進んで研究に従事している。

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